1―16.冒険者ギルド
劇の余韻に浸っている間にも足はしっかり動いており、ようやく冒険者ギルドに到着。
他国では街の雑用が多くて何でも屋みたいな扱いだけど、この国の冒険者は討伐依頼を重点的にこなす。常に魔物を減らし続けていないとあっという間に数が増えてスタンピードに繋がる恐れがあるからね。
だからだろう。出入りする人は見るからに戦闘特化な体格のいい大男と魔法使いが大半だ。
「ここが冒険者ギルド……」
「おっきいねぇ」
「さっさと行くぞ」
僕と同じく初めて来たティアナさんとメルフィさんが感嘆の声を上げた。
ギルくんだけは無感動に足早に行ってしまい、慌てて追いかける。
冒険者ギルドに入った途端にざわついた。
一瞬びくっとして思わずギルくんの背に隠れちゃったけど、冒険者の視線はギルくんに釘付けだ。
「赤狼だ……」
「誰かと一緒なんて珍しいな」
主婦の井戸端会議のようにギルくんを見ながら話す冒険者。
ひそひそ話にしては声が少し大きいせいで内容が丸分かりだ。
どうやらギルくんは冒険者の間では有名人のようで、色んな視線が彼を貫く。当の本人はそんな視線をものともせずに買取カウンターへ歩を進めた。
「冒険者ギルドへようこそ。ギル様もとうとうパーティーを組む気になったんです?」
買取カウンターの若いお兄さんが気さくに話しかけてきた。前半は初めて来た僕らに、後半はギルくんに。
「実戦授業で同じ班なだけだ。買取を頼む」
「ああ、今は学生さんでしたねぇ。ギル様がパーティー組むなんて天地がひっくり返っても有り得ないですもんね。では査定しますのでカウンターの上に魔物を置いて下さい」
僕ら全員空間収納から魔物を取り出してカウンターの上に積み上げていく。
ついでに溜まりに溜まった魔物の山も一気に放出した。カウンターに乗り切らない分はどうしよう?適当にその辺に置いとけばいっか。
「ちょ、アンタねぇ!貴重な素材を床に転がすんじゃないわよ!」
「ティアナ、ティアナ。突っ込み所間違ってるよぉ。見事に金級と白金級のオンパレードじゃん」
「……俺よか狩ってるじゃねぇか」
皆が口々に反応を示す。
授業で狩った魔物かぁ、頑張ったねぇと微笑ましげな眼差しを僕らに送っていた職員さんの顔色が急激に青くなっていく。どうしたんだろ?
「森の浅いところにこんな魔物が……?」
「あっ!いや、その、違います!こ、これは、森の奥、授業以外で討伐したやつで……っ」
咄嗟に職員さんの誤解を解く。
あっぶな。危うく金級と白金級の魔物が学生の活動範囲に大量出没したと勘違いさせちゃうところだった。
僕の言葉を聞いて胸を撫で下ろす職員さん。聞き耳を立てていた周囲の冒険者もホッと息を吐いた。
冒険者は学生が討伐しやすいようにある程度魔物を間引きする役目も担っているんだよね。少しでも不備があったら冒険者側の責任になり得るからその反応にも納得だ。
学生の中には貴族子息もいる。もし貴族子息の身に何かあれば文字通り首が飛びかねない。
森の浅い場所に高ランクの魔物が出没したのは確かだけど、あれは冒険者側のミスじゃないからノーカン。
僕の配慮が足らなかったばかりに寿命が縮む思いをさせてしまった。本当にすみません……
買取カウンターの職員さんは「その若さでこんな凶悪な魔物を大量に狩れるなんてギル様以外で初めて見ましたよ」と多少びっくりしたものの、順調に査定を終わらせた。ちなみにこれ、空間収納に入ってた分の5分の1にも満たない。だってギルドに入りきらないもん。残りはまた今度。
金額がすごいことになってるけど、これほとんど僕が倒した金級以上の魔物の報酬だよね。
へぇ、こんなに高く売れるんだ。売るの初めてだから知らなかった。
身分証を提示して下さいと言われてティアナさんとメルフィさんは市民証を、ギルくんは#縁__ふち__#が金色に輝く冒険者カードを提示した。
「へぇ、金級。どうりで騒がれる訳よね」
「至上最年少で金級まで上り詰めた猛者ですから」
「私達、凄い人と同じ班なんだねぇ」
金級の冒険者はそれほど珍しくないけど、ギルくんの年齢で金級になるのは史上初。だから色んな人から注目されているらしい。
白金級に昇格できる実力はあるけど、ギルくんは「興味ねぇ」とバッサリ切り捨てているそうな。
職員さんとティアナさん達の会話に耳を傾けつつ、縁が白金に輝く団員証と王家の紋章が刻まれた休暇申請許可証を取り出す。
冒険者ギルドや商業ギルドを利用する場合は団員証と一緒にこの許可証を出せってランバルトおじさんに予め言われてたんだよね。
詳しくは知らないけど、宮廷務めの人間が各ギルドを利用するのは何かと問題があるそうだ。でも休暇中なら利用してもいいですよってことでこの許可証が必要なんだとか。
商業ギルドに行く予定はないけど冒険者ギルドにはこれからもお世話になるし、きちんと買取の手順を覚えないとね。
内心そう意気込んで買取カウンターの職員さんを見やるが、何故か笑顔のまま固まっている。
どうしたんだろうと首を傾げているとこの場が異様な静けさに包まれているのに気づいて辺りを見回して、思わず後退る。
ティアナさんやメルフィさん、それにギルドにいる冒険者と職員の全員から痛いほどの視線を浴びていたから。
えっ……えっ??なんで僕こんなに注目されてるの!?
予想外の反応に困惑して反射的に逃げ出そうとしたそのとき、誰かがぽつりと呟いた。
「幻想の魔導師……?」
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