プロヒーロー
「俺も、こんな歳でまだまだ駆け出しだし偉そうなことを言える立場にはないんですけど、お金もらって世の中の役に立ってるってプロヒーローっぽくないですか?」
「はい」
「誰にも知られてないけど、俺も市川さんもプロヒーローです。本当に無理なら即逃げた方がいいとは思うんですけど、まだ早いんじゃないかなぁ」
「花岡さんの事はみんな知ってますけどね。まあ、うちも再生数はそんなでもないけど配信ありますし」
「そうでしたね。じゃあ、みんなも知ってるヒーローですね。市川さんの場合はヒロインでしょうか」
「ふふっ、そんな風に考えたことなかったです」
この場に来て初めて市川さんの表情が少しだけ緩んだ気がする。
俺の言葉に何か意味はないかもしれないけど、だれかと話をするだけでも重しが取れる事もあるかもしれない。
「プロヒーローって言いながら、まだ給料出てないんですけどね」
「そうですね。今はそれだけが楽しみで。パ~っと使わないとやってられないです」
「まあ、初任給はそんなにないかもですけど」
「これで事務職と同じだったら本当に辞めてやります」
「ははっ」
「花岡さんは、お給料出たらやりたいこととかありますか?」
やりたいこと……。
う~ん、そういわれると何も思いつかないな。
無趣味と言われればそれまでだけど、今はやりたいことが仕事でできてるんだと思う。
そう考えると、俺って幸せ者だな。
「やりたいことは特にないですね。今の所欲しいものとかもないですし」
「花岡さんらしいですね」
「恐縮です」
「ふふっ、花岡さんと話せてよかったかも」
「それは恐縮です」
「私も単純なのかな。プロヒロインもう少し続けてみてもいいかな」
「いや、でも本当に無理なら、即逃げてくださいね。危険も伴う仕事ですし」
「わかりました。即逃げですね。その時は花岡さんに指南されたことにします」
「はは……」
そこから、他愛もない話を続けていると、市川さんの表情もだいぶん明るくなってきた。
「それじゃあ、今日はパ~っと飲みましょう」
「はい、飲んで楽しいこと考えましょう」
「じゃあ、花岡さんもビールでいいですか?」
「いや、俺は……ビールで」
飲まないつもりだったけど、この雰囲気で飲まないのもあれだし、一杯だけ市川さんにお付き合いさせてもらおう。
「かんぱ~い」
いつも酎ハイなのでビールは久しぶりだ。
久しぶりに飲んだビールはやっぱり苦かった。
苦かったけど、市川さんは少しだけ切り替えが出来たみたいでよかった。
恥を忍んで話した俺の厨二話も無駄ではなかったかな。
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