第54話 重任吐色 (じゅうにんといろ)
*
「いやー、ホッくん! おつかれ! ナイスな活躍だったねぇ~」
「なんでスタートの時に
……確かに。
凍上さんはよくわかってる。
「え、そう?
……如月さん、過大評価しすぎだよ……。
「……文華、皇くんのこと好きだもんね」
「……え……?」
「ファ⁉ ハナちゃんな、何を言ってん、の急にどう、して⁉ フォッ、ホッくんは普通の……男子学生で……好きとかという気持ち……ふ、普通だよ!」
ふ、普通……そうだよ。
僕を好きになる人なんて生涯で1人いるかどうか……。
ましてやこんな可愛い子が……有り得ないだろう。
「あ……ごめん文華。え、えーと……な、仲はいいよね!」
「そ……、そうそ! ま、嫌いじゃあないよ。字も料理も上手いし、優しくて真面目で少しドジなくらいで! 全然普通だよ!」
……「嫌いじゃない」か。
嫌われるよりはマシだよね。
「いやーブラボー皇くん、やるじゃない! 2位なんて凄いじゃないか。クラスに貢献できてよかった。安心したよ」
……アッシュ……。
「……む、アシモ。まーたケチつけにきたのか」
「文華くん、違うよ。確認しにきたんだ。関係者が全員いたからね。さっき皇くんと約束してさ。三人四脚で私のチームに負けたら皇くんはもう君たち2人とはつるまないって決めたんだ」
そ、それは元々そっちから言い出したことじゃないか!
「……は? 何勝手なこと言ってんだよ。男同士の勝負だったらそんな賭け事みたいなことせずゴチャゴチャ言わずに勝つか負けるかでいいじゃんか」
「それがそうもいかないんだ。その〝男同士〟の約束でね。もう決めたことだから一応報告に」
……男同士の約束だって……?
あのやりとりが……?
「え、どういうことだよホッくん。もしかして三人四脚に出るって決めた時の、あのアシモの発言を鵜呑みにして……?」
「なんだなんだ? どうしたんだ?」
「ほら! 例の……1年たちだよ」
「今からもうバチバチじゃんか! く~楽し~!!」
僕らのやり取りを聞いてギャラリーが集まってきてしまった。
「快諾だったよ。ねぇ、皇くん」
何言って……。
あれが快諾だって……?
「あたしはホッくんに聞いてんだよ!」
「ちょうどよかったんじゃないかな。上辺だけの付き合いはめんどくさいからねぇ」
勝手なこと言うな……!
「それでいいのかよ! それが嫌だったら断ればよかったじゃんか。最終的にあたしらを賭けの対象にしたのかよ!」
違う、断れなかったんだ……!!
ピキピキピキ……ピシイッ……!!
「ストップ、全員動かないで。動いたら氷漬けにするから」
「ハ、ハナちゃん……⁉」
凍上さんの足元がピキピキと音を立てて凍りついていく。
この場にいる全員が凍上さんのMA内にいる。
「は、華々くん……、競技以外での魔法は禁止……、使えば出場停止……、最悪退学に……」
「勘違いしないで。問題はそこじゃない。勝負を決めたはずなのに、みんな後からグチグチと……」
かなり苛立っていて、今にも魔法を発動する状態だ……。
「アッシュさん。私たちを賭けの対象にして何を考えてるかわかりませんが人としてありえません。文華も、勝負を決めた時に『受けて立つ』と言い放ったのは文華自身だから。それに今更、何を言ったって変わらないのも想像できる。……そして皇くん。あなたは物事をハッキリ言えなすぎる。嫌なら嫌とどうして言わないの? 1回言ってダメだったとしても言い続けるの。受け入れちゃったら快諾したと言われても否定できないよ」
……!!
「アッシュさん。勝負は続行してもらって構わない。どうするかは知りませんが、私たち3人はあなたみたいな人に絶対負けません!」
と、凍上さん!!
「ハ……ハハハ……。そうか。華々くんも納得しれくれたのか。ならよかった。では君から文華くんを説得しておいてくれ。それじゃあ」
そういってアッシュは校舎の方へ向かっていった。
「……えと、ハナちゃん、ホッくん……ごめん……。あたしアシモに苛立って……ついホッくんにもあたっちゃって……」
「……僕の方こそ……ごめん……」
「はい、この話は終わり。もう投げられてるんだよ、賽。あと数時間後には結果がでてる。その時、
凍上さん……なんか……男っぽいっていうか……かっこいい……って思ってしまった。
「何ですか、皇くん」
「うっ、あ、いや……なにも……」
凍上さんに詰め寄られる。
つい本当のことを思ってしまった。
……ってか、心の中で素直にならないなんて無理だよ!!
「結局アシモのやつ……あたしらが負けたらどうなるって? ホッくんとつるまないって……どゆこと? 一緒に遊ぶなってこと?」
そういう問題でもなさそうだけど……。
「んー……あ、わかった! アシモのヤツ……。ホッくんがあたしらみたいなイケニャンとチーム組んだから嫉妬してるんだ! なるほどなるほど……」
※イケニャンとはイケてる女性の意らしい
「イケニャン……」
話を蒸し返して自分で答えを出した如月さん。
アッシュが本当のところ、どう思ってるかなんてわからない。
……あ、そうだ!
凍上さんの能力なら彼の心の中を読んでるに違いない。
あとで聞こう。
「イケニャン……」
*
3種目の競技「じゃんけんレース」が行われる中、凍上さんにさっき思ったことをこっそり聞いてみた。
「あの、凍上さん。聞きたいこと、わかってると思うけど……どうなんだろ?」
凍上さんは困った顔で一応確認してきた。
「…………。リーディングでアッシュさんの考えてることを読めたかってことだよね?」
「うん。『結局のところ彼は何がしたいのか』ってのはどうしても気になるんだ」
今度は難しい顔をしてこう答えた。
「正直……、彼の考えてることはモヤモヤしてて読めきれない。その感覚を例えるとしたら、A5用紙の両面に限りなく小さな文字でビッチリ書かれている感じ。わかった?」
「な、なんか独特の例えだね……」
「例えなんかじゃないよ。私のリーディングはそんな感じなの。読みにくいといったら巌くんもそうだけど、彼の場合はA4用紙が2枚あって1枚は見えない。ちなみに皇くんは……A3用紙にフォントサイズが48くらいある文字で書かれてるかな」
「え、それって……読みやすいってこと?」
「うん。顔にも出やすいもんねw フフ……」
……心を読みやすい人と読みにくい人がいるのは驚きだ。
巌くんは確かに何を考えているのかわかりにくいってのも頷ける。
そして自分が読まれやすいというのも……まぁ想像はつく。
「アッシュさんの心の中……、書かれてある文字通りに読んでいるようだから、嘘をついてるって感じでもない。逆に言うと自分の考えに対して忠実に動いているのは確か」
それは僕も同じことを考えていた……。
……つまり、2人から僕の記憶を消して本気で自分のモノにしたいってことだよな。
そんなの絶対阻止しなきゃ……!
「え……記憶……?」
「第3種目のバケツリレーに出場する選手は、入場門まで集まってください」
「……あ、もう私の番だ。行かなきゃ」
「ごめん引き止めちゃて! また後で。頑張ってね」
「……うん、ありがと」
応援しよう。
今の僕にできることはそれくらいだから。
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