第4-2話 「ノワールの街」を満喫しようと思います


 アバウトの目の前にいたのは、後ろに手を組んだ女の子であった。まだ幼さの残る声と横顔で、年齢も14歳前後といったところか。小柄でかわいらしい印象であるのだが、この子が木刀を持った暴漢を吹っ飛ばした?どうやって?

 女の子は振り返り、アバウトと目を合わせた。

「お怪我はないですか...あら、もしかしてお兄さん、転びましたね?」

 恥ずかしい!膝を擦りむいたアバウトであるが、魔力が封印された今では回復魔法も使えなくなってしまったので、正直に「...はい」と認めるしかなかった。女の子のすぐ後ろで暴漢が木刀を振りかぶったのはその時だった。


「後ろ!」

と叫んだアバウトの目の前で、再び吹っ飛んだのはやはり暴漢のほうだった。

「無駄ですってば。私のカウンターにあなたたちは勝てません」

 これ以上のリスクは負えないと判断したのだろう、暴漢4人は背を向けて逃げていった。そしてアバウトは女の子に感謝を伝えようとしたが、女の子は「またどこかで会いましょう」とだけ残し、直後には姿を消していた。


「さすがバリエルちゃん、今日もかっこいいわ~!」

 セレナはそう言った。バリエルとはその女の子の名前で、彼女もまたノワールの守護者の1人だという。カウンターを得意としており、攻撃してきた相手に対してのみ発動する攻撃のようだ。ノワールの守護者の中では殺傷能力の高い人物だと教えてくれた。


 セレナの言うとおり、確かに彼女はかっこよかった。

 武器を持った暴漢に対して一切ひるむことなく、己の力に揺るがぬ自信を持っていた。彼らに背を向けて逃げたうえに、何もない所で転んだ自分を思い出し、アバウトはまた恥ずかしくなった。

「ノワールの守護者様はね、街の外で戦うだけではなくて、ノワールの街の生活も守ってくださるの」

 セレナはアバウトの膝のけがにハンカチを巻きながら教えてくれた。アバウトはその言葉に、魔王としての生活に足りなかったものを実感した。

 他人のために己の力を使うという生き方。互いに支え合って生活しようとする姿勢。


「セレナ姉さん。オレ、ノワールの守護者になります!」

「あら、いいじゃない!頑張ってね、入隊試験!」

 にこやかに見つめ合う2人。そしてアバウトは耳を疑った。

(...入隊試験!?そんなものがあるのか!)

 アバウトはセレナに手を差し伸べ、それについて尋ねた。彼女はアバウトの手に掴まって立ち上がり、そして教えてくれた。


「エリシアの軍に入るための試験だよ。合格したら、ノワール、エノ、オート、アエスのどこかに配属が決まるの!もちろん希望があれば聞いてくれるのよ!試験は難しいそうだけど、ここだけの話、お給料はいいらしいよ?」

 セレナにそう耳元でささやかれ、アバウトはより一層やる気が出てきた。


「どうやったら試験受けられますか!?」

 アバウトが尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「...あれれ?そういわれてみると私もわからないな」

 大々的に公開されているわけではないのだろうか?ノワールが他の地域に疎外されてしまっているのも、その理由の1つなのかもしれない。

「そうだ!帰ったらミアちゃんに聞いてみよう!」

「ミアちゃん?」

「私のかわいい妹ちゃんです!」

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