一六章 まるで……彼氏みたいじゃない
こうして、あたしの
学校が終わるとすぐに
それでも、そんな毎日はいままでにない充実感があった。単にスクールカーストでの立場を守るために表面を飾り立てるためだけじゃない。本気でなにかを目指して打ち込んでいる。そのことが我ながら誇らしかったし、そんな挑戦ができることが楽しかった。
そんなときには必ず、
「すごいよ、
「唄って踊る
「本当、すごいよ。
なんて、毎度まいど言い立てるってどういうことよ⁉ そんなことを言われつづけたら顔が赤くなっちゃうじゃない!
これがもし、あたしをその気にさせるためにわかって言っているんだったら、こっちとしてもスルーできるんだけど。こいつときたらキラキラお目々で無邪気そのものの表情と口調で言うものだから……ほんとにもう、この天然無自覚だけは!
そうやってさんざん、あたしの顔を赤くしておいて、さらに追い打ちをかけるのよね。帰りが遅くなれば必ず『家まで送るよ』って言い出すんだから。
「べつに、毎日まいにち家まで送ってくれなくてもいいのに」
「そうはいかないよ。僕が
メガネの奥の目であたしを見つめ、真顔でそう言ってのける。小学生みたいに小柄でひ弱な男の子のくせに、騎士気取りとかカッコ付けすぎでしょ!
ほんとにもう、顔が赤くなりっぱなしじゃない。厳しいレッスンのあとだから顔が赤くなっていてもごまかせるから、まだいいんだけど……。
どっぷり日が暮れたなか、
「あらあら、
って、ママ。なんで娘に『お帰り』の一言もなしに
「いえ。当たり前のことですから」
「まあ、良い子ねえ。こんな子をもててご両親がうらやましいわ」
って、ママは、意味ありげな視線でチラチラあたしを見る。あたしは
――
思わず、心のなかでそう叫んでしまう。
ママと来たらそんな娘の心も知らずに――でなきゃ、知っていても無視して――上機嫌に
「よかったら、夕ご飯、食べていきなさい。多い方が賑やかでおいしいから」
そう言って、強引に
居間に入ると、パパがいつも通りのエプロン姿で料理をテーブルに並べている。その数、きっちり四人前。最近ではもう、明らかに最初から四人分、用意してある。
四人でテーブルについて、
「いただきます」
って、食事がはじまる。
でも、実際にはじまるのは食事ではなく、トークタイム。パパが開口一番、
「今日の
って、尋ねると、
お願いだから、そこまで感動しないでっ!
あたしはもう恥ずかしいやら、照れくさいやら、いたたまれないやら、はたまた腹が立つやらで食事どころじゃない。って言うか、まわりがこんなふうに自分のことで盛りあがっている状況でご飯を食べられる人がいたら見てみたいもんだわ。その人はきっと、神経がお相撲さんの胴体ぐらい太いにちがいない。
それにしてもよ。
――なんで、うちの両親、ふたりそろって
いや、べつにきらうべきだとか、そう言うことを言ってるわけじゃないけど。
――両親公認の彼氏みたいじゃない!
あたしは思わず、心に叫ぶ。『彼氏』というワードに思わず、頬が熱くなる。そんなあたしの顔を
「どうかした?
「な、なんでもない……!」
あたしはそう叫んで、必死にご飯をかきこむ。そんなあたしを――。
ママがニマニマしながら見つめている。
ああ、もう!
腹が立つ!
その一方で、あたしの中学生活には変化が生まれていた。
「ねえ、
「『のび太』じゃなくて、『
あたしは思わず、そう言い返していた。あまりの口調の強さに
無理もないわ。自分だって驚いたもの。そんなキツい声を出したことに。
でも、なんか
あたしはひとつ、咳払いした。口調をせいぜい穏やかなものにかえて
「付き合うって言うのが『恋人として』っていう意味なら全然ちがうわよ。
「
あたしは正直、腹が立った。『なれるつもりなの』って、その言い方に。
――なによ、その言い方。あたしはアイドルになれないって言うの? そりゃあ、なれるかどうかなんてわからないけど、でも……。
「挑戦するのはかまわないでしょ」
あたしは
「挑戦すれば確実に成長する。成長それ自体を人生の目的とすれば、人生に失敗なんてあり得ない。それが、うちの親の方針だしね。なれる、なれないはただの結果。とにかくいまは、
きっぱりと――。
あたしは
あたしの中学生活は一変した。
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