誤解:戦争
「さて、アリシア様。何が言いたいかお分かりですね」
部屋に戻ると、クレアが真っ先に俺の前に立ちはだかった。彼女の目はいつもより一段と鋭い。
あ、そういえば確か焦らしプレイ受けてたな。
勘違いしてたので焦りすぎて忘れてた。
「えーっと?」
「アリシア様……」
一緒に部屋にいたリリィがなんか残念そうな目で見てる。
え、リリィってさっきの会議出てなかったよね?
なんでそんな目で俺を見るわけ。話の流れとか知らないよね。
「リリィどういうこと……?」
「アリシア様……昨日も夜に外出していましたね?」
なぜバレている。
「はぁ……なぜバレているって顔です、クレア様」
「アリシア様、あなたは本当にわかりやすいですね」
リリィとクレアの二人から綺麗に俺の表情を指摘される。
俺のポーカーフェイスがわかりやすすぎだと……?
ここはひとつ、故アリシア流に言い訳でもしてみようか。
「ふふ、そんなにわかりやすいか? まあ、闇の覇者たる俺の計画は、まだまだ序の口さ」
いつもの調子で軽く受け流そうとしたが、クレアの真剣な眼差しがそれを許さない。
リリィの方は厨二病の言い回しが良かったのか恍惚とした表情をしている。あの、リリィ大丈夫?
「アリシア様、ご冗談を言っているわけではないのですよ」
「クレア様……アリシア様は二日前に御父上が亡くなったことを知らされているのです……それを考えても休息が必要かと思います」
「……確かにそうですね。私もこの二日間息を張り詰めすぎていたのでしょう……アリシア様のお気持ちも考えず……」
そういうとクレアは俺の方を振り返って続けた。
「アリシア様、少し外を歩きませんか? そうですね、星見の丘まで行って少し景色でも眺めましょう」
「そうですよ、アリシア様行きましょう!」
リリィも頬を上気させ俺に近づいてくる。
なんだか鼻息荒くない!?
まあ俺は別に息が詰まっているわけでもなければ父が死んだと言われても、今の俺からすればあったこともない他人だ。
だが……まあ外の空気を吸うのも悪くないか。
よく考えてみたらまだ城の外に出てないしな。
「んー、わかった。行こうか」
星見の丘、とはどうやら城下町から少し離れていることから光があまりなくよく星が見えるということで名づけられた丘らしい。
もっとも今は夜ではなく陽が落ちかけの夕暮れ時なので、星は見えなかった。
うーん、夕陽も相まって絶景だな。異世界って感じがする。
「今は……御父上が残した爪痕により静かですが、魔族がまた攻めてくれば、ここから戦場の様子も少し見えるのですよ」
そうだったのか。
もし攻め込まれている最中に転生していたら最悪だったな。
そういう意味では知らぬ父に感謝すべきかもしれない。
「そしてその後方……」
クレアの後に続いてリリィが俺の横にぴったりとくっついて話を続ける。
「国の兵士たちが先の戦の傷を癒しているでしょう」
リリィが指さす方向には確かに野営地のような白いテントがいくつも立っている。
しかしその数もそう多くない。物資が不足しているのが目に見えてわかる。
にしてもリリィ近くない?
「でも、それももうすぐ終わりです」
リリィが俺の方を向くと、その顔は夕陽のせいかわからないがほのかに頬が上気しているような気がする。
え、まってどういうこと!?
言葉もそうだけど態度もどういうことなんでしょうか。
「えっと……?」
「リリィ、どういうことですか? アリシア様に対して……そのようなことをっ」
「どうもこうもありませんよ、クレア様。現状を見れば誰だってそう思うでしょう?」
クレアの言葉にリリィが反論する。
え、ちょっと待って。
なんで二人が喧嘩腰なの!?
影の覇者の配下同士仲良くしてほしいんだけど。
「わかっています! ですが、国を憂う者としてそれは……」
「クレア様の大事なのは国ですか? 私はアリシア様が一番大切なんです。アリシア様さえいれば……」
「リリィ、何を言っているのですか? 今のまま国がなくなればアリシア様も……」
え、ちょっとまって。俺を前に空中戦広げないでよ。
話題の俺がついていけてないんだけど!?
「えーっと、クレアもリリィもちょっと落ち着いてよ。お……私の話をしているのはわかるけど私がついていけてないんだけど?」
「あ……アリシア様、申し訳ございません」
「その、私も申し訳ございませんでした、アリシア様の気持ちを無視して……」
クレアとリリィが謝ってくる。
うん、まあわかればいいんだよ、わかれば。
っていうか気分転換に来たはずなのに重い空気になってんだけど!?
だが俺は空気が読める男(?)。
ここはいっちょ話題でも降ってやるかな。
「ところでさ、魔王軍って……」
「やはり……クレア様ではアリシア様をお守りできません……」
ちょ、ええええ!?
あの、リリィさん!?
今の俺の気持ち無視しないでほしいんだけど!?
なんで蒸し返すわけ!?
「リリィ、その話はやめましょう。私も悪かったです」
「いいえ、クレア様。やはりだめなのです。たとえ国が亡くなったとしても……私はアリシア様を」
その瞬間、リリィが指を微かに動かし、複雑な模様を空中に描き始めた。
何をやっているんだ……?
「えーっと?」
「リリィ、こんなところで何をするのですか!?」
クレアの慌てようが半端じゃない。
どういうこと……と思っている間に急激に眠気が襲ってきた。
これ、もしかして魔法か……?
「ごめんなさい、ごめんなさい……でも愛しのアリシア様を……守るためなんです」
限界はすぐに訪れた。
リリィの言葉と同時に視界がぼやけ、意識が遠のいていく。クレアの驚愕した表情とリリィの恍惚とした表情を目の前に俺は意識を手放した。
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