夏のヘレン

清瀬 六朗

第1話 夏祭りでへれんに会った

 夏祭りでへれんに会った。

 「薄暗い夕方」ということばから「薄」の字が取れそうな時間だった。

 「へれん」

 「あ、知佳未ちかみ

 とまどっていた。

 わたしはお茶を買おうとコンビニに入って、レジに長い行列ができているのを見て、やめて出て来たところだった。

 へれんは駅から坂を上がって来たらしい。

 二人とも制服を着ていた。

 同じ中学校の制服を。

 自然と、同じほうへ並んで歩く。

 お祭り広場のほうへ。

 きく。

 「講習の帰り?」

 「あ」

 へれんは息が詰まったように言ってから、

「うん」

とうつむく。

 わたしはためらってから言う。

 「今年はもう巡行終わっちゃったけど」

 「うん」

 へれんはもっとうつむいてあいまいに返事する。

 言わないほうがよかった。気詰まりになっただけだ。

 三日間続いたお祭りも最終日の夕方だ。

 まわりは浴衣を着た人たちでいっぱいだ。大人も、子どもも。

 浴衣を着慣れない子どもたちが、着慣れていないことも忘れて走り回っている。

 去年までのへれんとわたしもそうだった。

 浴衣を着ていっしょにお祭りに来ていた。お祭りの最初の日から最終日まで、時間を忘れて、走り回り、写真を撮り、いっしょにいろんなものを食べていた。

 お祭りが終わったら二人とも体重が一キロか二キロ増えていてショックを受け、そのことを話してまた笑った。

 この夏祭りは山車だしの巡行が何よりの見ものだ。

 工夫を凝らした大きな山車がたくさんの大人や子どもに引っぱられて街をめぐる。

 一日めにいくつもの山車がこのお祭り広場までやってきて、二日めの中日はここにとどまり、三日めに帰って行く。

 わたしとへれんは、山車を引くのに加わったことはなかったけれど、いつも、一日めはわたしのところの自治会の山車について広場までやって来ていた。

 最後の日には、その山車についてわたしの家の近所の神社まで帰ることもあったし、別の山車の後ろにくっついて別の街まで行き、途中からお祭り広場に帰ってくることもあった。

 今日はもう山車は帰って行った後だ。神様を祭る「お祭り」はもう終わっている。

 あとは人間が楽しむ祭りのフィナーレが残っているだけだ。

 それはそれで、楽しいし、たくさんの人でにぎやかなのだけれど。

 コンビニの裏がお祭り広場のいちばん外側に当たっている。その広場の外側にも屋台が並んでいる。

 その屋台の照明がまぶしい。

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