元ホスト転生令嬢が童貞騎士団長を骨抜きにしますヨイショ!!

たくみこ

第1話元ホスト令嬢の嫁入り

前世、俺はホストであった。と言っても、歌舞伎町なんか華やかな場所ではなく、地方の繁華街の中にある、場末のホストクラブで働くNo.3という、何とも言えない売上だったのだが。ホストをしていた理由は簡単、給料が良かったからだ。元々勉強も運動も得意ではない、でも少しだけ顔が良かった俺が、手っ取り早く稼ぐにはその職しかなかった、それだけだ。俺は、いつも通り朝までお客様と酒を煽り、フラつく足取りで家賃3万円のボロアパートに1人で帰ろうとしていた時、信号が赤にも関わらず突っ込んできたトラックに轢かれて死んだ。

そして俺は、クラウス男爵家の三女、レミリアとして異世界転生した。

この世界は昔映画で見たことのあるような中世ヨーロッパみたいな世界観で、貴族と平民に分かれて暮らしている。俺の生まれたクラウス家は男爵家ではありながら、それなりにでかいお屋敷で、メイドや執事を数人雇って暮らしている……なかなか裕福な暮らしぶりだった。家族はお父様にお母様、それにお兄様が1人に、お姉様が2人となかなかに大家族なのだが、お姉様2人は16歳になるなり、どこかの貴族の家に嫁いで行ってしまった。この世界では、貴族家の娘は同じ貴族に嫁ぐ以外に道はないらしい。

「姉さん達と同じように、お前にも私が良い嫁ぎ先を見つけてきてやるからな」

「良かったわね、レミリア。その為にも、お作法の勉強を頑張るのですよ」

お父様とお母様は、俺の顔を見る度にそう言い聞かせた。俺はといえば、一生働かないでも暮らしていけるこの暮らしをなかなか気に入っており、まあこのまま楽に生きていけるなら嫁でも何でも行かせて頂きますわ〜というノリだった。

そして俺が16歳になった年に、お父様が言っていた通り、俺に縁談を持って帰ってきた。

「レミリア!最高の嫁ぎ先を持ってきたぞ!なんと相手は伯爵家、あの王国騎士団の団長様だ!」

あの、と言われても、ほとんどお屋敷から出たことのない、世間に疎い俺はそれがどんなにすごい縁談なのかわからなかった。しかし、横で刺繍をしていたお母様が針を落とす程度には、ビックなニュースだったらしい。お母様は机に刺繍を放り出して、お父様に詰め寄った。

「ま、まさか、あの白騎士団、団長のリチャード様!?」

お母様が顔を赤くして叫ぶその姿は、イケメン俳優のことをキャーキャー話す、前世の常連のお客様によく似ていた。しかし、それとは対照的に、お父様の顔が曇った。

「い、いや、白騎士団ではなく、黒騎士団の団長、ジョセフ様だ」

「く、黒騎士団ですって!?あの、魔獣退治をする、粗暴な輩ですか!?」

「まあ、魔獣を相手にしている連中でも、一応伯爵家だ。伯爵家と縁が出来るのはとても光栄なことなんだぞ」

お母様はショックを受けたのか、ヨロヨロと戻ってきて椅子に座り、頭を抱える。俺は、少し迷った末に、お父様に尋ねた。

「お父様、私は世間に疎いのですが、白騎士団と黒騎士団は何か違うのですか?」

「う、うむ……両者とも王国の騎士団には違いないのだが、白騎士団は主に国内の治安を維持する騎士団で、黒騎士団は国外で魔獣や他国から国を守護する騎士団なのだ」

いわば、国の光と影。治安を守る白騎士団は、主に国内で王族を護衛したり、城下町で見張りを行ったりする、王国の顔。一方、黒騎士団は国外で、国に入り込もうとする魔獣や、他国の兵を撃退する役目を課せられ、城下には滅多にその姿を見せない。

「国外で生活をしているせいか、粗暴な騎士崩れが多いと聞いてますわ。制服や武器に、倒した魔獣の毛皮や牙を使っているそうじゃありませんか……野蛮で嫌ですわ!」

扇子で顔を覆って俯いてしまうお母様に、お父様は困った顔をした。

「別にお前が嫁に行くわけでもないじゃないか。レミリアは嫌ではないだろう?何せ、相手は伯爵家。今よりも良い暮らしが出来るぞ!」

お父様が俺の顔色を伺う。

今よりも良い暮らしがしたいのは、お父様ではありませんか?

俺はその言葉を飲み込んだ。

ここで嫌だと言っても、伯爵家との縁を手放したくないお父様の考えは変わらないのだろう。

グダグダ文句を言っても、この世界では、どうすることも出来ないのだ。ならば、気持ちよく嫁いでやるかと決めた俺は、にっこり笑って見せた。

「伯爵家に嫁げるなんて、名誉なことですわ。私、喜んでお嫁に参ります」

俺がそう言うと、お父様はあからさまに喜んだ。お母様も、本人がそう言うならと、渋々だが納得してくれた。

こうして俺の嫁ぎ先はあっさりと決定し、あれよあれよと言う間に、結婚の準備が始まった。と言っても、俺はこの身ひとつで嫁ぐのみなので、特別に何かをする訳でもなく、作法を習い続け、お母様に言われるがまま、結婚式に着るドレスを選んだ。ただ、伯爵家から結納の品として、お屋敷の玄関ホールを埋めてしまうほどの魔獣の毛皮が届いたのには流石に驚いた。お母様は卒倒しそうになったが、別で送られてきていた宝石達を見るとすぐに元気になった。

「は、はは……上等な毛皮だし、これでコートを作ったらきっと温かいぞ!嫁入りに持たせてやるからな!」

山のように積み上がった毛皮を見てお父様も驚いていたが、なんとか作り笑顔を浮かべると、お母様が抱えて行った宝石を見に行ってしまった。俺はぼうっと毛皮を眺めた後で、届けてくれた騎士団の人に声をかけた。

「あの……これは、騎士団の方達、総出で魔獣を討伐をしたのですか?」

そうじゃなければ、こんなに山のように毛皮を届けられないだろう。騎士団長としての見栄を張りたかったのだろうか。どこの世界でも、上司に振り回される部下は大変だよね、といった気持ちで聞いてみたのだが、騎士団の人は、いえいえ!と首を横に振った。

「違いますよ!これは全部、団長がお一人で討伐されたんです!嫁入りされるお嬢様に差し上げるのだから、誰も手を出すなと我々は命令されておりましたから!」

騎士団員は笑顔を見せると、では確かにお届け致しましたと言って、さっさと帰っていった。俺は積み上げられた毛皮をもう一度見てから、ぽかんと口を開いた。

「マジかよ……」

もしかして、黒騎士団の団長って熊みたいな大男だったりするのか?

俺の脳裏に浮かんだのは、前世、友達の家で読ませてもらった歴史漫画に出てくる、髭の長い筋骨隆々とした武将が、黒い馬に跨る姿だった。一騎当千。

俺が肩を落としている間に、メイドたちがせっせと毛皮を片付けて行った。

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