第3話 「邪神」と「悪魔」と「選ばれし勇者」


 (な、何だ? どうしたんだ春風?)


 目の前のクラリッサ達を睨むように見つめる春風の姿に、水音は思わず視線をずらしたが、そんな水音を他所に、


 「はじめまして、異世界より召喚されし『勇者』達よ。私の名は、ウィルフレッド・バート・ルーセンティア。先程、我が娘クラリッサが話した通り、このルーセンティア王国の国王である」


 と、王冠をかぶった男性ーー国王ウィルフレッドは水音達に向かってそう自己紹介すると、それに続くように、隣に座っている女性とその隣に座る少女、ウィルフレッドの妻にして王妃であるマーガレットと、2人の娘であると同時にクラリッサの妹で、第2王女のイヴリーヌを紹介した。


 (本当に、『王様』とその家族だったんだ)


 と、水音がウィルフレッドらの紹介を聞いて心の中でそう思っていると、


 「さて、突然の事で皆、困惑しているようで申し訳ないのだが、どうか我々の話を聞いてほしい」


 と、ウィルフレッドが真面目な表情でそう言ってきたので、水音は「何だろう?」と内心ドキドキしていると、


 「今、この世界は滅びの危機に陥っている」


 と、ウィルフレッドは更に真面目な表情でそう言ってきたので、水音はクラスメイト達と一緒になって、


 『えぇっ!?』


 と、驚きの声をあげたが、ウィルフレッドはそんな水音達に構わず、


 「驚くのも無理はないだろうが、どうか落ち着いてほしい。その理由を説明する為に、少し昔の話をしよう」


 と言って、この「エルード」という世界について話し始めた。


 ウィルフレッド曰く、この世界は500年前、2柱の「邪神」と、その加護を受けた2つの「悪しき種族」、そしてその配下である『魔物』達によって支配されていて、その為に多くの人々が苦しめられていたが、『救い』を求める祈りを受けた『5柱の神々』が現れ、人々に『力』を授けると、共に邪神達に戦いを挑んだのだ。


 そして激しい戦いの末、5柱の神々と人々は勝利し、邪神達は神々によって「力」を奪われた後、地中深く封印され、悪しき種族も散り散りになったそうだ。


 こうして世界は邪神達の支配から解放され、人々は5柱の神々を崇める「五神教会」を設立し、以降は魔物の脅威は多少あれど、平和な時が訪れたのだという。


 ところが長い時を経て、2柱の邪神達は封印から目覚めた。


 それだけでも人々に不安を与えたいたのだが、今から17年前、1人の女性が死ぬ間際に、


 「蘇った邪神の加護を受けた『悪魔』によって神々が滅ぼされる」


 という恐ろしい「予言」を遺したのだそうだ。


 当然、人々は最初、その「予言」を信じてはいなかったのだが、今から数年前、蘇った邪神の1柱が、世界に対して宣戦布告をし、その邪神が生み出した「邪神の眷属」と呼ばれている強力な魔物を世界中に放ったのだ。


 これに対抗する為、5柱の神々は神官達に、別の世界から「勇者」という希望の救世主を召喚する為の秘術「勇者召喚」を授け、現在、その秘術を用いて水音達を「勇者」としてこの世界に召喚したという。


 ウィルフレッドの話を聞き終えて、


 (そ、そんな、僕達が世界を救う『勇者』だなんて……)


 と、水音がショックを受けていると、


 「ふ、ふざけるなっ! 私達はただの教師と学生なんだぞ! 幾らそちらの『神』に選ばれた『勇者』だからって、いきなり『召喚』なんてものをされた挙句、この世界の為にそんな危険な存在と戦えなんて、出来る訳がないだろ! それに、私達にそんな『力』があるとはとても思えない!」


 と、「勇者」の1人である女性が、ウィルフレッドに向かってそう怒鳴った。


 女性の怒りに満ちたセリフを聞いて、


 (せ、先生……!)


 と、水音がジーンと感動していると、


 「失礼を承知で聞くが、其方の名前は?」


 と、ウィルフレッドが女性にそう質問してきたので、


 「爽子です。朝霧あさぎり爽子さわこ。元の世界で、この子達の担任教師をしております」


 と、女性ーー爽子は毅然とした態度でそう答えた。


 すると、爽子に向かって「すまない事をした」と言って、「申し訳ない」と頭を下げた後、


 「其方は先程、自分達には『力』がないと言っていたが、そんな事はない。『勇者』として召喚された時点で、其方達には『勇者』としての素質があるのだ。そしてそんな其方達に、5柱の神々は更に『力』を授けたのだ」


 と言ったので、水音は「え?」と首を傾げると、


 「意識を集中して、『オープン』と唱えるのだ。そうすれば、其方の『ステータス』が見えるようになる」


 と、ウィルフレッドはそう言った。


 その言葉に水音が心の中で「えぇ!?」と驚きの声をあげていると、爽子はウィルフレッドの言葉に従って、


 「オープン」


 と、唱えた。


 次の瞬間、爽子の目の前に、ゲームのウインドウ画面が現れて、そこには爽子の「ステータス」が記されていた。


 そして、ウィルフレッドは爽子に、その「ステータス」の「称号」の欄に、「勇者」がある事を確認させると、


 「さぁ、生徒殿達も自身の『ステータス』を出してみてくれ」


 と、クラスメイト達に向かってそう言ったので、水音はそれに従って、


 「……オープン」


 と、唱えた。


 すると、水音の目の前にウインドウ画面が現れて、


 「……は?」


 そこにはこう記されていた。


 桜庭水音(人間・17歳・男) レベル:1

 職能:神闘士

 所持スキル:[※※※※※][神器召喚][体術][剣術][槌術][槍術][弓術][神闘気]

 称号:「異世界(地球)人」「※※※※※」「職能保持者」「勇者」


 (な、何だよ……これ!?)


 と、自身の「ステータス」を出せた事に驚く水音だが、それ以上に驚いたのは、「所持スキル」と「称号」の欄に、全く読む事が出来ない部分があったのだ。


 しかし、水音はに対して「心当たり」があったのか、


 (これってまさか……の事かなぁ)


 と考えていると、


 「どうかな爽子殿。これで納得頂けただろうか?」


 と、尋ねてきたウィルフレッドに対し、


 「うぐ……で、ですが……」


 と爽子はまだ反発しようとしたので、


 (ああ、先生! 頑張って!)


 と、水音が心の中でそう応援した。


 その時、


 「良いじゃないですか先生」


 と、1人のクラスメイトがそう口を開いた。

 

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