第41話 一葉知秋 (いちようちしゅう)後編

「……で、皇はんは何の能力を得たんや? 代償は?」


「あ、いや……それがわからないんでこっちが聞きたくて……。本を手に取った班員も魔法が使えなくなったりしてるんですけど。これは一体……」


「それ、代償やな」


「恐らくそうだね」



 やっぱりそうなんだ……。



「先輩たちもそんな感じだったんですか?」


「ああ。せやけど過去のデータからも〖アカシックライブラリ〗の到達者はあまりおらんとされとるし、情報開示したがらない者が多いん。禁呪書の力は事実〝魔法領域〟を超えることもあるらしいからの」




 ……魔法の域を超える……。




「その力は正に異能に近いものになる場合もあるんや」




 ……異能……。




「あーと、藤堂の代償なんやったっけ?」


「……忍びの術の全てが使用不可になりました」


 え、忍者なのにそれってまずくないのかな……。


「んで、なにが開花したんやっけ?」


「基本«四属性»……«火水風土»の魔法及びその«四属»の同時使用――って、あえて説明させてます?」


「ま、自分の口から説明してあげた方がええと思ての。忍術が使えんくなって魔法に変わってもーたんを見事に昇華できた成功例やわ。それに魔力砲身を通してへんから魔法に該当されへんらしく、AMアンチマジックされへん。元は忍術やったからか? せやからまあ……相当強いで藤堂は」


「言うなれば拙者は元々、無魔ですからね」


 え……無魔でも魔法を使えるように……⁉

 そう言えば、前にも忍術を応用した魔法とかなんとか言ってた気がする。

 AMされないってことはAMAの影響も受けないんだろうか……。

 ヤバすぎる……。



「ちなみにウチの代償は«火属性»の消失――」


「え、部長! 火魔法使いだったんですか⁉」



 その瞬間、ちょっと親近感を覚えた。



「せやで。«火単ひたん»やったんや」



 «火単»……。

 属性にがつくと、『その属性の魔法しか使えない』という意味を指す……だったよな。


「正に〝悲嘆〟なんちての! まぁ世間は炎天化やったし使えなくなって丁度ええ思たんよ」


「部長、名のしれた炎術師だったんだよ」


「なーに。このご時世、«火»でトップ目指すなんて変人、ウチくらいなもんやったからの。圧倒的分母数の少なさよ。でもヨソと同じことしとうないねん。オンリーワンでいたいやんか。その気持ち、わかるかいな皇はん……?」


 僕は何度も頷いた。

 その気持ちはすごくわかる。

 自分にしかできないこと、それに憧れてずっとこの力を胸にしまいこんでいたんだし。


「……本音言うとな、«火»を失ってショックやったわ。これでもウチの取り柄やったん。せやけど〖禁呪書〗を皮切りに隠された力に目覚めとったんや」


「隠された力……?」


「«天属性»だ」


「あん……藤堂、それこそいいとこ取りやんか」



 «天属性»……。

 〝変異属性〟のさらに上の〝特異属性〟……。



「今んとこ、«天属性»の魔法は【ブラウンゲートブラゲ】しかおもろないねんけども」


「それが超強力なんですから! それをおもちゃにして遊んでるような――」


「おもちゃやん、こないな能力! おもろいねんで」


「皇殿は入部の時に通ってるからわかるよね。転移魔法【ブラウンゲート】」


「はい、通りました」


「入部届に拇印、押されてたでしょ」


「あ……そうでしたね」


「ゲートに入ったら物体の時間が止まるらしいんだ」


「え……」


「なんでも、保管用に入れておいた食べ物が腐らなかったとか……」


 部長を見るとドヤ顔をしている。


「それに、本来の転移魔法っていうのは距離が遠くなるほど位相までの時間がかかるし、具体的な位置座標も必要だし、MP消費も大きい」



 ……教頭の転移魔法もそうなのかな?



「部長の転移魔法は正直……チート。荷物の保管は無限大。入口と出口をくっつければ位相の時間はリアルタイムに同期、つまり手をゲート入口に入れた瞬間に出口から出てくる。距離が遠くても関係ない上に、MP消費も極僅か。そして気に食わない人はゲートの中に入れてしまえばその時点でその人は終了」


「へ……? なんですかそれ……」


「出口を作らない限り永遠に出られない。そして、物体通過中に転移魔法を強制的に消すと……ゲートの中のものだけ消滅――」


「うぐっ……⁉」


「説明ご苦労! まっ、ウチのは物質とか空間の交換を瞬間的にやれるんとちゃうんのよ。ゲートを通らんといけんからそこだけラグいんよな。言うなれば弱点……。せやから瞬間移動に憧れたわー。ウチのより最速なんを。昔あったんや、そんなアニメ。なんやったっけか……。瞬間移動を利用して物体を切断するやつ……」


「部長はアニメおたくだからな」


「おたくちゃうで。マニアでも愛好家でもあらへん。や!」


「は、はぁ……」


 何が違うんだろ。


「……あーーー、なんやったっけー。『と……とある……真珠……角……』? ちゃう! 全然思い出されへん!」


「と……とにかく、部長の転移魔法は次元が違ったわけなんだ」



 僕の通過途中に魔法解除されてたら……真っ二つだったってこと……?

 恐ろしすぎるんだけど……。



「重要なんはココ! 〝時間が止まる〟っちゅうことはどういうことかわかるかいな?」


「え……中に入れば老けないとか?」


「誰がオバサンやねんな!」


「い、言ってませんよそんなこと!」


「……ええか、これを見るんや」


 そういうと部長はゲートを出して物体を出現させた。



ドーン!

ホカホカ……



「……こ、これは3日前の学食の日替わりB定食『エスニックサルサ丼』ではないですか……!」


「よ、ようわかったな……。1枚食べてみ」


「え、あ、はい……」


 3日前のお肉だけど大丈夫かな……。

 言われた通り食べてみる。



「あ、ほんのり温かい。……え、もしかして本当に時間が……」


「せや。これ便利やろ。腐らんし老けんし……って誰がオバサンやねんな!」


 見事な一人ツッコミだが、何で3日前のお肉なんか……。



「……部長はこの日替り定食の肉1枚でお米3杯イケるから取っておいてるんだ。土日はこれでおかずに困らないからね。すっごいケチでしょ――」


「藤堂、100年後にまた会うか?」


「いや! すみませんでした!! すっごい素晴らしいケ……倹約家です!!!」


 部長はゲートをチラチラさせる。


 ……藤堂さんが萎縮する理由がわかった。

 命に関わるんだ……。



「そんな訳で、ゲートに入れとけば食べ物が腐らへんのや! ドヤァ」



 そんなことでドヤってるけども違うんじゃないか?

 大体、そんな使い方だけでいいのかこの人は。

 それ以上にやばい魔法だよコレ……。


 ……そうだよ、この魔法があれば完全犯罪とか余裕じゃないか……!

 ムカついた相手、気に入らないヤツを手あたり次第にブチ込んでいけば……。



「皇はん……自分、危ない顔をしてるで。この力があれば……! みたいなこと考えとるやろ」


 す、鋭い!!


「あんな。そないなことするのは三流のドサンピンだけやで。ま、襲われたりしたらそん時は……、『覇王転移魔法を使うんを躊躇ためらわん』けどな。『ヤっていいのはヤられる覚悟があるヤツだけやで』!」



「よかった、部長が良識ある人で……」



「……自分、アニメもゲームも全く詳しゅうないな。……しゃーない話戻すで。とりあえず〖希少点穴〗に落ちた後の……なんたらガーディアン……ちゅうのがネックやんか。転移硝石なんかで戻ってもうたら10万分の1の運を捨てるもんやで」



 希少点穴に落ちる確率か……。

 でも自分がそれに出くわす運があると思えなかったけど。

 あと突破することも……。



「無魔んなったっちゅうお仲間さん、大丈夫やろ。代償は比較的すぐ起こるんに、開花まではそこそこ時間かかったりするん。ま、それだけの力が得られることがあるわけやからな」


「それは拙者だけです。部長はすぐに開花したって言ってたじゃないですか」


「せやったなぁー。藤堂はあん時、死んでたから見てなかったもんなぁー」


「ギリギリ死んでませんし、それはもういいです……。まあそんな訳で〖禁呪書〗の開花でヤバすぎる能力の中には、〝この世の全ての事象がわかる力〟だったり〝過去に戻る力〟や〝転生する力〟〝蘇生魔法〟……なんていうのもあるらしい。まあこれは言われてるだけで信憑性は全くないけどね」


 転生、蘇生という言葉に一瞬ドキッとしたが平静を装う。



「データが少ないんやからしゃーない。……で、さっきの質問答えとらんやん。皇はんの開花と代償は? それらしい前兆とかあらへんの?」


「……それがどっちも全然わからなくて。実感もないし……」


「無魔から属性は取れんっちゅうわけか? 代償は本人にしかわからんけども、開花なら〝魔法系統発現〟の内容を知る方法があるんやけども」


「え、どうするんですか?」


「……アナライズのスキルレベルカンストしてる猛者にみてもらうんや」


「そんな方……知り合いにいます?」


「誰やったっけかなー……。知ってはいたんやけども……」


「確か去年から赴任してきた楠教諭がカンストに近いんじゃなかったかな?」


「せやったわ! あのセンセか。カンストかどうかはわからんけども、魔力鑑定士の資格をもってはったな。……待てよ? ならウチらの部の顧問もありやな……」


「魔武学の教員は、赴任してきた年は副担任にしかなれないけど、翌年からクラスを持てるはずなので――」


「あ……自分のクラスの担任です、楠先生」


「……なんや、事がうまく運びよるな。皇はん、鑑定ついでに顧問の話も頼んどいてもらえん?」


「は、はぁ……」


「じゃあ決まりやな。ウチ、今日バイトあんねん。皇はんにはこの本を貸すさかいに目ぇ通しとき。返すんは次来るときでええから」



 そう言って一冊の本を渡してきた。


 タイトルは……『起承転結 〜代償と開花について〜 著 逆井光』と書いてある。



 コレが部長の論文……。



「あ、ちょっと待ってください! どうしたら開花するんですか? そこそこ時間がかかるって……ただ待ってればいいだけですか? 班員2人とも魔法が使えないのは困ると思うんで――」


「さっきも言うた通り、急に魔法が使えんのは代償で間違いない思うんやが……。つまり魔法が堰き止められて出ぇへんくなってるだけやの。……例えるなら『血栓』みたいなもんなんや! 代償により回路の一部が消失して堰き止められてるだけや思てええ。……あー、もう時間や! 皇はん、開花したらどうなったか教えたってな。第二版も執筆中やから参考にさせてもらうわ」



 部長はそう言ってその場でターンをする。



 気づいたときにはスーツを着ていた。



「今日は配達3件あんねん。運ぶのは一瞬なんやけど物の確認とか書類提出とかメンドイんよ……。じゃ、そんなわけで藤堂、後頼むで」



 足元に作ったゲートに落ちていく部長……。


 転移魔法で配達か、考えてるなぁ……。


 『血栓』ってどういうことだろう。

 全然わからない。




「ははっ……拙者たちだけになってしまったね。そう言えば問題ってそれだけかい? 話し始めではいくつかありそうな感じもしてたけど」


「あ、いいんです。一番重要なのが聞けたので! ありがとうございました」


 藤堂さんに挨拶をして部室を出た。




 先輩たちに甘んじて全部を相談してても仕方ないよな。

 特に魔武本での賭けなんて、部長たちには全く関係ないんだし。

 1人でなんとかしなくちゃ……。


 ……いや、3人か。

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