road
ベニテングダケ
第1話 花火
「揺らぐ東京。これは陽炎のせいかな」
そのセリフを彼女が言ったのは確か10年前。あの暑さは尋常じゃ無い程肌に悪く地方東京には酷く暑さがこびりついた。遥か昔、世界は地球温暖化が、進みづつけキリ良く2080年という年で油や物体が無くとも路上に一つ炎が生まれた。炎は国を燃やし燃やし続けて大量の人間が死んだ。
故に人は炎を消す術を身体から発生させるべく進化した。その能力を発生させた人間を消化人と名付けた。
路上に登る炎を消化し続ける。それが今の人間の在り方。勿論人は暑さに耐えるべく身体を進化させた。
「あっつ…」
僕はフードを脱ぎ、この暑さに不満を抱いた。今日の東京の温度は320度で、猛暑だった。
広がる草原が燃え盛る。僕の足元も燃え盛る。消化が面倒臭くて僕は足を動かしその場を後にする。
古賀涙。それが僕の名前。親があまり泣かない子になる様にと名付けてくれた名前。そのおかげか分からないが、幼少期から泣くという事をあまりしなかったらしい。僕は汗をタオルで拭いて、煙草に火をつけた。アイスブラスト。この暑さを耐え抜くにはメンソールじゃなきゃ難しい。
「すぅ…今月で30000円か。煙草に金かかりすぎだな」
僕には家族がいない。燃え死んだ。人間には熱に耐えれる温度というものが存在する。低い人間は、120度、130度くらいしか耐えれず、高い人間は840度なんてのもいる。僕は熱に弱い家族の中ではあまりに高く800度の熱に耐えれる。
夕食には帰るよなんていって帰らなかった家族を、僕は嫌っていた。帰って来て欲しかった。でも忘れるべきで、だから忘れた。人口1億人、8千万人、5千万人、三千万人。そこで人が燃え死ぬのが一回止まった。
そこで、一千万人程が東京に住み着いたん
「だっ!」
僕の肩に衝撃が走る。いや痛みという物ではなく、手で叩く様な。僕が後ろを振り向くと後ろには少女がいた。
「何辛気臭い顔してるんだよ!…いや元からかな」
「うるさいよ勿雛。あと後ろからじゃなく前から来てよ。煙草吸ってるんだから」
「あっ!また煙草吸って!あんた18歳でしょ!」
「煙草くらいでうるさいなぁ。そもそも20まで吸うなってのが悪いんだよ。今から2年待つなんて酷いだろ」
「肺に悪いんだよ。煙草消して!」
勿雛は、僕から煙草を奪い取り、軽く肺をおとすち落とすと、僕の携帯灰皿に入れた。
「それより何か用か?勿雛」
「用がないなら話しちゃ駄目なの?まぁ用があるんだけどさ。ちょっとそこでお茶でもどうかな」
「ナンパかよ。良いよ行こうか」
勿雛は僕の手を取り、足を進めた。彼女の笑顔が僕には眩しくて、少し目を細めた。
喫茶店のメニューにあるミルクレープとアイスキャラメルマキアートを勿雛が選び、僕はアイスコーヒーとショートケーキを選んだ。
「美味しいねぇ。やっぱここのミルクレープが一番!」
「勿雛は本当にミルクレープ好きだね。断層の何がいいのか僕には分からないよ」
「分からなくて良いの。自分の好きな物を良い物。好きな物って言えるのが一番良いんだから」
「じゃあ僕の煙草も」
「それは駄目!」
食い気味に言われた。仕方ない煙草は家で吸おう。
「なぁに話してんの」
男の声、僕が顔を向かせるとそこには僕達の友達、笠樹大地がいた。
「大地。元気だったか?君もここにいたんだな」
「おう元気元気。勿雛ちゃんも元気?」
「元気だよ〜笠樹。それより何か用?用ないなら出てってくんない?」
「連れないなぁ。用ってのはさ。最近の炎人の話」
炎人。ニュースでよく見る消化人なのに自動発火のできる人間。人を燃やし尽くしそれに快楽を持つ変態。
「炎人がどうしたんだ?大地」
「あぁお前にも話しとくよ。最近代々木に出たんだってさ。代々木のカスタマ裏の路地」
「あそこ良く使うのにな。喫煙できるし」
「だから駄目だってば!」
勿雛は喫煙に本当に煩い。僕に優しくなくて僕の肺にはめっぽう優しい。
「まぁ気をつけなよ。あぁ勿雛ちゃん今度ご飯」
「行かない」
「連れない。まぁ良いや涙、今度行こうぜ」
「あぁ。またな」
そう言うと大地は、店を出た。少し残念そうな顔をしていたのを見過ごしはしなかった。
「私あいつ嫌い。なんか私の身体ばっかり見てくる。特に首?てか胸かな」
「気のせい…ではないか。視線が胸にあるし」
「分かってんじゃん。ミルクレープ一口食べる?」
「僕断層嫌い」
「分かってない」
「それより炎人お前も気をつけろよ。うちの大学でも何人かやられたらしいし」
「気をつけるよ。涙も気をつけなよ。フッ」
そう言うと、僕の額に軽く風を浴びせた。
「能力、弱いの知ってるんだから」
勿雛の能力は風、微風程度しか僕の前では出さないが、僕より強いのを知っている。
「…つっ」
「指に氷の膜張る程度だもんね。しかも人差し指だけ」
そう。僕の能力は氷。だが弱すぎる。これが限界。
「とりあえず暗くなる前に帰ろう勿雛。ご馳走様」
「奢らないからね!割り勘割り勘」
僕は最寄駅まで勿雛を送り家に帰った。
ベッドに寝転ぶと、スマホを持った。充電がない。とりあえず煙草に火をつけた。寝煙草は危ないが、能力でベッドが焼ける前に冷やせる。
「でも、やっぱり弱すぎる」
いくら寝ただろうか。スマホの充電は100%。煙草の火は灰皿に置いたまま消えていた。時刻は21時で、LINEは一件来ていた。
「ウェイ涙。今から会わね?勿雛もいる」
勿雛が?珍しい。まぁ一応友達だしな。
「分かった。行く。代々木?」
「そう代々木のカスタマの裏路地」
「了解」
「もうすぐだから早く来いよ」
もうすぐ?花火でもやるのか?代々木から?
「もうすぐって何?」
「来てからのお楽しみ」
…何か悪寒がした。服は、脱いでない。今のままで良い。行こう。僕は鍵を閉める事も忘れ家を出た。
代々木駅に着くと大地が待っていた。
「よぅ!こっちだこっち」
「あぁ。分かったよ」
何故か大地の笑顔はいつもの作った様な物ではなく、久しぶりに心の底からの笑顔だった。
「こっち。勿雛も待ってるから」
路地に入った大地が手招きする。中に入る。
「花火か?夏だもんな」
「うん。そんなとこ」
花火の灰の様なものがあった。でも灰の先にあったのは。花火では無く。
「は?」
人型の物だった。
「分かるだろ涙」
「…」
「勿雛だよ。醜いだろ」
「…なんでだ?大地」
「うん。炎人だから。俺勿雛のこと好きだった。だから燃やしたかったんだよ」
僕の心に湧き上がるこれは。悲しみ。哀れみ。恐怖。違かったよ勿雛。これは怒りだよ。
「お前も燃やしたい。死ねよ涙」
「…あぁ。でも死ぬのはお前だよ大地。勿雛の行くべき天国じゃない。地獄に送ってやる」
僕の力はもう氷では無かった。右腕まで広がる。氷結だったよ。
「は?なんでお前の力そんな強く」
僕は大地が言い切る前に顔を殴った。
「いてぇ。いたいよぉ!!」
大地が涙を浮かべながら叫ぶ。僕の左足が前へ進む。
「なぁ…大地。僕の力こんな強かったんだな。僕の力こんな冷たかったんだな」
「やめろよ涙!」
大地の口から炎が出る。でもそれより前に
「汚いよ。今のお前」
大地の心臓を突き刺した。氷の刃。僕の手で。
「さよなら大地。お前が嫌いだったよ僕は」
大地は何も言わず、開け続けていた眼を閉じた。倒れた大地を見て。僕は何故か綺麗だと思った。
「勿雛」
灰になった勿雛を見て、僕は煙草に火をつけた。いつもならこの場にいる勿雛が、僕の喫煙を止めたろう。僕は壁に寄りかかる。一口吸って。
「勿雛…止めてくれよ」
煙を吐き出した。
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