二二章 意識させてやる!
「
レッスンが終わったあと、
このあと、とんでもない雷でも落ちるんじゃないか。
あたしはそう疑いながら、
「ローズマリーティーよ」
「心身に活力を与え、若さをたもつと言われるハーブよ」
「じゃあ、
思わず言ってしまったその言葉に――。
ジロリ、と、
「
「……まったく。あなたを見ていると
「
「ふぁいからりーふの
「
「知ってるもなにも、
なによ、それえっ!
そんなこと知ってるなら、最初から言っておいてよね!
「じゃあ、
おとなってなんでこう、変なところで器用なんだろう?
「……本当。一言、多いわね」
「ご、ごめんなさい……」
「あやまらなくていいわよ。それぐらいの神経の太さがなかったらアイドルなんてやっていけないもの」
まるで『お前の神経は登山用のロープ並だ』って言われた気がして、年頃の女の子としては少々、モヤってしまうんですけど……。
「それに、あたしが
「やっぱり」
って、あたし。
あああっ。いまのは自分でも『一言、多い』って気がするわ。
ジロリ、って、
「ふぁいからりーふのデビューを機にトレーナーを引退して、ここに来たのよ。さすがにもう歳で、体力的にもつらくなっていたから」
「とても、そうは思えませんけど」
あたし相手に怒鳴り散らすあの体力。あたしなんかよりずっとタフだとしか思えない。
「あなたひとりを相手にしているからよ。プロのトレーナーともなれば、一日に何十人という生徒を相手にしなくてはならないんだもの」
ああ、なるほど。
「
そ、そこまで言わなくても……。
「だから、まわりに全然ついていけなくて。その差を埋めるためにとくに厳しくしなきゃならなかったから。毎日まいにち大泣きしてたわ」
やっぱり、そうだったんだ。
「べつに信じなくてもいいけど、あたしだってその姿を見て、心を痛めていたのよ。かわいそうだと思っていた。ここまでやる必要があるのかって、自分でも何度もそう思ったわ。でもね」
先生は一度、言葉を切った。ほう、って、息を吐きながらつづけた。
「
「……先生」
「それに、あなたのこともね。
「あたしも⁉」
「ええ」
そう言って静かにうなずく先生の顔は――。
やけに、優しかった。
「あれだけ厳しいレッスンで、あたしに毎日まいにち怒鳴られて、これが原因で学校でイジメにあって。それでも、自分の目的のためにつづけている。その姿には本当に驚かされる。尊敬するわ」
ちょ、ちょっと、やめてくださいよ、先生……。
いつもは意地悪鬼婆なのに急にそんな顔で、そんなことを言われたら……泣きそうになっちゃうじゃないですか。
「はあ~あ。調子、狂ったあ」
なんとか涙をこらえての帰り道、あたしは
「いつも厳しいばっかりなのに、いきなりあんなに優しくされたらどうしていいかわからないわよね」
「あはは、そうだね」
って、
「でも、僕も同じ気持ちだよ」
「えっ?」
「イジメにあっても、親友に裏切られても、決して負けずに自分の道を行く
だから、そういうことをキラキラお目々でまっすぐ見つめながら言うんじゃない! 赤くなっちゃうでしょうがっ!
あ、でも、これは絶好の機会かも。そう。あたしのはじめてをぶつける好機!
あたしはありったけの勇気を振りしぼって叫んだ。
「こ、
「なに、
もちろん、あたしは
「痛い! なにするの、いきなり⁉」
「うるさい、鈍感!」
女の子が勇気を振り絞って名前呼びしたっていうのに全然、気付かずスルーとか、鈍感にもほどがあるでしょうがあっ!
男の子を名前呼びしたのなんて生まれてはじめてだったのに……。
まったく、この中身小学生は!
「決めた!」
「えっ、なにを?」
「
「はあ……」
そう。あたしは心に誓った。
この中身小学生をかえてやる!
絶対の、絶対の、絶対に、あたしのことを意識させてやるんだから!
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