第93話 無情迅速(むじょうじんそく) 7
「《瞬炎》――!!」
ザシュッ……ドスッ……
「イッ……ッ……」
噛みつきを食らいながらも一匹の足を掴んだ。
BMWも炎の加速を使っているのか、自分以上に速く感じる。
速いのもそうだが、なにより野生動物相手には先読みが難しい。
「く……離すもんか……〘燧喰――!」
火を喰おうとすると、複数のBMWに同時に襲いかかられた。
「アアアアアア!!!」
4匹のBMWは俺の首や両手両足に噛みつき、歯が食い込んでいる。
燃えるような痛みを感じて振り払おうとするが中々離れない。
「皇はん!!!」
「待たせたでござる! 【藤堂流秘術 エレメンタルフロッグ】!」
ズドン!
「皇殿! 大丈夫でござるか!」
戻ってきた藤堂さんはすぐに俺を救い出してくれた。
だが、血が広がっていく生暖かさがすぐに寒気へと変わってゆく。
「寒……い……」
「これはマズい……この【回復丸】を……っく、意識が……それに血を流しすぎて……! 部長、一旦乗ってください!」
「あいよ!」
意識が薄れていく。
この感じは久しぶりだった。
やっぱり自分は……強くなんかない。
この醜態……自分なら炎獣を圧倒できるという慢心。
認められたかった。
周りから評価をされたかった。
自分が少しでもこの世界に貢献できたのなら……。
この転移に意味があるのだとしたら……。
でもこれじゃあ……本当にみっともなくて……。
何故かその時浮かんだ顔は……。
アッシュだった。
◆逆井光 part◆
「皇はん! っく……確かにヤバイ……。こら藤堂の時みたいにオカンんとこ頼みにいくしかないなぁ……。藤堂、ウチらが先行するわ!
「…………、……御意」
「死ぬなや! 【ブラウンゲート】!」
***
バタン
「おかーん! どこや! 急患や! はよ来てや!!」
「
「そ、それはゴメンやけど……。それよりも! ウチの大事な部員が死んでまう!! 助けてや!」
「午前の診療は終わってるさかいええけども。……どれ。この傷……んー? 歯型から見るに一見、BMWに見えんこともあらへんけど、火傷痕は見当たらへん……。この子ぉの火耐性値高いってわけでもあらへん? せやけど何で0ちゃうくて
「アハハ……。だからウチの部員やて……」
「ほー。こないなおもろい素材、みすみす死なすわけあらへんで!
「……ハハ……。わかったで」
***
♠皇焔side♠
目が
転移してから何度となく、ギリギリ生きるか死ぬかの狭間で生き残った自分。
一歩間違えれば死んでしまうという事実が、
体の痛みすら、今回も生きていたという証になる。
見ると噛まれて千切れた部分には分厚く包帯がされていた。
悪運が強いと言うよりも、この世界に無理矢理生かされているんじゃないだろうか。
……なんてことは妄想の域だ。
体を動かそうにも、自身に繋がれた点滴の管が、ベッドと自分を縛り付ける鎖に思えた。
また病院へ運ばれた……。
弱い癖に「自分は出来る、やれる」と思い込んだ結果。
慢心以外の何者でもない。
夢を見ても夢を見ても、何度も夢を見ても……。
結局、自分は一般人でしかない。
それが現実、紛れもない事実なのだから。
きっとこの世界のどこかに、自分よりも不遇の人はいると思う。
生まれ持って抱えた障害……。
努力をしても何も見いだせずに終わる運命……。
突如の事故により失われる人生……。
そしてこの世界からの死、
本来なら自分もその一人だったのだ。
ガソリンをかぶって燃えたあの日、自分は死んだ。
今こうしていること自体、本来なら有り得ない話である。
生きている意味ってなんだろうか。
この生死の駆け引きは今後もずっと続くのだろうか。
人は必ず「死に逝く存在」なのに、どうして生きなければならないのか。
地獄……? 天国……?
そんなことすら面倒くさい……。
いっそのこと……もう一度、自分を燃やし尽くして消え――……。
「気ぃついたかいなあ? 皇焔くん。いや、BMWに突っ込んだ無謀な少年……?」
「……部長? 白衣なんか着て何を……? あー、もしかしてまたアニメのコスプレですか?」
「…………。おー、そうやったなぁ。まあ初見は
「え⁉ 部長のお母さん⁉ これはこれはどうもはじめまして……。皇焔といいます……って名前知ってましたね」
パッと見、部長と瓜二つの人物が白衣を着て立っているのだから驚きだ。
「ウチ、35なんやけど……。
そう言いながら椅子に座って足を組み替える。
「ゴクリ……。は、はぁ……」
どう答えればいいかわからず、適当な返事になってしまった。
「フフッ、冗談やで。まあ
「……それは買い被りすぎです。結果、このような事態を招いてるんですから……」
「んー……なん言うか……あんた、相当な不器用やろう? あと極度のネガティブ。人を視る時の目ぇ……訳アリな気ぃする。まあ
「……すみません」
カチッ……ボッ
部長のお母さんはタバコに火をつけた。
「フーッ……。あんた自身が思てる以上に、凄い力を秘めてる場合もあるちゅうことは分かっといた方がええ。自己評価だけでのうて、他者評価に耳を傾けてみてもええんと違うかいな?」
「……みんな無魔に甘いんじゃないですか? 魔法使えない時点で大分ハンデがある上に、力もないんですよ?」
「力っちゅうのんはもしかして……〝腕力〟のこと言うてるんかいな? それやったらあんた、大分歪んだ認識の持ち主どすえ」
「……え……」
「マラソンで腕力は必要か? サッカーでも? ……力っちゅうのんはなんも腕っぷしだけとちゃうんやわぁ」
「……ま、まあそれはそうですけど……」
「まずその回復力こそ、あんたの力量と知っときーな」
「……回復力……?」
「あーっ! 皇はん!! なんやおかん! 起きたんならはよ言うてや!」
……部長がやってきて俺が起きているのに気づくとお母さんを怒り出した。
……しかし……血が濃いのかな……そっくりだ。
親子っていうよりも……双子? みたいだ。
この前テレビで観た親父さんとも似てるし……似たもの家族なのかな。
「
「そ、それはっ……。……と、藤堂のヤツ、まだ来やんと……おっそいわぁー……」
……今、俺にストーキングゲートの魔法が付着してるのか……。
「誤魔化すんやあらへん。努力して身にならへんのやったらしゃあないんに……サボって出来ひんようなら器知れるやろが!!」
「す、すまんておかん……」
あの部長が一方的に押されている……。
凄い絵面だ……。
ジュッ……
「ほな焔くん。いまのとこ2,3日入院や思うさかい、お爺様に連絡入れとく。そやさかいしっかり休養しとぉくれやす。あとこれ、大切なものなんやろ?
そう言って俺の初浪を机の傍らに置き、部長のお母さんは行ってしまった。
部長と目が合う。
「そっくりですね……。ほくろに位置とか髪型とか……何で見分ければいいとかあります?」
「漫画やないんやし、フッツーによう見たらわかるやろ!」
「確かに言い回しとかはすこーし違いましたね」
「……オカンは京の、オトンは西の生まれやからな。せやけどホンにオカンはスパルタ過ぎるんよ……」
「そういうとこもそっくりなんですよ……部長……」
***
入院2日目の朝……。
「早いとは思うとったけどまさか一晩とはね……。もう帰ってもいけるで」
部長のお母さんからそう言われたので帰ることにした。
思ったよりも早く返された俺は、今からでも学校に行けるんじゃないかと思い、登校することにした。
「ここにおりたかったらもっといてもええで」と言う猛烈なアプローチ(研究対象としての)があったのだが、丁重にお断りした。
部長のお母さんは、「その回復力こそが……」って言ってたな。
確かに今回の傷は、ガーディアンの時よりも酷かったはずだ。
足をズタズタにされるのと、全身数か所を噛み千切られるの。
……どっちがいいかなんてのはないけれど、自分の体感は後者の方が死をより近く感じられた。
やはり血を失うのは流石に死ぬよな……。
だけど、噛み千切られた部分の肉はほぼほぼ再生していた。
昨日の午後に運ばれたから……実質半日で治ってしまったのだ。
普通だったらそんなことあるわけないからな。
〝火を出し、火を消し、回復力が速い〟という俺の存在価値……。
それでも結局は力を使いこなせるか否か……。
はぁ……。
俺はそのまま学校を目指した。
***
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