第4話

僕が光と出会ったのは半年くらい前のことだ。

僕は帰り道にふとそんなことを思い出していた。


今年。桜が開花してきた季節、僕はゲームのためと家に急いでいた。


他の学生は部活。新一年生も部活動体験で帰り道はガラガラだった。

そんな中たった1人、後ろをついてくる者がいた。


去年同じクラスだった陽キャの『金竜光かねたつひかる


ある程度話したことがあるくらいで、別に仲がいいわけでもない。しかも陽キャだ。

僕は逃げるようにして早足で歩いた。


差が開かない……

むしろ差が狭まって……


ドスッ

「ばぁ!!」


いきなりカバンが重くなり、大きな物音がなった。

カバンを叩かれたらしい。

びっくりした……

いつのまにか陽キャと距離が縮まってた。

僕の足が遅いのか陽キャの足が速いのか。

「なぁ、輝斗!ちょっと話して帰らね?」

「……すみません、今急いでるんで」

そう、僕はゲームを待ってるんだ。早く帰ってゲームをしなきゃいけないんだ!

「ちょっとくらい、いいだろ!な!」

「……まぁ、ちょっとなら」

「よし!俺も急いでるし!ちょっとだけっ!」


そう言ってお互い少し早足で歩く。


「今、好きなゲームのイベントがあってさ、もうすぐ終るんだよ!」

ゲーム……??

unisurakihユニスラキってゲームなんだけど、ってさすがにわからないか」

「ユニ?」

あれだろ、10年前のマニアックなRPGだろ?まさか、この歳でやってる人がいるなんてな。

「もしかして、知ってる?」

すごい勢いで聞いてきた。

「もちろん、4年前からやってるね」

「俺、2年前からやってる!なかなかユニやってる人いないんだよね〜。ゲーム操作むずいし」

本当に、そうなんだよな。あまりの難しさにコントローラー投げ出す人もいるって聞くし。

「いや〜今日イベントの最終日だからな〜、俺まだ限定品ゲットできてないんだよ」

「僕はもうゲットしたね」

僕はドヤ顔で言った。結構手に入れるのに苦労した。敵を倒せば手に入る限定品。

「あれ、敵の出現率低すぎ、ドロップ率も低いし。攻略とか見てもすっげぇ高度なこと書いてあるじゃん。あんなん無理に決まってるやろって感じ」

「手伝おうか?」

「え⁈マジで⁈ありがとう!!」


別に陽キャと仲良くするつもりはなかったし、こんなにしゃべるつもりもなかった。

ただ、楽しかっただけ。


この日をきっかけに僕らは帰りに話すようになった。初めて友達ができた日だ。

お互い他愛もない話で笑い合った。ユニの話でも盛り上がった。


光が変わったのはそれから約1週間後だったと思う。

休み明けを境に、光は僕の見えないものの話をするようになった。


「ほらそこにいるだろ?金髪ロングの!」

「だから、どっからどう見たって誰もいないだろ!」

「ほらいるだろそこに!」

「お前、マジでどうしたんだよ!」

「ってか、その見た目で『神』はないだろ!」

「神?お前なんの話してんだよ!」

「あ゙ぁ、2人ともうるさいって!同時にしゃべるな!!」

「だから2人って誰だよ!そこには誰もいないだろ!!」


結局その日はひたすらその会話で終わった。

見えないものとしゃべる光はだんだん嫌われ始めた。光の周りにいた陽キャどもも、いつしか離れ、最終的にはその陽キャどもを中心に、いじめが始まった。もちろん先生も一緒に。


そんなことを、紅葉した木々を見ながら思い出していた。


ドスッ

「おい!話聞いてんのかって!」


いきなりカバンが重くなり、大きな物音がなった。

カバンを叩かれたらしい。

「びっくりした……えっと、なんの話だっけ……」

「お前の進路の話してただろ」

「あ、そうだった、ごめんごめん」

進路の選択のプリント明日提出か。

「で、お前はどうするんだっけ?」

「……まあ、一応、高天原たかまがはら高校にしようかなって思ってる。わからんけど……」

「じゃあ、僕もそこにしようかな」

「お前はもっと頭のいいとこいけるだろ。いいのかそれで?最終決定だぞ?」

「いいよ、それで」

「本当に俺に合わせて後悔しない?」

「ああ、たぶん」

「なんだよ、たぶんってw」


確かに、こいつは面倒だけど僕のたった1人の大事な友達だ。もし叶うことなら、来年も一緒に下校したいと密かに思っている。もちろん光に言う気はないが。

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