脱走2

 夜になりました。

空は綺麗に晴れ渡っています。

いよいよです。


私の部屋は窓から裏口の門が見える位置にあります。そして先ほどロミさんが周囲を警戒しながら門に近づき、こっそりと鍵を開けているのを確認しました。


ロミさんはその後、この部屋を一瞬見上げて軽く一礼してからそそくさとその場を立ち去りました。

私はそれを見て感謝で胸がいっぱいになりました。


それと同時にここから去ることが急激に寂しくなりました。


慣れ親しんだ場所から離れることが、というよりもロミさんと会えなくなることがとても寂しいです。


そんな私の気持ちを察したのか、バウワウがにゃーにゃー鳴きながら足に擦り寄ってきました。


私はしゃがんでバウワウの頭を撫でながらなるべく落ち着いた口調になるように心掛けながら言いました。


「準備はできたの?」

「僕には準備するものなんかないから。アルマは随分とたくさん荷物を持っていくんだね。人間って大変なんだねぇ」


「他人事ね。この中には当分の間のあなたのご飯も含まれてるのよ。もっと感謝してもいいんじゃない?」


「アルマ様万歳。よっ、この国一の美女。肌綺麗。笑顔が素敵。意気地なし。優しい。飯がマズい。そんなアルマに僕は日頃から感謝してるよー。いつもありがとー」

「あら、素敵な感謝の仕方ねこの野郎」


「あ、こら! やめろアルマ! 僕のヒゲを弄ぶな! にゃああ!」


前足をバタバタさせて抵抗するバウワウの姿を見ていたらなんだか気持ちが楽になりました。


「ふふ。長い旅になるかもしれないけど、これからよろしくね」


私はヒゲを指先でくるくるするのを止め、改めて相棒にそう伝えました。


「こちらこそ。それじゃ、遊んでないでそろそろ出発しようか」

バウワウはドアの方に歩いて行きながら答えました。


私は真剣な顔で頷くと、荷物を詰め込んだリュックを背負いました。



 それから何事もなく裏口の門まで辿り着くことができました。

夜中に外に出ることなんて何年振りでしょうか。

私は高揚感で体が熱くなるのを感じました。


周囲に人の気配はありません。

チャンスです。


私は音を立てないようにゆっくりと門を押しました。

そしてふと鍵のところに紙が紐で巻き付けてあることに気づきました。


紐をほどいて紙を確認してみると、そこには旅をする上でのアドバイスなど、今後役立ちそうな情報が色々書かれていました。

きっとロミさんです。


私はそれを大切にリュックの中に仕舞い込むと、一度教会の方を振り返りました。


そして勝手に出て行くことについての謝罪と今までの感謝の気持ちを込めて深く深く頭を下げました。

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