火の能力者である俺が異世界転生したら火属性の敵しかいませんでした。辛……

第6話 垂髫戴白（すいちょうたいはく）

トントン……グツグツ……ジュゥー……

　凄い手さばきで料理している。

　少しは手伝おうと思ったがその必要はないみたいだ。

＊

「ではいただきます」

　そう言って手を合わせた。

　作法的には前世と変わんないんだな。

　異世界って言っても偏に何種類も存在している。

　西洋風だったり現代風だったり……。

　僕も詳しいわけじゃないけどよくアンジに薦められて読んでたな……異世界モノ……。

　アンジ……。

「んー……食事中じゃが話してもよいぞ。何が聞きたい？」

「あ、はい……えーと……。いきなりだとちょっと……聞きたいことが多すぎて……」

「ホッホッホ。じゃあワシから聞こうかの」

　人様の家で食事するなんて久しぶりだから緊張する……。

　まぁ婆さんの家に暮らすようになった時も慣れるまで時間かかったもんな。

「まずお前さん……名をなんというんじゃ？」

　あ……そう言えばまだ名乗ってなかったか。

　これは失礼にあたるよな……。

　僕は箸を置き、改めて挨拶をした。

「申し遅れました。僕は『皇。皇焔』と言……」

「ゴフォ！！」

　え、おじいさん……話してる途中で咽（むせ）るんじゃないよ……。

　うちの婆さんみたいに誤嚥したかな……。

　急に畏（かしこ）まったから驚いたかな？

　では改めて……。

「僕は『皇焔』と言います。助けて頂いてありがとうございました」

「す、すまんな……。ちょ、ちょっと……えと、お前さんが想像以上に礼儀正しくての」

　そう言ったおじいさんは僕の顔をマジマジとみてきた。

「あー、そうでしたか。ちゃんとしようと思えば出来るんですけどね」

　つまりはいつもちゃんとしていないと言うこと……と僕は胸の中でこっそり自分にツッコミを入れた。

「……『焔』じゃな。えー、ワシは皆から『ケンゴウ』と言われておる。こっちの方が馴染みがあるからそう呼んでくれ」

　ケンゴウ……。

　剣豪からきてるのかな、名前の由来。

　見るからに体格いいしな。

　……一体幾つなんだろう……。

　60、70……？

　生きてたら僕の爺ちゃんくらいかな？

「焔よ。お前さんは行くところがないんじゃろ？　どうせ当てもあるまいて。空き部屋がある。ここに住んでもよいぞ」

　え、それは助かる……。

　このじいさんはやっぱりいい人だ……。

「ありがとうございます！　何でもします！」

「今、何でもすると？　ホッホ！　こりゃ鍛えがいがありそうじゃわ」

　……あれ、墓穴掘った？

　まぁとにかく宿無しにならなければなんでもいいさ。

「時に焔よ。お主、何故魔力もなしに火魔法を使えるのじゃ？」

「え……僕、魔力ねぇんです？」

　いきなり言われたことが衝撃すぎて言葉遣いが変になってしまった。

「お、むう。ワシ自体も魔力はないからあまりよくわからんが、毛ほども魔力を感じぬぞ」

「てことは……一生魔法は使えないってこと……？」

　そんなぁ……転生した意味が……。

　魔法を使えないなんて、僕はまた役立たずなのか……？

　ただただ過酷な世界でやり直しさせられるってこと？

　あ、でもいじめられてた世界からは逃げられたか……。

「じゃ、じゃからの。ワシが聞きたかったのは何故にお前さんは火魔法を使えるかなんじゃ」

「そ、それは前世から火の能力（ちから）が使えてたんで……。でもあんなタバコの火くらいしか役に立たないなんて、魔法って言わないんじゃないですかね」

「フム、特訓次第じゃないかの。ただ、魔力がないのに魔法が使えるパターンは今までにみたことないがの」

　……。

　まぁ言われてみれば最初はライター程度の火力しかなかったけど、色々試してたら松明（たいまつ）くらいにはなったか。

　……ってことは、この火でかつて夢見た「悪い奴らをバッタバッタ」とやつけて正義の味方になれるかも……！

「そうだ！　この世界ならようやく僕の火の能力が活きるってことでしょ？　悪い奴らも多いはず！　きっと魔王なんかもいるから、そいつらを全員やつけて……」

「あ、あのな……焔よ。熱くなってるとこ悪いんじゃが……。この世界は今、火属性モンスター『炎獣（えんじゅう）』……つまり……メラビーストしか出んのよ」

「ぽえ？」

　変な声がでた。

　……どういうことだろ？

「お主が転生した場所……不死山。あの山から半径80km以内は「炎天化（えんてんか）現象」って言っての、常に燃え盛っておる。約５年前に不死山が噴火してからああいう状態になってしまったんじゃ。それからは山は赤く、木々は燃え、常に山火事状態じゃ。しかも年々その範囲が広がってってる。それに伴ってメラビーストが出現……。このメラビーストってのは実際、火属性を得た既存の動物やモンスターたちじゃ。つまり今……、火属性はいらん子なんじゃ」

「うぇー⁉」

「でも大丈夫じゃよ。魔法としての火は実用的じゃし、魔法がダメならワシのように剣技で埋め合わせればいいんじゃ」

　……いらん子。

　前世でも転生後でもいらん子なんだね、僕は……。

「お主、ひょっとしてしょげてる？」

　じいさんは僕を心配してくれている。

「ま、まぁしょうがないですよね、こればっかりは。人生山あり谷ありですからね……」

「ワシが……お主を鍛えてやろうかの」

　え、じいさんが？

　教えられるのかな……。

　体格は良いんだけどちょっと疑っちゃうよな。

　でも命の恩人だし、信用できるし……お願いしようか。

「じいさん、是非お願いします」

「じ、じいさん……とは……。まぁよいか。間違いではないしの。じゃあビシビシしごいてやりますわい」

　こうして僕は助けてもらった爺さんの家に転がり込んで、家事手伝いの代わりに弟子入りさせてもらうことになった。