その男。弥助なり。

ひろかつ

第1話 村に来たのは

 ドワンは小さな甲殻獣を手に村に戻った。

「暫くは食事に困らないだろう」と、トワンの足取りは軽かった。

獲物は村のみんなで分ける取り決めになっている。分けるのは村長だが、もちろん、獲物を狩った者は優遇される。二人の妻と五人の子供がいるトワンは主としての威厳も守った。主食は芋を練って薄く延ばし、軽く焼いた後に天日干ししたものだが、獣の肉は誰もが楽しみにしている贅沢品の一つでもあった。

村に近づくといつもの静けさはなかった。何やら騒がしく、怒声まで飛び交っているようだ。トワンは足を速め、村長の小屋へと急いだ。そこには見知らぬ者たちが大勢集まっていた。しかも異様に白い肌をしていた。トワンは尋常ではない光景に、腰に吊るしてあった刃物に手をかけた。

大きくしなる刃物は、狩りや野獣の襲撃に備えたもので、村の中でも限られた者しか持つことを禁じらている。トワンはそれを許された数少ない者の一人であった。

 トワンの姿に気がついた村長が彼を手招いた。

「どうしたんですか」

「あ、彼らは遠くの国から来たらしい。労働力を欲しているようだ」と、白髪を長く伸ばした村長が答えた。

「労働力とは狩人ですか?」

「いや。健康で力があれば問題はないらしいが……」と、村長は語尾を濁した。

「それから?」トワンは訊ねた。

「どうやら彼らの国へ連れて行くと言うのだ」

「は?冗談じゃない。俺たちの家はここだ」と、トワンが叫ぶと、隣にいた若く血気盛んなドスールが怒りの表情で白い男たちに立ち向かった。

「寝ぼけたことを言うな。俺らはここで産まれここで生き、ここで死ぬんだ。どこにも行きはしない」と。それに対し、白い男たちは何やら話し込んだが、一人の男に何やら聞いていた。そいつは俺らの同胞のように見えたが、衣服は白い音たちと同じよな物を着ていた。するといきなり、大きな音が鳴ったと思うと、ドスールが胸から血を流し地面に倒れた。白い男の持つ木の枝のような物から煙が出ていた。それら一連の出来事は、村の仲間に動揺を与えるには十分すぎた。しかも、彼らの多くが同じような木の枝を身構えていた。それが武器であることは誰もが理解しただろう。すると白い男が何やら叫んだ。理解できない言葉だが、それを同胞のような同胞ではない男が我々に分かる言葉で伝えてきた。

「これは懇願ではない、命令だ。体力のある者、ちからのある者は連れて行く。断れば彼のようになるだろう」と、横たわるドスールに目を向けた。

 白い男たちの集団は、トワンを含む多くの男たちと、若い村の女たちを選んだ。しかも手は獣のようにロープで結ばれ、前後の男たちと繋がれた。

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