第36話 六日目。午前。川女。

 六日目。午前。川女かわじょ


 どうにかこうに気持ちを立て直したりくは、ひまりと共に土曜講義の会場、3階・生物室目指して歩みを進めていた。




(いやっほーぅい! ついに来たぞ! ジョシコーじゃあい!)


 そんな中、場違いなほどにテンションが上がっているのは、すっかり浮かれポンチになった奇稲田くしなだだ。


「ちょ、クシナダ様。もうちょっと抑えて……」


(なにを言う! これでわらわも晴れて立派な女子コーセーになったんじゃぞ! もう誰にも老害ろうがいとは呼ばせぬ。そうじゃ! これを機にわらわ、名を奇稲田姫くし・いなだひめからJKクッシーちゃんに改めて――)


「や。JKってそう言うんじゃないから」


 勘違いしているらしい奇稲田に陸は、キッパリと言った。


 校舎に立ち入っただけで女子高生になれるのならば、世の人は誰でもJKになれてしまうじゃないか。それこそ業者のおじさんとかでも。


「貴方さっきからなにを一人で――あ。もしかして、奇稲田様が?」


「あ。や、大丈夫す。全然そう言うんじゃないんで」


 なにか神託的なものを期待していたひまりに、断りを入れた陸。


 ――まったく何なんだろう、この神様は? 女子高に来たぐらいでこんなに興奮しちゃってさ。これじゃどっちが男子か分かったもんじゃない……あ。でもそう言えば、前に街に出た時もこんな感じだったような。


 奇稲田の本性を知ったような気がして、ため息を吐く陸だ。

 するとひまりが、


「それにしても、本当に一人で大丈夫なの?」


「彼? ああ小宮山君のことすか? でも外の見回りも必要だし、小宮山君、オレなんかより全然しっかりしてますし」


「それは見れば分かるけど……」


 ひまりは苦笑しながら同意した。


 ◇ ◇ ◇


 陸たちが生物室に入ると、そこにいたのは両手の指で足りるぐらいの数の女子生徒と、それと同じぐらいの数の外部受講生たちだった。


咲久さく


 ひまりは、その存在を見つけると声をかけた。


「あれ? 珍しいですね、ひまちゃん先輩が土講どこうに来るなんて……て、え? あれ? リク?」


「う、うっす」


 驚く咲久に、気まずそうな陸。


「なんで?」


「や。なんでって……なんと言いますか……ねえ?」


 陸は困った。

 そんなこと聞かれても、答えなんて用意してあるはずがない。と言うか、むしろどうしてこうなったのか、こっちが聞きたいぐらいなのに。


 陸がマゴマゴしていると、ため息と一緒に答えてくれたのはひまりで、


「私が出ろって言ったのよ。今までの件・・・・・は水に流してあげるから、代わりに土講に出てレポート提出しなさいって」


「ああ! なるほど。それで……ん?」


 そんなひまりに、一度はポンと手を打ちかけた咲久。けれどやっぱり腑に落ちなかったようで。


「いや、分かんないです。土講と今までのことって全然つながらなくないですか?」


「そうね……ホントのこと言うとね。単に嫌がらせをしたかったの」


「ああですよね! なら納得!」


 今度こそ咲久は納得した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る