第88話 無情迅速(むじょうじんそく) 2




 昼休みのチャイムがなる。



「ホッくん! 昨日と今日おつかれさま!! ご飯! 一緒に食べよう!!」



 抜き打ちスポーツテストの後の昼休み、突然如月さんがやってきた。



 あ……ホントは凍上さんとも話をしようと思ってたんだけどなー。



「文華。私もいいかしら」



 悩んでいたせいか、横から割って入ってきてくれた凍上さん。

 流石だ。



「ハナちゃ! もちろん! どこで食べる⁉ あ、あたし購買いかなきゃだから場所決めといて!!」


ビュン



 ……相変わらず騒々しいけどホント足は速い。



MM−1マブワン、お疲れ様。あの後、話が出来なかったのを気にしてたんでしょう?」


「そうなんだよ。まさかボロ負けして家に運ばれるとは思わなくてね」


「ボロ負けね……。あれを……あの試合を一方的と捉えたのは、あなた含め生徒のおよそ9割……」



「え……?」



「アッシュさんの最後の一撃……。あの攻撃だけは完全なる殺意だった……。威力だけで言ったら最上級指定魔法に位置づけされるモノだったわ」


「な、なるほど……。つまり威力を上げすぎてAMAアンチマジックエリアに引っかかって逆に技の力が弱くなっちゃった……ってことかな!」



「……違うわ。最初の説明を忘れたの? MM−1は魔武本と違ってそういった制限はほとんどないの。各自の判断でなされる『節度』も試されるわけだから」



「う、うーん。じゃあなんでアッシュは最後に手を抜いてくれたんだろ」



「はっきりとしたことはわからないけど……あれは手を抜いたと言うよりも――……」


「お待たせ!!」



ビュン



 ……如月さん、もう買ってきたのか!

 風圧よりも声の方が早かった気がする……。



「へっへー! 今日も好きなの選びたい放題だったーw ハムカツサンド、焼きそばパン、肉まん、ブリトー……。んで、場所は決まったー?」


「あ……そうだった」


 これ、1人で食べるの……?


「え! なに、決めてなかったのー?」




「西棟……南階段3,5階外……」


「3,5階⁉ 3,5ってなに! え、どこそれ! いこ!!」



ブワッ



 如月さんは風で俺と凍上さんを押し上げて連れて行こうとする。



「ちょ……文華、それやったらスカートが……」


「誰にも見られなかったらオッケー……じゃん!」



ドヒュウ……



 MA展開するだけでこの上昇気流……。

 AMAにも引っかからないから生徒会にバレなければ問題ないにしろ……。


 この風、この威力……!

 そして何より……相変わらず強引だー!









「へー、ハナちゃんも誘われたのか。アタシも誘われたんだよね。まだ行くか悩んでるけどさ」


「子供だましだけど別に断る理由がなかった」



 西棟まで来たが、人がちらほらいたので如月さんはMAを解除して歩いていた。



「なるほい。なら行こっかなー。えーと。ホッくんは行くの?」



「え、何の話?」


「サメジから聞いてない? 〝師走の肝試し〟にホッくんも呼ぶって聞いてたけど……」



「え、知らないよ。それきっと……違う人なんじゃない?」



 そんなイベントに俺が誘われるわけがない。



「いやいや、ホッくんって言ってたし! じゃあこれから誘われるんじゃん? ……あ……え、着いた? ……何ココ!! こっから外に出れんの⁉ てかハナちゃん何で知ってんの⁉w」



「あ……。せ、先輩たちが話してるの聞いて……」



 ……今の感じだと、心の声で聞いたことがある程度なのかな?


 西棟にある南側の階段の3階と4階の途中にある窓から外に出られるらしい。




「よっと」



「うゎぁ……良い眺めじゃん……」



 そこは日差しが適度に差し込んで暖かく、街が一望できる特等席であった。



「ほんとちょうどいい暖かさ……。誰か昼寝しててもおかしくない場所ね」



 確かに、よくマンガとかでサボって昼寝している人がいそうな場所である。



「確かにー! ってか今度からアタシがここを使おうかな」


「そのために教えたんじゃないからね」


「アッハ! 冗談じゃんw ハナちゃんは真面目だからすぐ信じるしw」



「……文華の方がバカ正直」


「あ! 今さり気、バカにしたー!! えーん! ホッくんー! アタシ、ハナちゃんにバカにされた! もうお嫁に行けない!」


 そう言って俺にもたれかかる。



「ちょ、ちょっと如月さん……」



 対応に困り、凍上さんを見ると……笑っている。



 ……どういう笑い……?


 いや、今考えたら全部筒抜けになる!

 だけどこれが良いのか悪いのかわからない!

 考えるな、だけど考えろ!



「……ククク……アハハハ!! ほーら、アタシよりもホッくんの方がバカ正直だもんねー! マックスウブじゃん! アハハ!!」



 …………。


 なんかハメられた感が否めない。

 凍上さんはこれを知ってて笑ったのか……。



「コホン……。如月さん、からかうのは良くない――」


「ゴンメ! それはそうとさー! 昨日の大会、お疲れ〜! 準優勝、カンパーイ!!」



 ……話をすり替えられた……。



「改めて本当にお疲れ様。今日の抜き打ちスポーツテストよりも〝抜き打ち武術大会〟の方が大変だったよね。それで準優勝はお見事だよ」



「いや、まあ不戦勝とかもあったし」



「え、抜き打ち……? 何それどゆこと?」



「あ、如月さんには言ってなかったっけ。アッシュにハメられて強制的にMM−1に出場させられてたんだ」


「はぁ??? それマジィ? アシモのヤツ……段々露骨になってきたね。なんかあったらちゃんとあたしに言うんだよ?」



「……ありがとう」



「文華はお母さんみたいだね」


「……アッハッハ! そう言われればそうかも!! 口うるさいお母さんだぞー!」


「ハハッ、そんなことないよ。俺からしたら助かってるよ」



「そか! ならよかた! ……なんかさ、最初の時から考えると、この3人でお昼一緒に食べるようになるとか想像できなかったなーって」



「そうだね……。俺も驚いてるよ」



「……あれ? ホッくんいつの間にか一人称が「俺」になってる! もしかしてMM−1で準優勝したから一皮剥けた……! みたいなやつ?」



「え……、あれ、そうだっけ? 前からじゃなかったっけ?」


「や、前は「僕」とかだった気が……。違ったっけ? 別に違和感ないし良いと思うよ。男の子はそれくらいで!」



 ……そう言えばそうだったかな。

 意識してなかったけど勝手にそうなったのか。

 これも成長って言うのかな、爺ちゃん。



「確かに最初よりもオドオドしなくなった気はする」


「2人の前ではタジタジなんだけどね……ハハ」


「タジタジw でも変わった変わった! 半年でこれだもん! 卒業する頃にはカッコイイ大人の男になってるさ!」


「か、カッコイイ⁉ ……そういうの俺には無縁だよ。カッコイイってアッシュとか巌くんみたいな端正なマスクの人のことを言うんだよ。カッコイイってやつに憧れることはあるけど俺はそういう域には絶対たどり着けないな」


「え、メガオ? あーゆーのを『雰囲気イケメン』って言うんじゃん?」


「め、めがお? ……それってもしかして巌くんのこと?」


「うん」


 なんちゅうあだ名だよ……。


「それにみんなアシモアシモ言うのは金持ちだからじゃん? それと主席だからとか? 玉輿たまこし案件だけどアタシ的に言うほどイケメンとはなあ……」


「高身長に加え、高学歴、高収入、どれも当てはまると予想される。見た目スマートで自信に満ちあふれていて、それが大多数の評価を得ている理由。でも好みは人それぞれだから。……皇くんは変わってきたけど結局、自分のこととなるとネガティブになるのは変わってないね」



「うっ……それを言われると……そうかも……」


「確かに〜! 誰もナルシストになれなんて言ってないんだよ! でも自分のことすら好きになれないなら他の人のことだって心から好きになれないよ。大丈夫、ホッくんのことを好きな人だっているんだからもっと自信を持ちな!」



「え……俺を好きな人……? どこに?」


「え、いやー……あっちとかこっちとか……にいるかもしれないじゃん⁉ そっ、そんなのわかんないじゃん!」



「……。それはやっぱり烏滸おこがましいよ。ネガティブ関係なくさ」


「……ハァ。これに関してはもっと時間が必要ね。自分を好きになる……その日が来たら――……」



ブォン



「青春送ってるんはどこの誰かのーぅ!」



 突然の声。



「その声は……部長⁉」


「アーッハッハ! 皇はんはオナゴ2人もはべらして! ウチというものがありながら三股なんてスキャンダラス!!」


「な、な、何を言ってるんですか!!」


「まあ確かに自信持ってもエエ素材ではあるんよな。こればっかりは本人の気持ちでしか変わらんから! 風ちゃんも氷ちゃんもほっとくんが一番やで〜」


「ナデナデ関西風⁉ 毎回どこから……」



「氷ちゃん……」



「楽しゅうやっとったとこ悪いんやけど皇はんに業務連絡! 今日の放課後は第5会議室に集合や。新入り2人にも一応声かけたってや〜! ほなまた」



 …………。



人力じんりきで盗聴するのやめてほしいんだけど……。ホッくん、あのやりたい放題の関西風に言っておいてよ……」


「う、うん……」

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