現状:現状
この時が来た。
私が来た! だったらどれだけよかったことか。それならほら、ヒーローの最強ムーブできるじゃん。まさに今俺に求められていることだと思う。
いや、ある意味では私が来てんだけど。
そう、この場所—―それは男が夢見る桃源郷。
風呂だ。元男の俺としては最高のはずなんだが……違うんだよ、わかる?
女になった自分を見ると違ったんだ。
下着姿で、女性らしい胸と形の良いお尻。男の象徴はなく、まさに俺飲みたかったところが全部見えてるといってもいい。
なのに、俺は頭を抱えた。
鏡の前にいる絹のような金髪に燃え上がるような赤の瞳。前世の俺ならホイホイついて行って案件化すること間違いなしの絶世の美少女も同時に頭を抱えた。だって俺だから。
正直脱ぐまで受け入れられなかった。だが脱いでしまえば受け入れざる得ない。
そして脱いだのに俺は自分の体をみても何も感じなかった。いや、感じなかったわけじゃない。お腹回りすっきりしてて綺麗だなとか、透き通るような肌って本当にあるんだな、見とれちまうぜ。みたいなことは感じたよ?
でも違うんだよ、俺の求めてた感想は「うわ、エロい最高!」これだったはずだ。
なのに……俺は枯れてしまった。マイサン、戻ってこい。
これじゃあチーレム完成してもレムが死んでる。つまりチーだ。チーズじゃねーんだぞ。ザオ〇ク! 頼む復活してくれ、俺の心のレムよ!
「アリシア様……? 泣いているんですか?」
「え!?」
ちょ、な、なんでリリィがここに!?
しかもめっちゃ薄着でタオル抱えていらっしゃるのだが!?
元男である俺にするとめちゃくちゃ刺激が強い。俺より深い谷間が、見えそうで見えないっ。
じゃ、なくて!
「なんでここにいるの!?」
そう、俺が聴きたいのはこれだ。
いやまて桃源郷である、女風呂だ。むしろ歓迎すべき事案ではないか?
何しろ無防備な裸見放題なのだ。しかも俺は今、女でしかも異世界。
ふ、心が男でも通報されないし、通報されても現代日本の法律には縛られない。最高だ。
自分の裸ではダメッ。でも他の人の裸なら……ッ!
勝てる、これで俺のレムは見事に復活の呪文を受け入れてくれるだろう。呪文は『ホカノヒトノハダカ』だ。
「なんでって、いつもやっていることではないですか。それよりアリシア様、大丈夫ですか?」
「え、なにが?」
「いえ、その泣いていたようですので……その御父上のこととかで……」
……素直に違うって言ったらダメか? ダメだよな、さすがに。俺のマイサンが亡くなって泣いてましたとか言えない。
しかも女の子の際どい姿を見てるのに心のマイサンも死んだとか言えない。
「えーっと……その、そうだよ」
「アリシア様……! やはりご無理を……! 今日は私がご奉仕します!」
エ!?
ご奉仕!?
もしかしてそれってR18指定的なアレか!?
まてまてまて、R18はちょっと早いだろ!? どう見てもアリシアはR16だよ! あと2足りてないって!
「アリシア様、脱がせますね」
「え、ちょ、ちょっとリリィ!?」
まって、食われる!
やだ、なにこの子肉食系!?
転生初日に純潔を散らすなんて……ッ!
でもこうなったら俺もやる気よ。
スルスルと脱がせられつつ俺はリリィの体を凝視した。
ただでは起き上がらぬ男(?)それが俺。
「あの、そんなにみられるとちょっと恥ずかしいのですが……」
「恥ずかしがることはないよ、リリィ」
「えっと、アリシア様……? そのどういうことでしょうか……?」
「照れないで欲しいな、君のやりたいことはわかっているよ?」
「え? ええ、まあそのいつものようにお体を流させていただきますが……」
「ん?」
ん?
アレ、なんか違う?
「アリシア様、どうなさったんですか?」
「あ、うん……なんでもない」
そうか、そうだよな。
普通に考えてR15だよな。
クソォォォ!! と思いたいところだったが、その気持ちも薄い。
たぶん転生前の俺なら血の涙を流していたであろう。でも不思議と今の俺は安堵してしまっている。
どうしちまったんだ、俺。心まで女になってしまったというのか……いやでも男が好きとかじゃないし大丈夫だ。
「行きますよ、アリシア様」
そういわれてリリィに手を引かれて風呂へ入っていく。
椅子を用意されて座れば、背中を流される。
王様待遇……さっき不穏なこと聞いたけど、女王ということだし? 別に普通だよな。
しかし背中を洗い終えたあたりからだんだんと前に手が伸びてきている。
えーっと、これって普通なのか……?
女に生まれたことは生まれてこの方初めてだし、王族に生まれたことも、もちろん初めてだ。
いやしかし、これはその、なんというか良くない。
「あのーリリィ……?」
「アリシア様、どうなさいました?」
「その、前は自分で洗おうかなーなんて」
自分で洗うのもなんだか気恥ずかしいけどな!
「気になさらないでください」
「いや! いやいやいや! 気になさるとかなさらないとかじゃなくて俺が気になるの!」
「……俺? ああ、いつものクレアさんがおっしゃっている病気ですか?」
は?
おい、ちょっと待て、俺っ娘……つまり厨二病のことか?
なんで異世界でそんな言葉できてんだよ!?
しかも平然と受け入れられてるって……もう突っ込むのにも疲れる拗らせっぷりだな。
「いや、病気じゃないし、ともかくもういいから!」
そういうと不満そうにこちらを見てくる。
「いつもならもっと洗わせてくれるのに……どうしたのですか?」
「と、ともかく今日は自分でやるから大丈夫! ほら、リリィはもう行っていいよ」
「……アリシア様、ひどいです」
リリィの手の感覚がなくなって俺は振り返る。
そこにいたのは水でスケスケになったリリィの姿であった。
ぴったりとお湯を吸った薄い衣服はボディラインに張り付き、出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。まさに美しい造形のようなボディラインである。
透き通る肌に湯が水滴を張り、それはもう以前の俺なら鼻血を出しながらクンクンしていたに違いない。
なのに俺の心はやはり大きく動かされなかった。
むしろリリィが泣きそうな方に動かされている。バカな、この俺が……この程度で動かされるはず……いや可愛い子だったらあるな。
しかしこれとそれとは別物よ。
「ひどくない! 自分でやるから!」
「はぁ……わかりました。いつもとちょっと違うアリシア様なら全身くまなく洗わせてくれると思ったのに……あわよくば……」
あわよくばってなんだよ……本音、漏れるぞ。
俺は本来喜ぶべきリリィの美しい肢体を見ながら、どっと疲れを感じるのであった。
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