バトラブ~青春にあこがれて魔王をやめたら最強メイドがついて来たので、平和な世界を満喫しようと思います~
定食
守護者入隊試験
第0話 「魔王」を満喫しようと思います
その日。
街は祭りでにぎわっていた。
「らっしゃ~い!」
「おじちゃん射的やる!」
「お!元気いいねぇぼっちゃん。ほれ、1回サービスだ」
年に1度の街を挙げた祭りである。
気前のいい屋台の主は、元気な子供の客に輪ゴムの銃を渡した。
「よぉ~く狙うんだぞ~?」
カツッ...カツッ...
そんな中。
祭りのにぎやかな雰囲気に混ざりきれぬオーラを放つ人物があった。
カツッ...カツッ...
ハイビスカスのアロハシャツに短パン。
ハワイアンなその男からは、膨大な魔力が漏れ出ていた。
「ね、ねぇ...あれ...」
「ま、まさか...だよな...」
残念ながら本物である。
彼こそが、本物の魔王である。
その1歩後ろにはメイド服の少女も付いている。
魔力ではない何かで身を包んで。
ざわざわ...
あたりのざわめきをものともせず、魔王は天高く手を伸ばした。
「...!」
瞬時に空は厚い魔力で覆われた。
真夜中かと思うような暗闇。
無詠唱でこの魔力量。
圧倒的な力を前に、人々は命の危機を体感した。
ドォーン!
一筋の閃光が瞬いたかと思えば、その行き先は魔王の手の中であった。
そして彼の手中には、禍々しく輝く高圧の魔力ボールが1つ。
美しくも恐ろしいその球に秘められたパワーはもはや次元を逸していた。
「逃げろ――!!」
きゃー!
わー!
パニックになる人々。
突然の魔王の降臨に立ち向かうことなどできるはずもない。
そして。
その瞬間が来た。
「イクリプス・ノヴァ」
魔王が魔球を放つのと子供が輪ゴム銃を発射するのは、同時だった。
バコーーンッ!
魔球は射的の全景品を、屋台ごとふっ飛ばした。
「やりぃ!」
「素晴らしいです、アバウト様」
魔王アバウトとそのメイドはハイタッチをした。
その一方で———
「ぼく...実はすごい能力者なんじゃ...?」
トンデモ集中力のその子供はアバウトたちの存在にまだ気づいておらず、自分がやったと思い込んでいる!?
「そ、そうかもしれん、な...」
屋台のおじちゃんは心ここにあらずである。
魔王に狙われ一命をとりとめたのだ。
しかしまだ油断はできない。なぜなら———
「じゃ、次いこっかー」
「はい」
...あれ?終わり?
「あ、そだ」
カツッ...カツッ...
こちらに向かって歩いてきた!
そのオーラはやはり格別。
自分はすでにこの世にいないものであると、錯覚すらしてしまう。
「こーれ、もらってくぜ」
そう言って魔王は綿あめを1つ拾い上げた。
そしてすぐにきびすを返し、次の屋台へ行ってしまった。
メイドはこちらにぺこりと礼をし、魔王のあとを続いていく。
...助かったぁ~。
「おじちゃん、これもらっていくね!」
われ関せずと、子供はゴム銃を置いて、この店の一番高いものを持っていった。
ふぅ~
命拾いした安心感からくるため息。
冷静になれたおかげであることに気付いた。
おい小僧よ———
それはわしの財布じゃ。
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