第42話 拈華微笑(ねんげみしょう)
「……もしもし皇くん? うん、そうです。電話してくれてありがとう。ごめんね、私携帯持ってなくて……。その番号なら私に直接つながるから。うん……皇くんには話しておきたくて。この力のこともバレちゃったし」
今日こそはと、家に帰ってきてから前倒しで家事を済ませ、トレーニングを行い、忘れることなく夜8時。
しかし電話するまで30分、ようやく覚悟を決めてかけたら自室への直通電話だったみたいだ。
親が出たらどうしようかパターンを考えていたから肩の力が抜けた。
「《リーディング》……って呼んでるんだけど、これは〝相手の目〟を見ている時にその人の考えを読み取る力だったの。対象は人だけにとどまらないんだけど」
「人以外にも効果があるってこと……? 動物とかも?」
「うーんと……動物の言語はわからないからそう言うのは出来ないんだけど、感情とか機嫌くらいなら読み取れるね。それ以外だとほら、この前の〖アカシックライブラリ〗の入口の」
「入口っていうと、凍上さんが石板を読んでた時?」
「あれ、実際にはガーゴイルの目の残滓から読み取ったものなの」
「ざん……し……?」
「作り手の思惑、思考、念慮、そうしたものまで読み取れる」
「す、すごいね……。人の心を読むだけじゃないんだ」
「だけど……この前から抑制が効かなくなってる」
「え、どういうこと?」
「前までは〝相手の目〟を見ている時だけしか心は読めなかった。今では魔力を一定まで上げてる間……
「え……代償って普通、力がなくなったりするんじゃないの? 1班の2人みたいに魔法が使えなくなるとか……。逆に強くなるってことある?」
「私の中では代償よ。〖アカシックライブラリ〗の判断は間違ってない。だって、私はこの能力を良い力だとは思ったことない……。それが一層強くなるってことはある意味、代償って言える」
……心を読める、相手の思ってることが伝わるとはどういうことか。
好きな子が自分をどう思ってるか知りたいって考えることはあるけど、知りたくもないことまでわかっちゃうことがどれだけストレスになるんだろうか。
「この能力のことを知って、それでも普通にしててなんて言えないし。でも皇くんには何度も助けられたから……」
「え、助けたって……入学式の時の火傘のこと? あんなの助けたうちに入らないよ」
「それだけじゃないんだけどね……それに私、雨が嫌いなんだ。というよりも水が嫌いで……」
「え、水が嫌い……?」
「私……魔法を覚えたのもかなり早くて。物心ついたときから水魔法が使えたんだ。最初は両親から凄い喜ばれたの。先代は名のある«水単»の家系だったから。でもすぐに能力が伸び悩んで……。今度は手のひらを返したように、『兄と妹よりも劣る』って父から毎日罵声を浴びせられた……」
「……そんなことが……!」
「ある時、気づいたら人の心が読めるようになってた。なんでかは思い出せないけど……それで家族や……みんなの心の声が……うぅ……。そしたら私の«水属性»は変異して«氷属性»に変わってた。心を閉ざしたからだと医者に言われて……私は家を追い出された。母方の叔父に引き取られて……」
……凍上さんにもそんな辛い過去が……。
「凍上さん……」
「そんな時に、皇くんの考えとか行動に助けられたと思ったんだよ。火傘のことだけじゃなくて日常的に。……あ、電話なら心は読めないから安心して……」
「う、うん……」
「それだけだから……。私の能力を知っちゃうと気味が悪がって逃げちゃう人が多い。皇くんも無理しないでいいから……。それじゃあ――」
「待って! 何言ってるの! そんなことで嫌いになるわけないじゃんか!」
「…………」
「僕は純粋に凍上さんのことを……もっと知りたいし、もっと話したい! そ、そんなの言うなれば1つの個性だし。だから……今までと何も変わらないし凍上さんも変わらなくていいよ。……確か、
「……フフ……皇くんは前向きだね。過去、あれだけのことがあって凄いよ。尊敬する……」
「あれだけのことって……なんだっけ? なんか言ったことあった……あ……、もしかして心を読んでなんか聞いちゃった……?」
「……うん、ごめんね。盗み見るつもりなかったんだけど……ちょうどそのことを考えてたときだったのかな。私は皇くんみたいに大変な目にあってもないのに魔法の変異は一向に治らない……。そりゃそうだよね。火の得意属性だったのに急に弱点属性になるんだもん。親から勘当もされるよね」
「え、そんなことで……?」
「最初は治るまで戻ってくるなって言われたんだけど、つい先日に書類が届いて……。高校卒業したら叔父の家からも追い出されちゃうんだ……あはは……みじめでしょ」
「……それまでに治る、治そ! 僕今さ、魔法研究部に入ってるから色々調べてみるよ! 先輩たちも凄い人でさ、きっとみつかるはずだよ!」
「……」
「……」
「……、うん。ありがとう。それじゃあまた明日、待ち合わせ時間に」
「あ……うん……。また……」
ガチャ……
あ……。
電話が切れた後「おやすみ」と言えなくて死ぬほど後悔した。
それよりも凍上さん、そんな状況だったんだ……。
ああは言ったものの、どうしていいかわからない。
またもや部長頼みになるのか。
まだこっちも解決してないのに……。
やることがホントに山積みだ……。
ベッドに横になって少しだけ一息つく。
そんなことを考えながらいつもの日課であった火の操作練習は行う。
サッカーもそうだったが、雨の日だろうと決めた日課は一日たりとも欠かすことはなかった。
まず手を伸ばし、掌を外側に向けて指先に火を灯す。
親指から順番に小指まで……。
それを両手共行う。
全部に火が灯ったら手を返して今度は
最後に両手を合わせて燃やす。
両手の火が合わさって天井まで立ち上る火となる。
そして今度は、今行った工程を逆にやっていく。
燃え盛る炎を両手に、それを指先へ持っていく。
すると、最初の火と比べ物にならない熱量の『火炎』となる。
温度が高いのだろうか。
ほんのり指先が温かい……気がする。
……そういえば自分はこの火によって火傷をしたことがない。
炎獣に襲われた時も火傷せず服だけが溶けていた。
確かに自分の火で自分が燃えたら……意味ないよな。
でも掌で最大級に火力を上げたらもしかして自分でも耐えられないほどの火がでたりするのか、はたまたダメージがあるのか……。
ん……?
炎獣の火に耐性……しかもノーダメ……ってことは……?
炎天化余裕?
……いや、そんなことはないか。
ちょっとのぼせ上がったな。
仮に火耐性があったとしても、倒す術がない。
BMWの火を耐えたところで喰われておしまいだぁ。
はぁ……凍上さん。
あの子の氷……あれ、練度を上げたらかなり凄いことになりそうだよな。
書庫のガーディアンを倒した時、僕が出した炎は一切の加減をしない全力で放ったものだった。
今思うと、かなりハイリスクだった。
一応、僕たち側の火は控えてガーディアン側をかなりの高温にしたんだ。
控えたって言っても氷を溶かして一瞬で蒸気に変えるほどの温度なわけだから、どちらにしろ自滅一歩手前だったってわけだ。
だけど全員無事だった。
自分には耐性があったとしても、みんなが助かったのは凍上さんが氷の膜を張ってくれていたお陰だろう。
後々気づいたけど、みんなの服とか髪の毛とかが少し濡れてたしな。
……。
まあ、自分ができることをやるだけか。
早く寝て明日に備えよう……。
明日はあの2人と作戦会議があるからな。
もうあとには引けない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます