第109話 威々濁々(いいだくだく)8
試合後、みんなでバス停まで歩いていると、声を掛けられた。
「おいお前。ちょっと面ぁ貸せ」
魔武ハチのキャプテンだった。
「あー? いきなりなんだ魔武ハチさんよぉ。オレらの救世主になんの用だぁ?」
「そいつに話があるだけだ。お前らには関係ない」
「話ならここですりゃあいいだろうが!」
一触即発だ。
このままだとどうなるかわからない。
「二楷堂くん、大丈夫。ちょっと話してくるだけだから先に行ってて」
俺はみんなに帰るよう促した。
「なんでだよ! 打ち上げ行く約束だろうが! それに一人で行ってどうなるかわかんねぇぞ?」
「話すだけだから! ロングシュートのコツを聞きたいだけらしいから大丈夫だって。すぐ追いつくから! 『
「……それ、ホント……? ホントに大丈夫? もし手を出されたらすぐマッポを呼ぶんだよ」
「はい、わかりました」
キャプテンもかなり心配してくれている。
本当に良い人たちだ。
トイレでのやり取りが発端だとしたら、今や逆に巻き込む訳にはいかない。
俺は魔武ハチのキャプテンについて行った。
*
近くの廃屋ビルに連れていかれた俺は、もうこの時点で薄々気づいていた。
不運はそうそう変わらない。
異世界に行こうが力をつけようが関係ない。
生まれ持った本質なのだから。
「おうおう、どの面さげてここに来てんじゃ?」
「ノコノコ来やがってよお! わかってんだろうな?」
「逆によく来れたもんだ。それだけは買ってやるよ」
「まあ来なかったら攫ってたけどな!」
心臓の鼓動は収まらない。
するとトイレでお金を渡そうとしてきた人が出てきた。
「あーあ。金は受け取らないし盾突いてくるし。こりゃあ
「どうせ負けたんだ。こんな雑魚助っ人になぁ。もうオレらは大人しくしなくてもいいんだぜ」
負けた腹いせにフクロにしようってことか。
「何をやったか知らんが負けちまったもんは仕方ない。まあサンドバッグになってくれや。それで水に流そうってんだからよ」
この人はGKの人……。
本当に……魔武ハチに良識者は誰もいないのか……。
すると全員が立ち上がった。
普通の生活がしたかっただけなのに。
少しサッカーをしたからって、どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだろう。
「無ー魔ちゃん♡ どこみてん……の!!」
ドガッ……
遠くにいた魔武ハチ生徒の一人が消えたあと、目の前に現れた。
俺の腹部に膝蹴りが入り、激しい吐き気と呼吸苦に襲われる。
「ウッ……グァ……」
「オレはもうたまんねえ。大会のために我慢してたんだぜ! アレやってボコりてぇんだよ!」
そう言って懐から何かを取り出してカリカリと
すると途端にそいつを中心に魔力が渦巻く。
「……ハ、ハハ……!! あーーーーこれだよ、たまんねぇー!! オレにバフくれ! オレが先にヤんだからよ!!」
バフを受けた男は先程の生徒と同じく消えたあと、目の前に現れ俺の首元を蹴ってきた。
ドガッ……ドゴ!!
蹴り飛ばされた反動で壁に叩きつけられた。
「あぐ……」
「アヒャハヤヤ!! ゴーーーール!!」
「ダイレクトボレーお見事!」
「おめーオフサイドだバカ!w」
楽しそうに踊りまわる男たち。
俺は一体、何を守っているんだろう。
規律、規則、法律、原則……。
「オラッ」
周りはそういったことを無視し遵守しない。
「いい気味だぜ」
それでも俺には守れと言ってくる。
「このやろ!」
理不尽の応酬。
「くたばれ!」
俺だけが課せられたルール。
「くそがっ」
なんで守る必要が……?
「ざまあw」
いいじゃないか、お互い様だろう。
「出しゃばりやがって」
正当防衛じゃないか?
「惨めだな」
このままじゃ死ぬかもしれない。
「終われ」
自殺した癖に相変わらず殺されるのは嫌なのかな。
「ボッコボコw」
いいじゃない、このまま死んだら。
「よーしよしよし」
実は彼らは、本当の意味で俺の味方なのかもしれない。
「キンモチイイ~!!!」
楽にしてくれる命の恩人。
「死ねオラ」
どうせ守るべきものなんてもう無いんだから。
「オレにもやらせろよ」
……守るべきものが……ない?
本当にそうだっけ……。
俺の居場所……大切な人……。
あ……あったじゃない。
なんで忘れてたんだろ。
きっと、思い出したら我に返っちゃうから、あえて忘れたふりをしてたのかも。
このまま終われば諦めがついたから。
でも思い出した今は……。
「よーし、そろそろオレがやっていっすよね? 金出してるんだからトドメのおいしいとこ貰っていっすよね? ね?」
「そうだな。キレイに決めろよ」
「ヒャヒャヤ!! 3粒イッキにイッちゃうぞッヒヒッヒ!! 死ぬんじゃないぞ??」
俺は守るべきものの為に。
初めて拳を握った。
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