1ピース

赫羽

第1話

君はすぐにどこかへ行く、まるで猫みたいに。


せめて行き先を教えてくれてもいいのに。



重たい体を無理やり起こしキッチンに足を運ぶ


数日前に彼女を事故で亡くし何もかもがどうでもよくなっていた。


ここ数日大学すら行っていないし連絡すら返していない、携帯に電源が入ってるかすらも分からない。


空気が悪い、少しベランダへ出る。


今はもうすっかり夏で蝉の声がうるさかった、彼女は好きってよく言っていた気がする。


俺の歌も好きだと言ってくれていた、たった1人彼女だけは。


歌うしか能がなかった俺を彼女が見つけてくれて手を引いてくれた。


だけどもう手を引く人は存在しなかった。


彼女が好きだった歌を口ずさむ、すると足にふわっとした感触がした


どうやら野良猫がいたらしい。


頭を撫でると満足したようにその場に寝転ぶ。


「お前も歌好きか?」


久しぶりに喋った気がした、声が少しかすれてるのか喋りづらさを少し感じた


そのまま少し時間が流れた


度々歌うのを辞めると顔をじっと見つめては歌い始めるとまた寝転んでしっぽを揺らしていた。


「俺、これからどうしたらいいかな」


なんて猫に聞いたって仕方がない。


自分でどうするか決めなきゃならない、どうしたものか。


あいつだったらなんて言うかな


と考えているとふと思い出す、


「君の曲が聴きたいな」


唯一好きだと言ってくれてた彼女が自分の曲が聴きたいと言ってくれていた、もう聞かせることは出来ないけれど。


部屋に戻りパソコンを立ち上げる、ドアを開けていたからか猫も部屋に入ってきていた。


「暑かったよな」


ピッとエアコンの電源を入れる。


携帯も電源を入れたが予想通りすごい数の電話やメールが来ていた、これはまずいな。


「なあ、猫さん」


そう呼ぶと目があった


「どんな歌がいい?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

1ピース 赫羽 @ni__l

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る