前任者

「聞いていいかどうかわからないけど、俺の前任の人って……」

「あ~木本さん」

「その方は……」

「りんたろ~が来る1ヶ月くらい前に亡くなっちゃったの」

「やっぱりそうだったんだ。ダンジョンで?」

「うん、今残ってるメンバーとはちょっとキャラクターが違ってて自信家の人だったんだけど、11層でモンスターにね」

「そうなんですね。やっぱり11層ともなると危険は避けられないんですね」

「う〜ん、4層でも気を抜けば危ないのは変わらないんだけど10層を越えると上級魔法でも厳しいのが出てくるから」


後藤隊の上級魔法でも厳しいモンスター⁉ 

想像もつかない。

俺なんか何の役にもたてないかも。


「でもね〜木本さんがあ〜なったのは、1人で突っ込んで行ったからなんだよ」

「1人で突っ込んでいった?」

「うん、戦い方のタイプとしては湊隊長に近かったんだけど、魔法を放ちながら近接もこなしてた。実力は後藤隊で2番目だったんだけど連携が取りづらいタイプでね」

「そうなんだ」

「あの日は、木本さんいつも以上に配信を意識してたから」

「配信⁉︎」

「そう、配信」

「モンスターとの戦闘中に配信意識?」

「そう、それも、ものすごくね」


モンスターを相手にしながら配信を気にするとか、そんな事があるのか?

実際にダンジョンに潜ってみて、俺にそんな余裕はない。

ゲームじゃないんだし、他の事に意識を割いてる場合じゃない。

ある意味、木本さんには余裕があったという事だろうか。


「世の中には自分が注目を集めたい人もいるの。木本さんはそういう人だったの」

「そうなんだ。俺にはない感覚だなぁ」

「注目を集めると、お給料増えるのもあるけどね〜」

「ああ、インセンティブか」


視聴数が増えるとインセンティブも増えるから注目を集めたいというのはわからなくはない。

ただ、前任者が階層は違えど同じダンジョンで亡くなったと聞くと意識するなという方が難しい。

防衛機構に入るのを決めた時点で覚悟はある。

あるけどやっぱり死にたくはない。


「まあ、でもりんたろ~はだいじょうぶじゃないかな~」

「大丈夫ですか?」

「うん、木本さんみたいに一人で突っ込んでいくタイプでもないし、この前ゴブリンキング一人で倒しちゃったし」

「そうかな」

「ゴブリンキングが大丈夫なら、11階層も大丈夫だよ〜」


どうやら不安が顔に出てしまっていたらしい。

凜がフォローしてくれるけど、11階層なんか俺にとっては、ほぼ異世界のようなものだ。

今すぐどうこうできるとはこれっぽっちも思ってないけど、後藤隊に所属している限り、いつの日か俺も。


「りんたろ〜って妙に控えめっていうか心配性というか、そんなところあるよね〜」

「そうですか? 自分ではそんなつもりはないんだけど」

「う〜ん、りんたろ〜、りんたろ〜は強いんだよ。たぶんりんたろ〜が考えてるよりずっと強いよ」


凛、なんて優しいんだ。

俺が単純なのか凛みたいな子にそんなこと言われたら本当に強くなった気がしてくる。

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