第29話 恋バナ
「花岡さん、あれですね」
別所さんが差した場所には紙が置かれていた。
確認すると紙には『戻るまでが試験です。気を抜かずに頑張ってください』と書かれていて北王地さんの署名捺印が押されていた。
「よかった。どうやらこれで間違いないようですね」
「おおっ、これで俺も卒業決定だな」
「いや、ここにも書かれてるように戻るまでが試験だから。地上に戻るまでは気を抜かずに行こう」
それに陣内くんの場合は筆記試験の出来にもよると思う。
とにかく別所さんのナビゲートも適格だしここまでは順調だ。
慣れればホーンラビットはそれほど難度は高くない。
このままなら問題なく帰れそうだ。
もし、試験に失敗するとすれば気を抜いた帰り道の方が可能性は高い。
さすが北王地さん、言葉に含蓄がある。
試験官の方を見ると、今度は頷いてくれた。
あとは、しっかり戻るだけだけど、そういえば先に入ったグループとすれ違ってもない。
どうやら、チームごとに目的地とルートが違ったらしい。
俺達はここまで順調にこれたし、当たりのルートだったのかもしれない。
「せっかくだし帰りも、しりとりしますか」
「いや、しりとりはもういいって」
「どうせなら恋バナとかしません?」
「それいいかも~」
「せっかくだしね」
なっ……。
恋バナ?
恋バナってあの恋バナ?
なんでダンジョンで⁉
いや、落ち着け。俺は聞き役に徹すれば2時間くらいなら何とかなる……か?
「おおっ、オッサンの恋バナとか興味あるな」
うっ……陣内くん何を。
「あ~花岡さんの事聞きたいかも~」
別所さんまで。
「興味ありますね」
市川さんも。
「ぜひぜひ」
大西さん……。
「え~っと、ここは唯一の既婚者である陣内くんのお話をお伺いするのが一番参考になるのかと」
「え~っ、俺かよ」
「是非聞きたいですね」
「別にいいけど。うちの奥さんはひとめぼれだ」
「ひとめぼれですか」
「おう、会った瞬間電撃が走ったんだよ」
「電撃ですか」
「ドガ~ンときたぜ。それから猛アタックしたってわけだ」
「それは何歳くらいの時ですか?」
「十五だったかな」
「そうなんですね」
十五歳で、雷に打たれるような相手と出会って、結ばれるって映画か何かみたいだな。
俺が十五歳の時は……。
うん、悪くはなかった。
生活の中に女の子がかかわってくるような青春イベントは皆無だったけど、それはそれで楽しくやってた気がする。
「陣内くん、やるじゃないですか。私もそんな相手に会いたいな」
「市川さん、こればっかりは運命だからな」
「うらやましいな。ねえ、花岡さん」
「え? はい、羨ましいです」
「そうだろ、そうだろ。オッサンも早く結婚しろよ」
「はは……」
「それはそうと、次はオッサンの恋バナだろ」
陣内くん恨むぞ。
「私も花岡さんのお話聞きたいです。是非参考にさせてもらえたら」
「あ~そうですね~」
参考にって参考にするような話はないんだ。
ないんです。
詰んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【作品のフォロー】【評価☆☆☆】で応援してもらえると嬉しいです!
※作品画面の下にある『おすすめレビュー』の『☆で称える』でお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます