竜を殺す冒険者

Sat

第1話 富と栄誉のために

「タカイ リツくん、君には異世界に行ってもらう」


「い、異世界ですか」


「そうだ、君の人格を持ったまま別の世界で生きるんだ」


 気がついたら光に溢れた空間にいて、そこにいた自称神の少年から「あなたは死にました!」と伝えられる。

 驚きながらも、ラノベで見たことのあるような展開は当然訝しんだが、目の前で魔法を見せられたら納得するしかない。

 タネも仕掛けもない本物の魔法だ。


「ちなみに、わざわざ僕が説明しにきたのはただの気まぐれだよ。最近おしゃべりしてないなって思ったから!」


「それじゃお喋りついでに聞きますけど…異世界に行って何すればいいんですか?勇者として戦うってガラでもないですけど」


 人類の命運を背負って戦うとかはできないです、ごめんなさい。


「普通に生きてればいいよ。強いて言うならその主体性の無さは克服した方がいいかもね!」


…そりゃごもっともですね。


「じゃ、そろそろ時間だね。行ってらっしゃーい」



 ─────



「あれから3年か」


 借家の窓から遠くの風車を眺める。

 ここウェストリア王国南部の商業都市ウィセルは海を見下ろす土地にあり、海の向こうの国や陸続きの隣国との商業の窓口になっている、いわば貿易都市だ。


 とはいえ、そこに住む俺は商人をしているわけではない。


「振り返ってみればあっという間…には感じない、長かった」


 この世界に放り込まれた俺は、なんやかんやありながらもラノベで読んだ異世界転移の諸先輩方に倣い冒険者ギルドへと駆け込んだのだ。


 誰でもなれる職業に講習なんて親切なものはなく、なんとかベテラン冒険者やギルドの偉い人に助けられながら手探りで依頼をこなした。

 大変な毎日だったが、その中で朗報もあった。


 俺にはかなりの剣の才能があったのだ。(たぶん神様がくれたんだろう)


 才能があることが判るというのは大きな前進になるもので、戦い方もすぐに身についたしやる気も上がる。


 そんな調子で、相変わらず主体性のない俺は才能に引っ張られながらも活動し、強い魔物を倒してはランクアップを重ね、今では立派なBランク冒険者だ。

 上からS、A、B…となるけど、Sランクは言ってしまえば例外なので実質2番目だし、Aランクへの昇格もそう遠くはない…けど、


「意外と稼げないんだよな…」


 そう、上から2番目なのに稼げないのだ。


 というのも、冒険者は誰でもなれるがゆえに才能の取りこぼしも少ない。

 実際、Bランクの冒険者と言ってもその数は少なくない。

 そこそこ強い魔物でさえ倒せるやつはたくさんいるのだから、報酬は高くならない。当然だ。


 現代日本人がこの世界でなんとか暮らすに足る生活水準を維持しようと思うと金がかかる。

 ちなみに俺が南部で暮らしているのは薪代と防寒具代がかからないから。


 …そして冒険者生活最大の問題。


 魔物と戦うのはとても痛い、とても苦しい。


 剣のような近距離戦闘だと当然怪我をすることもあるし、毒を持ってるような奴もザラにいる。


 死んだ方がマシなくらいの痛みを感じることもあったが、俺の方が強かったので死ねていない。

 なんだかんだ死ぬのは怖いし。


 …と、剣の才能があるにも関わらず俺の3年間の冒険者生活は苦難に溢れている。

 贅沢を言っているかもしれないが、これ以上は割とマジでキツい。

 ギルドにいる爺さん冒険者みたいな歳になるまであと数十年もこの生活を続けたくはない。

 かと言って他の仕事は知らない。


 そんな俺は一つの考えに辿り着いた。




「…ドラゴンを殺そう」

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