魔力欠乏症

「これ、抜群にうまいですね。はまぐりの酒蒸しなんて初めて食べましたよ」

「そうでしょう。あさりとはまた違ったうまさがありますよね」

「個人的には、こっちの方が好みですね」

「まあ、結構いいお値段しますから、めったに頼めないですけどね」

「確かに」


ハマグリの酒蒸し。

大味なのかと思ったら全くそんなことはなく、食べ応えがあって旨みが凝縮している。

ただ、日枝さんの言うように値段はアサリの酒蒸しの数倍している。

サラリーマン時代ならまず頼めなかったと思う。


「それはそうと花岡さんはどうしてこのタイミングで防衛機構に?」

「ただ単純に、この歳で奇跡的に魔法に目覚めたからですよ」

「本当にそうなんですか⁉」

「はい、目が覚めたら突然」

「そんな事あるんですね。ちなみに独身彼女無しとのことですが、それも本当ですか?」

「恥ずかしながら本当です」

「そんな事があるんですね。世の女性は見る目がないのか、花岡さんのお眼鏡にかなう女性がいないのか」

「いや、いや、いや」

「そういえば、花岡さんの隊の小谷さんとかどうなんですか? 仲良さそうに見えましたが」

「いや~どうですかね~」


美味しい料理に雰囲気のいいお店。久々の冷酒に舌鼓をうちいい気分になっているところ日枝さんが突然斬り込んできた。


「あ~花岡さんなら湊隊長なんかもお似合いじゃないですか?」この前は抱き合っていましたよね」

「いや、あれは抱き合っていたわけじゃなくて」

「そうなんですか? まあ花岡さんなら特例認められそうですし一人に絞る必要もないですか」

「特例ですか?」

「はい、重婚特例です」

「ブッ、重婚⁉」

「こんな世ですから優秀な遺伝子は出来るだけ多く残す必要がありますからね。花岡Jrが待ち遠しいですね」

「いや、いや、いや、相手がいませんから!」


日枝さんが酔ってしまったからかとんでもないことを言い出した。


「それはそうと花岡さんって、治癒魔法とか使えたりしませんかね」

「治癒魔法ですか?」

「はい、花岡さんくらいの魔法使いなら寝たきりの人とかパ~ッと治せたりしませんかね」


治癒魔法?

学校の授業によると、この世界に治癒魔法というのはないはず。

魔石由来のポーション的なものが僅かに出回っているだけだったと記憶している。

日枝さんがその事を知らないとは思えないけど、冗談を言ってる感じでもない。


「残念ながら使えないです。教本にも載ってなかったと思うんですが」

「そうですか。それは残念です。ただ、ここだけの話ですが治癒魔法はあるそうですよ」

「え⁉︎」

「魔族は治癒魔法がつかえるそうです」

「魔族ですか」

「まあ、私も実際に使っているところは見たことないんですがね」


魔族が治癒魔法を?

そんな話はじめて聞いた。


「花岡さんは魔力欠乏症というのをご存じですか?」

「魔力欠乏症ですか?」

「はい」

「いえ、聞いたことはないような」

「花岡さんの逆です」

「逆ですか?」

「はい、突然魔力に目覚めるんです。マイナスの方向に」

「マイナス?」

「ええ、魔法を使わなくても常に消費し続けている状態と言えばいいんでしょうか」

「それはどういう」

「常時、魔力を補充しないと普通の生活は送れないんです」

「魔力の補充ですか」

「はい、今のところ魔石くらいですかね。どうにかそれに充てる事ができるのは。花岡さんくらい規格外の方だとどうにかできたりしないかなと、ふと思ってしまった次第です」

「すいません、そんな病気があること自体聞いたのが初めてで」

「いや~ちょっと知り合いにそんな人がいたんで聞いてみただけです。気にしないでください。さあ、飲みましょう」

「はい」

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