第8話 40歳の新入生
ついに今日俺は防衛機構の訓練校に入学する。
うん、忘れ物はない。
準備を済ませてから案内にあった訓練校に向かう。
「ここだな」
着いた場所には少し校舎は小さいが、運動場や体育館らしきものも見える。
完全に学校だ。
思っていたよりもかなり立派な施設だった。
指定された教室へと向かうと既に半分くらいの席が埋まっている。
俺の番号は16番だ。
俺は16番と書かれた席へと着席するが、視線が痛い。
やはり周りに座っている子たちは若い。
俺が突出してオッサンだからだろう。
かなり視線を感じる。普段こんなことを経験することはないのでなんとなく居づらいが、こんなのは最初からわかっていたことだ。
視線に気づかないふりをしてそのまま待つ。
徐々に残りの受講生たちも集まってきて、ほぼ教室が埋まった。
全部で三十人ほどだが若干女性の方が多い気がする。
「全員集まったようだな。俺が今回担当の梅沢俊樹だ。よろしく」
教壇に立った三十歳ぐらいの男性がそう声をかけてきた。
「今期は全部で三十人だ。三ヶ月の間しっかりと学んでくれ。ここを出たらすぐに実戦に配置されるからそれまでに魔法を使いこなせるようになってもらわないと困る。ただしここを出る前に卒業試験としてダンジョンに潜ってもらうからな。一応、筆記試験もあるから授業はまじめにな」
わかってはいたが、三ヶ月で魔法を使いこなさなければならないのか。
それにダンジョンにも潜らないといけないのか。
とにかく頑張るしかない。
初日は、自己紹介やこれからのスケジュール、施設の説明などで終わってしまったので明日からが本番だろう。
「おい、オッサン」
「ん? 俺のことか?」
「ああ、あんたしかいないだろう」
髪を茶色に染めた、いわゆるちょっとヤンチャそうな男子生徒が声をかけてきた。
「なにか用かい?」
「あんた何歳だ?」
「四十歳だけどそれがどうかしたか?」
「四十……老けてるとは思ったけど四十歳かよ。俺の母親と同い年じゃねえか」
母親と同い年……まあそういうこともあるだろう。
だが、この言葉地味に辛い。
「そうか、君は何歳なんだ?」
「俺は十九歳だ。それと俺は陣内律だ」
「花岡修太朗だ」
「オッサン、なんでその歳でここにいるんだよ」
「なんでって言われても、ただ単にこの年で魔力に目覚めたからかな」
「そんなことあるのか」
「ああ、あるみたいだな」
「奥さんとかに反対されなかったのか?」
「いや、独り身だから」
「……なんかすまん」
「いや気にするな。単純に俺がモテないだけだから」
十九歳相手に「俺がモテないだけだから」って結構くるな。
「浮気して離婚でもされたのか?」
「いや、結婚したことないんだ」
「オッサン、そっちか?」
「そっち? いやいやいや、いたってノーマルだ」
「それはすまん。よかったら女紹介してやろうか?」
「紹介……。うん、ありがとう。でも大丈夫だ」
十九歳に女性を紹介される俺って……。
「そうなのか。オッサン結構いい人そうだし嫁さんの友達に声かけてやってもいいぜ」
「嫁さん……。陣内くん結婚してるのか」
「ああ、去年結婚したんだ。よかったら写真見るか?」
確かに、今のこの人口減少時代に十九歳で結婚は珍しくない。俺が十九歳の時にも学生結婚してたやつは結構いたが、この年で十九歳の同級生の結婚話を聞かされるとは思ってもみなかった。
想像以上にくるな。
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本日2話目
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