MM−1GP編

第78話 孤軍奮刀(こぐんふんとう) 1

 魔武本以降、イベントは色々あったが、矢の如く月日は流れていった。



 部活での雑用に明け暮れる日々。

 部長は僕を馬車馬のように働かせる。


 藤堂さんも稼業の事もあり忙しそうだけれど、基本的には部長から逃げている感じがする。



 しかも今月から部活の規約が改定されて、当初3人いれば部活として成り立っていたのだが、最低でも5人いないと同好会に成り下がってしまうという。


 そのことを知った部長は大慌てで僕に勧誘を強要してきた。


「同好会になってしもたら権限も尊厳もなくなるで……。そしたらウチら魔研部はやっていかれへん。皇はん、緊急ミッションや。男子2名、勧誘するんや! ええな、2名やで!!」



 男子限定の勧誘……。

 性別指定がなければ凍上さんと如月さんを誘って一発クリアなんだろうけど。


 部長は藤堂さんの意外なチャラさを気にしている。

 忍者だし、そこまで軟派な感じには見えないのだけれども……。



 「勧誘したオナゴが藤堂の毒牙にかかっても知らんで」と部長が言うくらいだからよっぽどなのだろう。



 僕に誘えるのはせいぜい巌くんくらいか……。



「押忍、皇。何だって? 部活の勧誘? お前がここまで頼みこむなんてよっぽどだな。いいぞ。で、何部なんだ?」


 良かったー!

 言ってみるもんだー!

 まずは一人クリア!


「……な、なに!? 魔研部……!? ……い、いや……ちょっと俺は無理だ。他の部活も掛け持ちしてるしすまん」



 そう言って立ち去ってしまった。



 ……もしかして部長の評判を聞いてて嫌だったのかな?

 確かに巌くんはああいう性格の女性が苦手のようなイメージがある。


 あーあ、せっかく入ってもらえると思ったのに。



 仕方なく同じクラスで唯一、普通に会話が出来る鮫島くんと土山くんに聞いてみた。



「へー。面白そうじゃん。だけど俺、魔球部だから籍だけでいいなら入ってもいいぜ」


「そうだね。僕も地学部入ってるから名前だけでもいいなら入れるよ」



 2人ともそう言ってくれたのでノルマ達成した。


 難しいミッションだと思っていたが、案外すんなり決まってしまい拍子抜けした。







「ほ、ほんまか!! いやーーー、やっぱり皇はんは一味ちゃうなぁー。これだけ頼もしいと卒業まで待てんわ……♡」


「え、何のことですか」


「何言うてんのや。ウチとのこと、考えてもええんやで」


「どういうことですか?」


「あん……前に言うたやろ。将来のことや♡ ウチと✕✕✕な関係になって一緒になったら……逆玉やで?」


「へー、部長お金持ちなんですか」


「せやでー。減るか思っとった金が減らんかったからな! ……なんせこの間の魔武本の100億、期限までに換金に来えへんかったんホンマ助かったわ……そして集まった金が1億……エエ小遣いやわ〜ウヒッヒwww」


「え、1億……? 100……億……!?」


「あーー、なんでもあらへんで! なははー!」



 この話は後になって藤堂さんから聞いたけれども……。

 どうやら部長は僕とアッシュの賭けで負債を抱えそうになったけど、換金相手が期限までに引き換えに来なかったから払わなくて済んだってことらしい。


 その額が100億……。


 実際、お金が動かなかったとはいえそんな大勝負になっていたとは思わなかった。


 こんなちっぽけな僕なのに。




 そしてアッシュは沈黙を続けている。


 特に突っかかるのでもなく、無視を決め込むのでもなく、普通だった。


 この間も遅刻をしてしまった時に、生徒会役員だからと遅刻届けを代わりに出してくれたし。


 まあ時々は目が合うけれども、敵意といった感情は読み取れないくらい穏やかだった……と思う。


 ……まぁ僕にとってそれでも平穏な日常だったんだけどね。







 そして今日は今年度の最後の大イベント、魔武一決定戦の日である。

 僕ら1年生の修学旅行は炎天化の兼ね合いで、2年の終わりに延期になっている。

 だから、みなこのイベントを楽しみにしているようだ。


 大々的なイベントのため、魔武本と同じようにメディアは来ているようだ。



 出場するには、エントリー用紙に記入して魔法刻印を押す。

 魔力がない人は普通のハンコが必要だという。


 魔法刻印とは、今の社会でいう個人識別QRコードのようなものだ。

 刻印が残っていればそれが誰か特定できるし、本人のサインとしても有効なのだ。


 ただ、魔武本とは違って魔法制限が設けられていない。

 つまり、己の最大限を出して戦ってもいいとされているかなり危ないイベントである。



 まあ剣道とか柔道の大会でも怪我をすることもあるし……。

 爺ちゃんもそれで失明したしなあ。

 プロレスでも死んじゃうことだってあるし、そうした勝負は死と隣り合わせでもあるってことだ。


 今思えば、入学の時に物騒な書類も書かされたよな。


 「教員引率のイベント(散策・旅行等)での受傷は本校の責任とするが、部活の大会や体育祭・武闘会等での受傷は各々の責任とする。死亡した場合のみこの限りではない」とかなんとか。


 つまり、死ぬこともあるってことだよな……。

 あと、大怪我してもそれは自己責任って言い回し……。


 まあ最大限の力を出していいと言っても魔法医士の方々も呼んでいるからすぐに治療は出来るし。


 最悪、学長の蘇生もあるからな……。

 おおっぴらに使いたくないと思うけど。







「お待たせしました……。今年の最強……最強生徒が今日、決まる……。魔武イチ決定戦! 今年は名前を変えてリニューアル! 魔武一GP、MM−1GPマブワングランプリとなっております!! 実況・解説はおなじみわたくし、二条花楓かえでがお送り致します!! さあ間もなく開幕です!!」




 僕には縁のない大会が開かれた。


 目立ちたくもないし、そもそもそんな力もないし。

 みんなに隠れて応援している方がよっぽど気が楽だ。


 確か鮫島くんは予選通過したって言ってたよな。

 それでもゆっくり見てよう。



「それでは予選を勝ち抜いた、本戦エントリーメンバーの発表です!」




ドンッ!




ザワザワ……ザワザワザワザワザワ



 ん……やけにザワついてるな。

 対戦カードに不満でもあったのかなー。



「す、皇くん……エントリーしたの!?」



 近くにいた村富さんが話しかけてきた。


 随分久しぶりの出演だけど、会話をしたのは数カ月ぶりだ。


 ……じゃなくて!

 そんなことある訳ないじゃないか。



「いや……僕がするはず……」



 ……!?



 え、ちょ……なんで僕が入ってるんだ!?

 登録なんてしてないんだけど!



「あ、いたいた。皇さーん! ささ、こちらにどうぞ」


「ちょ、ちょっとまってぇえぇえ!」



 大会運営委員に引っ張って連行される。



 一体どうなってるんだ……?



 あ、もしや……(回想)




〜〜〜〜〜




「皇くん。今日遅刻したよね。判をもらっていいかな。書類は私が書いておくから」


「あ、そうだった……。うんわかったこれハンコ。よろしく、アッシュ」




〜〜〜〜〜



 ……まさかあの時エントリー用紙に判を!?

 僕が無魔で魔力刻印が使えないから、ハンコだったことを利用して……。


 ……本来であれば予選の大会があったはず。

 しかし1−1は魔武本準優勝の賞品であった、魔武イチ本戦シード権みたいのがあったから僕とアッシュは予選がなくても本戦に出場できたっていうのか……。



 ……アッシュ。

 一体何が目的なんだ。

 みんなの前で僕を笑い者にしたいのか……。



「へー、無魔なのに武器なしてぶらですか? 初戦から強気ですね! ではこちらから進んでください」


「え、もう? っ、初戦!? ウソでしょw」


 さすがに笑う。



 半ば強引に舞台へ引っ張り出された。

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