九章 親に会って
「いやあ、めでたい!
「はい、任せてください!
「よく言った! それでこそ、男の子!」
ママはそう言って
我が家の居間はお祭り騒ぎが爆発していた。ママと
いやもう、ほんと、それぐらいま大騒ぎ。当事者のあたしなんてすっかり蚊帳の外。どちらからも相手にされない。忘れられた存在。っていうか、ママと
生まれてはじめて親に男の子の友だちを紹介する。
そんな、一生に一度の大イベント。クールな外見のくせして熱血なママと、あたしを愛しまくっているパパとで、どんなことになるかと思っていたけど……いやもう、しょっぱなからママと
「よく言った! 若者はそうでなきゃ!」
ママはそう言って、たちまち、大騒ぎ。
「『作りたい』じゃなくて『作る!』って言い切るところが気に入ったわ。それだけ、覚悟を決めてるってことね」
「もちろんです! 何がなんでもやり遂げる! その思いがなかったらできることもできませんから」
「おおっ、そのとおり! 頼もしいぞ、
って、言葉使いまで妙なことになっている。
「でっ、ソーラーシステムってなに?」
ママが真顔になってそう尋ねたのは、それからのことだった。
……いや、ママ。せめて、それを聞いてから盛りあがってよね。
とにかく、
ママは腕組みしながら――やけに嬉しそうに――うんうんって聞いていたけどそのうち、どんどん上機嫌になっていって、そりゃあもう、二つ返事でOKよ。あたしが引いちゃうぐらいノリノリでの返事だったわ。
「でかした、
……だから、ママ。初対面の人、誰もが『弁護士さんですか?』って聞いてくるようなクールで理知的なルックスのくせに、すぐに少年マンガの熱血主人公みたいになるのはやめて。ギャップがすごいから。
あたしは思わず、ママに言った。
「ちょ、ちょっとまってよ、ママ! なんで、そんな簡単にOKだしてるの⁉」
「なに言ってるの。OKもらいに来たんでしょう? それなのに、OKもらってなにが不満なのよ?」
「そ、それはそうなんだけど……でも、普通、こういう場合って『夢が必ず叶うならいいけど……』とかなんとか言って、将来を心配するものなんじゃないの?」
「いつも言ってるでしょ。叶うかどうかなんてただの結果。大切なのは挑戦すること。成長そのものを目的とすれば人生に失敗なんてないってね」
それは確かに、小さな頃からずっと聞かされているけど。
「途中で放り出すのは一番、悪い、とかよく言うけど、ふざけんじゃないわよ。それじゃなに? 自分の子どもが最初からなにもしないで一日中、寝て過ごしてたら満足するわけ? バカ言ってんじゃないわよ。三日坊主どころか、一日坊主だって、なにもしないよりは、やった方がいいに決まってるじゃない。どんなことでも行動すればその分、成長する。あんたもそうよ。プロジェクト・
「で、でも、
「そのときはそのとき。道なんていくらでもあるわよ。
やる前から先の心配なんてしなくていいの。挑戦して、挑戦して、自分が登れるだけ高みに登って『もうダメだ』っていうところまで来たらそこから横にずれて、ちがう道に移ればいいだけなんだから。最初から『どうせ、叶うわけないし……』なんて言って、なにもせずにいるよりずっといい人生を送れる。でしょう?」
な、なるほど……。
そう言われてみると、たしかにそうかも。
「それじゃママは、あたしが
あたしが聞くとママは『ふん!』とばかりに胸を張って答えた。いや、だから、『お堅い弁護士』なルックスでそういう態度をとられるのは……。
「もちろんよ。大賛成。お金の心配ならいらないわよ。レッスン代ぐらい、出してあげられるから」
レッスン代か……。
そうよね。中学校のダンス部とはちがう。仮にもプロになって、ファンからお金をもらおうって言うんだもの。いままでとは比べものにならない厳しいレッスンをしなくちゃいけないし、そのためには先生につくなり、スクールに通うなりしなくちゃいけない。その分、お金だってかかるわけよね。その難点があっさりクリアできたらしいのはよかったけど……。
――そう言えば、レッスンとかどうなってるんだろう? なにか、あてとかあるのかな?
肝心なことをまだ、なにひとつ聞いていないことにいまさらながら思い当たった。まあ、まだ承知したばっかりで親の許可をもらい来た段階だから具体的なことをなにも聞いてなくても仕方ないのかも知れないけど、
――やっぱり、一応のことは先に聞いてから返事するべきだったかな?
あたしはふと、そう思った。
あれだけ熱心に起業や、アイドル業界について勉強してたんだからなにも考えてないとは思えないけど……。
あたしはチラリと
なぜかと言うと、うちのパパが
「……うう。娘が一緒に風呂に入ってくれなくなったとき『人生にこれ以上の悲哀はない!』と思った。しかし、ちがった。そんなものはまだまだ甘いものだったと、娘が自分の入ったあとの風呂には入らなくなったときに思い知らされた」
……だから、パパ。よその人にそういうことを言うのやめて。ひたすら、恥ずかしいでしょうが。ふたつの意味で。
「しかし、それすらも、いまから思えばハチミツ漬けの砂糖菓子のように甘いものだった。娘が親元から巣立つ日がこんなにも強く、悲しいものだとは……」
いや、あのね、パパ?
今日、
「娘はアイドルになる。それも、世界を照らす
って、パパは両手を広げて天を仰いでみせる。
あっ、よかった。一応、今日の話の内容は理解してたんだ。
それにしても、毎度まいど大袈裟なパパのこの態度。あたしとママは慣れているからいいとしても――ママなんて『まっ、いつものことだしね』って感じで、平気な顔でお茶なんて飲んでいる。こういうところは『冷徹な法律家』に見られるぐらいクールで理知的な外見にピッタリくるのよね。でも、
そう思って横目で
「だいじょうぶです、お父さん!」
そう叫んでパパの手を握り返す。
いきなり『お父さん!』なんて呼ぶな!
「
「うん、その通りだ。よくわかっているね、
「もちろんです。
「よく言ってくれた! それでこそだ」
そう言って、パパと
いやいや、待ってまって。なんか、感動的な光景になってるけどそれ絶対、ちがう話になってるでしょ!
心のなかで叫ぶあたしに向かい、ママがチラッとクールな視線を向けてきた。
「よかったじゃない。すんなり嫁入りが認められて」
だから、ちが~う!
あたしは『
疲れた!
家を出た途端、どっと疲れが全身に襲ってきた。それこそ、デッカいお城ひとつが丸々、背中に乗っかってる感じで、とにかく体が重い、だるい。思わず、うなだれて歩いてしまう。
そんなあたしの横で
「いやあ、理解あるお母さんでよかったね、
「いきなり『お母さん』はやめて!」
「えっ、なんで?」
怒鳴るあたしに、
「そ、それより、これからどうするの? ただ『
「うん。
「
「そう。ソーラーシステムを作るからにはやっぱり、ソーラーシステムというのがどういう場所が知っておいてもらわないとね。
「ちょ、ちょっとまってよ!
「そうだよ。ふぁいからりーふは
「岐阜から神奈川まで行くの⁉ ……ふたりっきりで?」
「だいじょうぶ。僕はもう何度も行ってるからちゃんと案内できるよ。交通網も整備されてるから意外と時間もかからないしね」
そういうことを言ってるんじゃない!
ああもう、この無自覚なんとかして!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます