1―26.皆で王宮へ

 ティアナさんが最初に見つけたものも含めて合計3つの禍津結晶を発見した。

 全て銅級の魔物の棲息域にあったのは想定外だったけど。

 これを埋めた犯人は戦闘が苦手なんだろうね。銅級の魔物の棲息域、それもあまり魔物が出現しない場所にあったから。


「待ちなさい!収納に入れても魔力が洩れ出るのよ?自殺行為だわ」


 集めた禍津結晶を収納に入れようとしたらティアナさんからストップが。

 詳しく聞いてみると、禍津結晶の魔力は他の魔力を透過する性質があるそうで、収納魔法に入れても魔力が洩れ出てしまい直に手で持っているのと変わらないんだとか。

 そんな不思議な性質の物もあるなんてちょっと驚いた。

 でもそれ、転移で移動すれば関係ないよね?


「大丈夫。移動は一瞬だから」


「え?」


 という訳で王宮前に転移。


「アンタねぇ!いきなり王宮の前に転移させんじゃないわよ!」


 ティアナさんに胸ぐらを掴まれた。なんでぇ!?

 いつもなら彼女を諌めてくれるメルフィさんも「転移魔法使えるのは知ってたけど……心の準備させてほしかったなぁ」と遠い目になり、ギルくんまでもが戦闘とはまた違う緊張感を滲ませている。

 王宮ってそんな緊張するところかな?一般人が普段立ち入らない場所だからそういう反応になるのかも。

 僕は家に帰って来た安心感と職場に戻ってきて気を引き締める感じとが心の中で同居してるけど。


「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。こんな夜更けに何用か」


 王宮に入ろうとしたら門番の人に咎められた。

 任務で出入りする際いつも顔を合わせてる門番さんとは別の人だ。この時間に出入りするなんて滅多になかったから僕の顔を知らないんだろう。


「すみません、緊急案件です。こちらの人達は重要参考人ですので同行の許可をお願いします」


「……っ!貴殿が、例の……いや、失礼。簡易な身体検査はしてもらうぞ」


 団員証を見せたらすんなり許可が下りた。

 簡易な身体検査を済ませて魔導師棟へと向かう。

 僕が先導して魔導師棟へと案内する中、メルフィさんが口を開いた。


「私達を同行させるのは、禍津結晶を見つけた経緯諸々説明するためだよね?」


「うん。禍津結晶に関しては2人の方が適任だし、ギルくんも念のため普段出入りしている場所で同様の異変がなかったか詳細を話してほしいんだ」


 無言で頷くギルくんとティアナさん。

 使用人以外誰とも会わず魔導師棟に入り団長室の扉をノックする。

 扉を開けてくれた副団長と最奥の高級そうな椅子に腰掛けた団長が出迎えてくれた。

 筋肉質な腕を組んだ団長が睨むように3人を見やるとびくっと反応する。

 分かる。分かるよ。初見だとより一層怖いよね、団長の顔。

 ギルくんも厳つい顔立ちだけど、その何倍も怖いんだ。


「あんまじろじろ見てやるな、ヴァルク。お前自分の顔怖がられんの分かってるだろ」


「……別に睨んでねぇのに」


 副団長が取りなしてくれたおかげで通過儀礼的な挨拶も恙無く終わり、3人の前へ出て禍津結晶と記録水晶をテーブルの上に置いた。


「北の森の銅級魔物棲息域で禍津結晶が埋められていたことが判明しました。発見したのは彼女達です」


 僕の言葉を皮切りにティアナさんとメルフィさんに詳細を聞く団長。

 ギルくんと僕が出入りしていた金級以上の魔物棲息域では見つけられなかったことも伝えておく。

 副団長は僕らの話を記録していた。


「なるほどな。やはり犯人は戦闘が不得手か。こんな稀少なもん集められるっつーことはバックに貴族がいるな。これを余裕で収集できる資産を保有してるとなると、伯爵位以上か」


「国内の貴族とは限らんのが痛いとこだな……例の組織の関与は?」


「可能性は低い。が、警戒はしておくに越したことはねぇ」


 2人の会話に耳を疑った。


「やはり、って……知ってたんですか!?」


 そこで初めて、僕が実践授業の後に団長に渡した記録水晶で地面に何かが埋まってるような不自然な土の盛り上がりがあったのだと明かされる。

 生徒の保護に無我夢中で気付かなかった。

 記録水晶を確認した後秘密裏に調査し、一度全て禍津結晶を回収していたとのこと。

 全く進展がなかったんじゃなくて進展はあっても僕に報せてなかっただけか……なんで情報を寄越してくれなかったのかと恨めしげに団長を見てしまう。

 その視線に気付いた副団長に呆れの滲む苦笑でデコピンされた。


「あたっ」


「情報回したりなんかしたら、まーたお前1人で全部解決しようとすんだろうが」


 うぅ……反論できない……


「ま、今後はちゃんと開示してやるよ。情報回さなくても勝手に動く誰かさんが下手に暴走しないようにな」


「ぼ、暴走なんてしてないです……多分」


 話を戻そう。

 魔導師団と騎士団が一度禍津結晶を回収した後、再び犯人が場所を変えて埋めたのは明白。

 問題はいつ、どのタイミングで決行したかなんだけど、これには心当たりが。


 魔物を売りに冒険者ギルドへ足を運んだ後、ランツくんの弟くんに絡まれて牢屋に入れられた件のことだ。

 彼と牢番含む数名の騎士が精神干渉系の魔法で操られていた。その後ドレッドさんが助けてくれて事なきを得たけど、もしあの事件そのものが僕らを一ヶ所に留めるための布石だとしたら?


「もしかして、あのとき私達が謎の足止めくらったのって、リオンくんを警戒してたから?リオンくんが報告したことで国が動いて敵さんの目論見が外れちゃった訳だし」


「なるほど、私達を牢屋にぶちこんだ隙に禍津結晶を埋めたのね!してやられたわ……」


 女子2人の発言に眉間のシワを深くする団長。

 副団長はひきつった笑みで僕を見やった。


「つまり、あれか?2度目の禍津結晶が埋められた間接的な原因はリオンだったと?」


「すみませんでしたぁっ!!」


 学園生活始まってから二度目の土下座を披露した。

 まただよ!またやらかしたよ僕!ランツくんのときといい、どんだけ人様に迷惑かけたら気が済むんだよぉぉぉっ!?

 床に額を擦り付けそうな勢いの土下座はしかし、報告義務案件だしそこは仕方ないと副団長に宥められたことで終止符をうった。


「ともかく、ティアナだっけか?北の森の安寧を取り戻してくれてありがとよ。あとウチの馬鹿が迷惑かけてすまん」


「い、いえ、そんな……北の森が元に戻らないと実戦授業ができないし……それに、メルフィが結界を張ってくれなかったら、リオンとギルが助けに来てくれなかったら、私は今ここにはいませんでした。だから、お礼なら私じゃなくて皆に言って下さい」


「そうか。そうだな」


 頬をほんのり朱色に染めてやや早口に語るティアナさんを微笑ましげに眺める団長と副団長。

 メルフィさんも「ちゃんと言えてえらいねぇ」と生温かい笑顔。お姉さんっていうか、完全に我が子を見守る親の目!

 僕の視線に何かを察したのか「え?私お姉さんだけど何か?」的な笑顔の圧力を感じたのはきっと気のせい。……気のせいだよね?


「……で、ソレの処理はどうすんだ」


 どこか重苦しい空気漂う団長室全体がティアナさんの照れ顔でほんわかと穏やかなものになったとき、壁際で足を組んで静観していたギルくんが疑問を口にした。

 ソレ、と目線を寄越した先にあるのはテーブルの上に置きっぱなしになっていた3つの禍津結晶。


「ああ、これか?吸魔きゅうま羽衣はごろもで魔力を空にすんだよ。魔力がなけりゃただ綺麗なだけの鱗の結晶だからな」


 スタンピード発生の恐れがある物をそのまま放置しておく訳もなく、僕も知らない魔道具で対処するという話に。

 メルフィさんが魔力を自分で取り込んだりはしないんですか?と聞くと、魔物の魔力は人間にとって毒に等しく命に関わると副団長が答えた。


 なんなら魔力抜くとこ見てくか?と言った団長の厚意に甘えて見学させてもらう。

 ところどころ繊細な刺繍が施された花嫁のヴェールみたいなものが禍津結晶を包み込み、魔力を吸い取っていく。魔力を吸収していくのがありありと分かる虹色の光沢が美しかった。


「よし、これでもう安全だな。北の森も徐々に正常に戻るだろう」


 魔力を吸収し役目を終えたとばかりに虹色の輝きがなりを潜めた吸魔の羽衣を手袋をはめた手で持ち上げて副団長が言う。

 安全性を確認してホッと一息ついた僕らは話も終わったことだしと帰路につく。


「ありがとう。息子と仲良くしてくれて」


 別れ際、仕事の仮面を外した父さんが連続強盗犯もびっくりな強面な顔を柔く解して落とされた言葉に今度は僕がむず痒くなるのだった。




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