魔サッカー部助っ人編

第102話 威々濁々(いいだくだく)1

 凍上さんとはあの日からあまり話ができていない。


 偏頭痛が酷いらしく、今日も試験だけ受けて早々に帰宅している。

 確かに顔色も優れないようだったが……まさか俺のせいじゃないよね……?




 ……あの時の言葉は未だに俺の中でグルグルと駆け巡っている。



 もし仮に、嫌いな人に抱きしめられたら普通は「逃げる」か「叩く」かだろう。

 ましてやあの凍上さんだ。

 怒らせてしまったら、永遠に氷漬けにされてもおかしくない。



 ……でもあの時の言葉……。



 もしかして……凍上さんも……俺のことを……?



 いやいや。

 最近の凍上さんは悩みとかストレスが多かったみたいだし。

 きっと、嫌いな人じゃなければ誰でも良かった……とか?



 俺は如何いかんせん恋愛下手で、女性の心理・心情を理解できないところがある。

 思春期真っ只中、女子との関わりが全くなかった時代がきっとそうさせているんだろう。

 ……今も思春期ではあるが。


 これから少しでも女性の心を理解していって、いつかは好きな人と付き合っていきたいとは思っている。



 でもなんだろう。

 少し前までは「見ているだけでもいい、それだけで幸せだ」と思っていたのに、今ではその気持ちが抑えられず大胆に行動してしまう時がある。

 ……そうでなければあの夜、あの流れで〝抱きしめる〟という暴挙に出ることもなかっただろう――。



 ……って思い出しただけで頭がアツい。



 あれこれ自問自答して考えているが、何がそうさせたのか。

 そしてこれからどうしていくことが最善なのかも全くわからない。



 帰り際、そんなことを考えながら歩いている時だった。



ポンポンポン……



「ん……」



 足元にボールが転がってきた。



「おーい! ボール取ってくれぇー!」



 遠くでサッカー部らしき人物が手を挙げている。

 距離はざっと30……40mくらいだろうか。

 この時間、部活でも魔法を使用しているためAMAは張られていない。


 ボールを取ってもらうには遠いと思ったのか、1人が走ってこっちへ来ている。

 わざわざ来なくても届くよっと思いながらボールを蹴る。



 トッ……ドガッ……ポスッ



 助走なしで蹴ったボールは大きく弧を描いて、手を挙げていた選手の頭上を超えてゴールに突き刺さった。


「あ……」


 やべ、入っちゃった……。

 入れるつもりはなかったし、練習の邪魔をするつもりはなかったのだが……。



「あ、あんたすげぇな!」


 部員が続々と集まってきて話しかけられた。


「君! ちょっといいかな」


「……キャプテン!」



 キャプテンと呼ばれた人が俺の元へやってきた。

 これはなんか……ひと悶着ありそうな……。



「単刀直入に言おう。魔サッカー部に入ってくれ」


「え……」




「ってかあれ……この生徒、アッシュとやりあった奴じゃね? 名前なんて言ったっけか……」

「確か『すめらぎ』だったっけ?」

サッカーなのに無魔に頼むなんてキャプテンもどうかしてるぜ……」

「でもよ、メンツがいないんだから四の五の言ってられないってのもあるぜ」




 俺に気づいた部員たちはコソコソと話をしている。



「無理な話なのはわかっている。だがあんな蹴りを見せられて黙っていられるか。話を聞いてくれないか?」


「は、はぁ……」


「実は元々ギリギリだった人数の魔サッカー部で先日、怪我人が出てしまってな。出場自体危うかったんだ。頼む、一度きりでいい。部員一同の願いだ! ほら、お前たち!」



「「「よ、よろしくお願いします!!」」」



 え、えぇぇ……。


 最終的にそこにいた部員全員から頭を下げられてしまった。

 俺は照れ臭くなり顔が真っ赤になっていくのがわかった。



「あの……、今のはたまたまですよ?」




「たまたまであの距離のシュートが入るか……?」

「さすがにそれは……謙遜という名の遠回しドヤだろ」

「エンハンスされたボールならあり得るし。それにバフかけりゃ俺でも……」

「皇は無魔だっつーの。お前バフあってホントにやれんのか? 遠くまで蹴るのとゴール狙うのわけが違うぞ」

「どっちにしろすげえことに変わりないが……」




「いや、シュートしたつもりでもないんですけど……」


 部外者がいきなりゴール狙うなんて今時、ドラマでもやらないし……。


「な⁉ ま、まじか……。ならなおさら頼む! 最悪いてくれるだけでいい! 数合わせとしてでも! お願いだ!! 最後の手段を取りたくないんだ……!」


 キャプテンと呼ばれた人は恥ずかし気もなく深々と頭を下げた。

 かつてこれほどまでに懇願されたことがあっただろうか。



「あ、あの……顔を上げてください! わ、わかりました! 一度でいいんですよね……?」



 俺は部員全員のその勢いに圧倒され、頷くしかなかった。

 ……まあ一回だけならいいかと自分に言い聞かせた。




「よ、よかった! 何はともあれこれで試合ができるぞ!!」

「因縁の〝魔武八マブハチ〟と試合すらさせてもらえなかったらオレたち3年は引退しきれないからな」

「今は決勝に進めるかどうかより、魔武ハチと試合やれるかどうかですからね!」

「試合トータル20試合中、10勝10敗……。事実上の最終決戦! 勝てばベスト4!!」

「怪我した諏蛾守すがもりに回復かけまくって試合に出てもらわなくて済んだな」

「やる気出てきたーっ!」




 怪我人に鞭打って試合出させるつもりだったのか……。


 先程とはうってかわって、部員達は盛り上がっている。

 部外者の俺を除いて……。



 かつても、俺以外の選手で盛り上がっていたよな……。

 何度、その輪に入りたかったか。

 いつも遠目で見ていた景色。


 そして、何度その輪をと思っただろう。


 自分が真剣に打ち込んだものをまともにプレイさせてもらえないフラストレーションからか、疎外感よりも圧倒的な怒りを感じていた。

 しかしその発散場所は皆無で、自分の心の奥底に溜まり積もっていった。



 今回もきっとそうだろう。

 数合わせとして一時的に入った俺と連携が取れる訳がない。

 ましてやサッカー。

 無魔である俺が周りについていけるとは到底思えない。



 3年生の最後の大会を飾る為、俺は魔サッカー部へ一時的に入部した。

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