第4話 わたくし、気になります
リイン邸、地下二階。石造りで、薄暗く広い部屋には
「『緊急』だそうですが……今回は具体的ではありませんね」
通常、指令は具体的な内容だ。だが、今回はそうでなかった。「屋敷の地下二階へ向かえ」……これでは月夜はもう既に任務を完了したことになる。
「もう、自室に戻ってもよいのでしょうか」
顎に手をあてて、
――本当にここに来ることだけが指令?
……ふと、視界の中に入ったとあるモノが気になって足が止まる。
「なんでしょう、コレは」
それは奇妙な形をした、いびつな壺だった。……まるで、こちらを誘っているかのように施された不気味な
「
思考が、乱れる。どうしてこんなただの壺に
……月夜は無意識に、手を伸ばしていた。少し。あと、もう少し。
「えい」
そう、なんてことはない。ただ月夜は指先でチョンとその壺に触れただけだった。高価なものだったとしても、所有者がかんかんに怒るような程度だろう。
「なにをしているんでしょう、わたくしは」
もしかしたら、今までに一度もなかったことだったかもしれない。何かに気を取られて任務を忘れる――。それほどまでにこの壺には価値があるのだろうか。
ふと、我に返ってまた任務のことを考えようとした。
その
突然、
月夜は反射的に腕で自身を守り、目をキュッと細めた。
「なっ、なな、なんでしょうこの光はっ――!?」
その場を離れようとするも、なぜか身体が硬直してしまって動けない。
「くっ……!」
完全に何も見えなくなったと同時。意識を失った。
◇◇◇
「月夜さんっ!」
地下の扉が勢いよく開いた。先ほどの黒髪の青年だ。恐らく心配になって後を追いかけてきていたのだろう。
辺りをうろうろと歩き回って、月夜を探す。だが。
「………………」
リイン邸、地下二階。様々な骨董品が飾られている石造りの大広間には。
人の気配など、もうどこにもなかった――。
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