異世界転生したら傾国の王女!?~人類最後の砦の国を最強メンタルで救う~

@honebuto

転生:転生

 白い世界。


 気づけば何もない真っ白の世界だった。目の前に広がる光景に、思わず声を失った。空があるわけでも、地面があるわけでもない、ただ無機質な白い空間に、呆然と立ち尽くしていた。

 ふと目の前にドット絵の何かが現れた。その姿はまるでドラ○エの神父のようで、現実とは思えないちぐはぐな存在だった。


 リアルなドット絵って、なんか不気味だな。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからない。まず、俺は勇者ではないし、なんで死んだことになってるんだ?


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 言い直しても意味ないだろう。


「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 NPCか何かだろうか。

 そんなわけないか、と否定の言葉を口にする。


「……俺は勇者じゃないんだが?」

「そのような些細なことはどうでもよい」


 いや些細じゃないんだが? なぜこんな風に軽く扱われるんだ。こいつ張った押してやろうか、などと考えるが、たかがドット絵である。怒り散らしたところでなんだか滑稽だな。

 そんな気持ちを知ってか知らずか謎の神父は仰々しく手を広げて言い直す。

 ドット絵だからなんだか威厳もないな。


「そのような些細なことはどうでもよい。それよりお前の魂は新たな役割を持つことになる。お前のいた世界とは別の世界で、お前はアリシアという名の女として生まれ変わるのだ」

「え、ちょっと待て、女って……俺は男だぞ?」

「それも些細なことだ」


 というか待て、突っ込みどころが多すぎてついていけない。まず性別って一生の最初の大きすぎる分岐点なんだが。それに俺の魂が新たな役割を持ったって……それはつまり……。

 というか別の世界って異世界ということだよな……?


「ふ、気づいたか。中年よ」

「いや、勇者じゃねーのかよ! かっこ悪いな、中年って! っていうか心の声読んでんのか!? さっきの俺の心の突っ込みは何だったの!?」」


 怒涛のようにまくしたてた中年こと俺は、はぁはぁと思わず肩で息をする……つもりが、息切れすらしていない。そういえば俺……


「うむ。そうだ。勇者よ、貴様は情けなくも鼻の穴に花瓶を突っ込み、そのまま全裸で飛び出す狂人行為を行ったせいで天罰のように車に轢かれて死んだのだ」

「まてまてまてまてまて!! そんなことしてねーよ! 誰かと勘違いしてんだろ!」


 ……つーかやっぱり死んでたのか……。俺の人生……なんか……


「まさにくだらないものであったな。よくわかっているではないか」

「さてはお前は、傷口に塩を塗るのがうまいな??」


 しかしこの謎神父(ドット絵)と話をしていても状況の理解が追い付かない。ここまでを整理すると、どうやら俺は死んでいるらしい。そしてなぜか――


「私が生き返して進ぜよう」


 ――生まれ変わりを指示されている。


「あの、真剣に考えてるところ邪魔しないでもらえる?」

「神に向かって邪魔とは何事よ」


 言われて俺は神父をジロジロと見てみる。うん、まさにドラク○の神父である。しかもドット絵。神様って著作権無視するんだな。


「我を著作権侵害と申すか」


 突然高圧的になった自称神(ドット絵神父)の眉毛が吊り上がる。

 ……まあ迫力ない。


「そこまで愚弄するとは」


 タコのようにドット絵神父の顔が真っ赤になる。

 芸が細かいが、威圧感の薄さはスマホの保護シートの十倍くらい薄い。


「貴様には世界を救うためにチートを与えようと思っていたが……よかろう」

「え、チート……?」


 それってもしかしていわゆるよくあるテンプレ的異世界転生チート的なアレだろうか。

 というかキレ散らかしそうなところからのつながり希薄すぎじゃないか? 水素か?


「そうお約束のチート的なアレだ。好きなものを選ぶとよい」


 そういってドット絵神父が指を鳴らすと、この際どうやって鳴らしたかはもう突っ込まないでおくが、お約束のように目の前に浮かび上がったメニューのようなものが出てきた。

 そこにはこう書かれている。


1. 無限の魔力:どんな魔法も無限に使える。

2. 幻惑の瞳:相手を一時的に魅了し、意のままに操る。

3. 回復の手:触れたものを即座に回復する。

4. 女を撤回:女になって転生するといったがあれは嘘だ。


「お前に与えるのはこの三つのうち一つだ。よく考えて選ぶがよい」


 おい、三つって言ったぞ。何か最後の一つだけギャグみたいな要素が混じってるやつ、なかったことにしてない?

 あ、でもほら、神様も間違えるかもしれないし? バカっぽいし? いや、それはこの際おいておこう。機嫌を損ねたらまずいしな。

 それにしてもチート能力って本当か?

 確かに目の前にあるのは最後のギャグ要素以外は本当にお約束テンプレのチート能力じゃないか。


 うーん、そもそもキレ散らかしそうになってたのに何で突然チート能力あげるとか言ってるわけ?

 精神病んじゃってる系神様か?

 そうだよな、何しろドット絵神父で登場するなんて、精神がイってるとしか思えない。

 あ、なんか神父の眉毛がぴくぴくしてる。でもドット絵だから眉毛あげてるように見えるのが俺の笑いのツボにはまりそうだ。


「ふ、これはサービスである。うむ、そう、私の寛大な心……」


 なんかつぶやいているな。

 まあいい。女になるとかいうちょっと今の俺にはいただけない。


「決めたぞ」

「よろしい、言うがよい」


 いただけない……が、チート能力の魅力には勝てなかった。

 そう、重度のオタクであった俺が選ぶのは……


「1だ!」

「ふむ、1か。よい選択であるな」


 そこまで言ってニヤリと不気味に神父が笑う。


「とでもいうと思ったか、バカめ」


 は!?


「私をさんざん愚弄した貴様にはチート能力はなしに決まっている! ふはははは! その絶望の顔! 愚弄したものの顔にふさわしいわ! ではさらばだ!」


 そういうと自称神(ドット絵神父)は意地汚い笑いをしながら、トンと足を鳴らす。

 すると俺の真下に真っ黒な穴が現れ有無を言わさず俺は下へと落ちていった。


「てめええええ!!!!!!!!!」


 そんな、怨嗟の声とともに。




――――――――

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