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「何故、入れないのか!!!いつもの通い慣れた街道が、なぜこんな林の中に続くのだ!!……父王よ、平和にかまけて些細な箇所の整備を怠ったか!!」
翌朝。
少し遠巻きにローランド城が見える林の中で、ひとりの戦士が道に迷っていた。
「そして、貴様ら!!!」
大きな袋を手に、周囲の人影を指さす戦士。
その『周囲』には……
「独り相手に寄ってたかって!!俺は今、猛烈に困っているのだ!!さっさと道を開けろ!!」
野盗が戦士を囲んでいた。
「お前……馬鹿か?野盗が退けと言われて獲物を諦めると思うか?」
「思う!!だから言ったのだ!!」
「お、おぉぅ……。とりあえず、その大きな袋、置いていけば許してやろう。」
「無理だ!!この中には路銀と食料が入っているのだ!!それに俺は貴様らに許しを乞うような悪事を働いた覚えはない!!」
あくまでも我を通そうとする戦士。
その、話の噛み合わなさに、野党グループのリーダーも苛立ちが頂点に達する。
「だからーー!!俺たちはそんな路銀や食料を略奪するためにお前を囲ん得るんだよ!!!」
目的を明確に戦士に伝える。
「な……んだと!?」
この時ようやく、戦士も野盗たちの思惑を悟ったらしい。神妙な顔で間合いをを保つ。
(こいつ……絶対バカですよ?)
(だよなぁ……。最初から、荷物よこせって言ってるしなぁ、俺達。)
野盗たちが口々に戦士について話し出す。
「黙らんかバカ者!!作戦会議なら他所でやれ!!!」
そんなひそひそ話に、戦士も怒りを露にする。
「え?えぇ……?」
「作戦会議は、しても良いんだ……」
戦士との会話に違和感しか感じない野盗たち。
「面倒だ、お前をボコボコにして、荷物をもらっていく!!」
業を煮やした野盗たちは、それぞれに武器を持つと、戦士を囲む輪を狭めた。
「ほら、さっさと武器を抜かないと、死んじまうぜ?」
野盗たちが武器を構えながら、戦士に言う。
その視線の先に、戦士が背負った巨大な斧。
「その獲物は骨董品か何かか?抜かないという事は使えないという事だろう?一体いくらで売れるのかな~?」
リーダーが、戦士を冷やかす。
「ふむ……国宝級の斧だからな。1000万G(ゴールド)は軽いだろう。」
戦士も、正直に質問に答えてしまう。
その答えに、野盗たちの目の色が変わった。
「そんな斧なら俺たちが大切に預かってやる。さぁ、よこしな。」
もう、野盗たちは1歩踏み込めば戦士を攻撃できる、そんな距離まで近づいてきていた。
「貴様は馬鹿か?……せっかく王より賜った国宝級の斧を、名も知らぬ無礼者に渡さなければならんのだ。……それに、この斧はお前たちには絶対に扱えん。」
恐怖もなく、戦士は要求を蹴り、さらに反論までしてしまう。
「面白いやつだな……。構わねぇ、やっちまえ!!!」
戦士の態度がよほど気に入らなかったのだろう。
リーダーは逆上し、野盗全員に対して声をあげる。
それと同時に野盗たちは、自分たちの得物を戦士に向かい振り下ろした。
「だから、お前たちは『バカ』だというのだ。」
本来なら一瞬で血まみれの肉塊となるはずだった戦士。
しかし、次の瞬間、倒れた野盗たちと、顔面血まみれになったリーダーがそこに居た。
「ど、どうして……。」
顔面に強い衝撃を受けたリーダーは、何が起こったのか分からないまま、地面に放り投げられていた。
足を掴まれた、そして顔面に強い衝撃を受けた。
ただ、それだけしか記憶にないのだ。
「まさか……リーダーを片手で振り回すなんて、あり得ない……。」
気を失わずに倒れていた野盗のひとりが、朦朧とした意識の中でそう、声を振り絞った。
そう、戦士は左手に装備していた小さな盾では全員の攻撃は防ぎきれないと瞬時に理解し、戦士を囲む円の『いちばん内側に居た人物』の、その踏み込んだ足を掴んで片手で振り回し、集団を撃退したのだ。
「て、テメェ何者だ……。」
そのあり得ない反撃に、そしてその規格外の力に、思わず野盗のひとりが戦士の正体を問う。
「私は、ローランド……」
「……答えるのかよ!!」
「私は、ローランド王国の王子。グスタフだ。私のこの目が黒いうちは、ローランドの領土で悪事などさせぬぞ!!」
また、戦士は野盗たちの質問に正直に答えた。
「お、王子様……!?」
「や、やべぇ奴に、いやお人に手を出しちまった……。」
「俺達……全員死刑?不敬罪、だよな……?」
グスタフの正体を知った途端、一様に青ざめる野盗たち。
「俺達……これでも故郷に家族を置いてきているんです。だから……お願いします死刑だけは!!」
先ほどの威勢のよさはどこへやら。
リーダーが地に額をこすりつける様にして、グスタフに詫びる。
「うむ……では、お前たちにひとつだけ頼みがある。」
「は!!……何なりと!!」
野盗たちは一様に頭を下げてグスタフの『頼み』を聞こうと耳を傾ける。不敬罪を見逃す代わりの頼み事。野盗たちはどんな事を頼まれるのか、正直気が気でなかった。
「……ローランド城へ案内しろ。」
「……へ?」
そう。
グスタフは、道に迷っていた。
遠巻きに城が見えるところまで近づいては来ている。
しかし、どうしてもたどり着かないのだ。
「そ、そりゃ……お安い御用です!!」
野盗たちは、グスタフに『自分の家だろう』と言いたくなった気持ちをグッと押し殺し、元気に返事をすることでグスタフに答えた。
「まったく……これほど街道と林道が複雑では、交易商たちが困るではないか。帰ったら親父に文句を言ってやろう。」
ブツブツと愚痴をこぼしながら、野盗の後ろをついていくグスタフ。
しかし、野盗たちは一様に同じことを考えていた。
「街道も林道も……本当にシンプルな分かれ道がある程度なんですけど……。」
野盗たちがグスタフに合流したのは、1本道の林道。
そして、グスタフはその林の中より姿を現した。
つまり……。
グスタフは、道など歩いていなかったのだ。
「おぉ……本当に近づいてきたな。」
「本当も何も……真っ直ぐ歩いてきただけなんだけどな……。」
ようやく、城が眼前に迫ってきた。
「……ご苦労だった。ここで良い。世話になったな。」
そして、グスタフはほんの数刻前まで自分を襲おうとしていた野盗たちを懲らしめ、道案内に使い、そして礼まで言うのであった。
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