一日目
第10話 一日目。早朝。氷室神社前。
――
一日目。早朝。
「オレ、昨日の夜考えたんすけど――」
いつもより早く家を出た陸は、昨日と変わらない
「――サクが破滅するとか言われても、今の日本でなにをどうしたら破滅できるのか、いまいちピンとこないんすよ」
白状した陸。
彼が破滅と言われて思い出すのは、サルカニ合戦のサル。そしてシンデレラの継母。おとぎ話ばかりで、およそ現実離れしたエピソードしか思いつかなかったのだ。
けれど奇稲田は、陸のその言葉こそ意外だったようで。
(ほう、そうなのかえ? わらわ、性格に難のある令嬢の間では、割とあることだと聞いておったのじゃが)
「令嬢て……そんなのどこで聞いたんすか?」
(はて……そう言われると、どこじゃったか?)
風の噂とでも言いたいのだろうか。あまりはっきり覚えていないらしい奇稲田だ。
彼女、一年中神社に
でもまあ何にしても、現代日本の普通の女子高生である咲久に破滅なんて、たとえそれがサルだろうが令嬢だろうが、相当な無理をしてもまだ無理があり過ぎる話だ。
「一応言っときますけど、そんな話普通はないす」
陸は言った。
神様なんて、どうせ
いや。それどころか彼女、その予想の斜め上を行くらしい。
「それよりもクシナダ様。何かヒント……あー、手がかりないすか? さすがに『破滅する』だけじゃ対処のしようがないす」
(そう言われてものう……今のわらわは
困ったらしい奇稲田は、独り言のようにもごもごと答えるだけだった。
◇ ◇ ◇
「なに一人でブツブツ言ってんの?」
「!?」
不意にかけられた声に、陸は驚いて振り向いた。
「――ってサク! なんで!?」
「なんでって、ここわたしんちだし」
忘れたの? と、冗談めかす咲久。
「じゃなくて。なんでこんなに早いんだって?」
「部活」
咲久はあっさりと答えた。
彼女、弓道はあまり本気で打ち込んではいないようだけど、それでもたまに顔を出すぐらいのやる気はあるらしい。
「で、そっちこそなんでウチの前でブツブツ言ってたの? お参り?」
「え? や。そんなんじゃねえし」
予想外の遭遇に焦った陸は否定した。
適当に頷いておけばそこで終わったなのに、つい否定してしまう。まあ正直かつ不器用な彼では、それも仕方のないことなのだけど……
「じゃなに? あ。もしかしてわたしに用?」
「えっ!? や? やっ! そんなわけねえし!」
咲久の言葉を否定しまくる陸だ。けれど実際のところ、彼は咲久に用事があった。
――咲久の破滅を宣告されたのは昨日の夕方のこと。
たった一晩で正体すら分からない破滅を回避できる方法なんて見つけられるはずもなく、苦慮した陸がどうにか思い付いたのが、彼女に直接会ってその無事を確かめること。だったのだけど……
「じゃあなによ?」
「え? あ~……サクには関係ねえことだし!」
陸はついつい真逆のことを言い募っていた。
朝っぱらから別の学校の女子に用がある。そのことがなんとなく気恥ずかしくて仕方がない陸だ。
そんな彼だからこそ、図星を突かれると逆に否定するしかできなくなってしまうわけで……
「な、なんでもねえから!」
言い訳に困った陸は、用事があるはずの咲久を追い払いにかかっていた。
「……ふーん。そ。じゃ」
つまらなそうに答えた咲久。自転車のペダルに足をかけ、そのまま去ろうとする。すると――
「あ。サ、サク」
「ん?」
陸の呼びかけに、咲久は踏みかけのペダルを止めた。
「えと……その、き、今日もさ……英語……教えて欲しいんだけど……」
「は? でも昨日、もうわたしには頼まないとか言ってたじゃん」
「そ、それはそう……なんだけど……」
彼女、つい今し方の邪険な態度に結構ムッとしていたらしい。いつも以上に意地悪な咲久に、陸はたじたじだ。
本音じゃ英語なんてどうでもよかったし、咲久にはもう教わりたくないのも本当だ。けど、咲久を守るのにまだ何の手がかりもない以上、彼女の傍にいる時間はなるべく確保しておいた方がいいわけで。
「オネガイシマス。サク先生。英語、オシエテクダサイ」
「了。でも今日ちょっと約束あるから遅くなるかも」
頭を下げる陸に、ふっと一つ息を吐いた咲久。
こうして、どうにかこうにか約束を取り付けた陸は、学校へと向う咲久の背中を見送った。
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