エレナのために
日菜森
第1話 「憧れと決意」
小さな町、エルデンウィル。
そこには、内向的で人と関わることが苦手な少女、エレナが住んでいた。
彼女は自信がなく、子供でも使えるような魔法すら出来ない女の子だった。
父親は魔法飛行船の整備士で、町中の飛行船の点検を行っていた。母親は魔法病院の検査士として、人々の健康を守っていた。兄は魔法BARの店長で、若者たちに大人気。
比べて引っ込み思案なエレナはいつも隅っこでひっそりと過ごしている。
「エレナ!」
元気な声で彼女を呼ぶのはエレナの唯一の友人は、魔法花屋を営むリリー。彼女はみんなのアイドルで、明るく社交的な性格だった。エレナとリリーの性格は真反対だったが、小さい頃からとても仲良しに育ってきた。
エレナは普段、リリーのお店のお手伝いをしている。
「リリー、お仕事お疲れ様」
「エレナもね!」
そういったリリーは冷えた瓶を渡してきた。
いつも仕事終わりには2人で美味しいフルーツジュースを飲むのが日課となっていた。
「はぁーおいしい」
そう言ってリリーはお客様用のベンチに座った。
「今日はたくさん人来たもんね」
「頑張ったよ私たち!そういえば、お隣さんエレナの作った花束すごく喜んでたわよ」
お隣さんは常連さんでよく買いに来てくれている。美容師さんでとてもオシャレな人だ。
密かに憧れていて、お隣さんがいつか着ていた水色のワンピースを勇気を出して買ってみたが、一回部屋で試しに来てみたきりしまわれたままになっている。
今日も冴えない黒のゆったりとしたワンピースだった。
「私なんかが作ったのに、嬉しいな」
「エレナ、貴方の作ったアレンジはとっても綺麗よ?」
「リリーの方がうんと上手いわ、私はそれを真似しただけよ」
いつもリリーは私のことを褒めてくれるが、魔法を使えない無能であることは私が一番知っているのだ。
リリーのお店を後にしたエレナは、村外れの丘で一人静かに本を読んでいた。
このひと時がエレナにとって1番の癒しの時間だった。
その時、風が吹き抜け、エレナの足元に一枚の紙が舞い込んできた。紙は古びていたが、美しく艶めく魔法陣が描かれていた。
エレナがその紙に触れると、突然、紙から眩い光が溢れ出し、彼女の周囲に魔法のドレスショーが広がった。幻想的な音楽が流れ、次々と美しいドレスを身にまとったモデルたちが現れ、舞台を歩き始めた。彼女たちの姿はまるで夢のようで、エレナはその光景に心を奪われた。
モデルたちが身に着けているドレスは一つ一つが魔法によって輝いており、それぞれが独特の魅力を放っていた。エレナはその美しさに息を呑み、思った。なんて綺麗なの。
エレナはその紙を大切に手に取り、家に帰ると決意した。
「私も自分の魔法の力を使って、誰かを喜ばせたい。自信を持って、自分を変えたい。」
そう心に誓ったエレナは、次の日から少しずつリリーのお店のお手伝い帰りに魔法の練習を始めるようになった。
家族はそれを喜び彼女をそっと見守っていた。
しかし、練習の成果が出ず、呪文がうまく発動しないたびに、自分の無力さを痛感し、手が震えた。村の人々の無関心な視線や、時折聞こえる陰口も彼女の心を傷つける。
「エレナなんて、何もできないくせに」
「あんな子が魔法を使ったところで何になる?」という言葉が耳にこびりつき、
胸を締め付けられる。
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エレナは帰り道、いつものように一人で歩いていた。小道の途中にある大きな木の下で、何人かが話をしている。通り過ぎようとした時、そのグループの1人がエレナに向かってニヤリと笑った。
「おい、エレナ。今日もひとりぼっちか?」
冷ややかに言った。
「そうだよね、友達なんていないもんね。」
他の子たちが声を合わせて笑った。
エレナはうつむき、早足でその場を通り過ぎようとした。しかし、女はエレナの腕をつかんで引き止めた。
「待ちなさいよ。どこに行くの?」
目が冷たく光る。
「家に帰るだけだから…」
エレナは小さな声で答えた。
「家に帰るだけ?そんなに急いでどうするの?私たちとちょっと遊ぼうよ。」
嘲笑を浮かべると、他の子たちも同じように笑い始めた。
「遊ぶって…」エレナの声は震えていた。
「最近魔法の練習なんかしてるそうじゃない!
エレナ、君の魔法を見せてよ。」リーダー格の女がそう言うと、他の子たちが囃し立てた。
「そうだ、見せてよ!」「できるもんならね!」
エレナは震える手を胸の前で握りしめた。
彼女の魔法はまだ未熟で、うまくいかないことが多かった。それを知っている彼女たちは、エレナが失敗するのを見て楽しもうとしていた。
「無理だよ…私にはできない。」
エレナは小さな声で言ったが、彼女達はその言葉を聞き流した。
「そんなこと言わないで。ほら、早くやりなさいよ。」
強引にエレナの手を引っ張り、彼女を囲むように集まった。
エレナは仕方なく、小さな呪文を唱え始めた。
だが、緊張と恐怖で声が震え、魔法はうまく発動しなかった。火花がちらつくだけで、何も起こらなかった。
「見た?何もできないじゃん!」
大声で笑い、他の子たちもそれに続いた。
「本当に無能ね。」
別の子がそう言ってエレナを嘲笑した。
エレナは涙を堪えきれず、目を伏せた。彼女の心には、言葉の刃が深く突き刺さった。屈辱と絶望が彼女の胸を締め付け、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「。。。」エレナが泣きはじめると、彼女は冷たく言った。
「また泣き出したわさっさと消えなさいよ」
エレナは一目散にその場から走り去った。背後にはまだ笑い声が響いていた。涙で視界が滲む中、彼女はただ家に帰ることだけを考えた。しかし、その道のりはあまりにも遠く、冷たい現実が彼女の心に重くのしかかっていた。
毎晩、疲れ果てた体をベッドに沈めると、無力感と絶望感が押し寄せ、どうにも涙が止まらない。暗い部屋の中で、自分がどれほど無価値なのかを考える時間が増え、ますます自信を失っていった。彼女は自分の弱さに苛立ちを感じ、何度も挫折しそうになった。
ある晩、満月の光が村を照らす中で、エレナは涙と共に口ずさんだ。「こんな私なんて、いなくなればいいのに。」
そしてエレナはおばあちゃんの願いを叶えるおまじないを思い出した。
おばあちゃん「いい、エレナ。この魔法はね、誰かを助けるために使うのよ。」
そう言っていたおまじないをふとつぶやいてみた。どうなでもなってしまえ、私なんか消えちゃえッッ
すると突然、恐ろしい気配の何かが近づいてくるのを感じた。部屋に閉じこもっていると、ドアの扉がガタガタ震えだす。
怖くなったエレナは窓からそのまま家を出て、町から逃げ出した。逃げても逃げてもその気配はずっと追いかけてくる。
「あっ!!!」
とうとう疲れ果てて躓き転んだ瞬間。
彼女はその何かに呑み込まれてしまったのだった。
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目が覚めると、そこには真っ白なシーツと穏やかな風。
風になびいて、ピンク色の髪が美しく揺れた。
「ピンク色??」
ゆっくりとベットから降り立ち上がる。
近くにある鏡を見て驚愕せずにはいられなかった。
「誰、、、なの?」
そこにはいつもの黒髪と暗い顔ではなく。
ピンク髪に可愛らしい丸い目、ふっくらとした唇とほんのり色づいた頬。
彼女は、全く違う少女になってしまっていたのだった。
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