蛮勇

二歳児

第1話

 どこぞのふざけた神様が、俺らの世界を変えに来たらしい。どうやら人間なぞという存在があまりにもクズ過ぎて、どげんかせんといかん、と張り切って宇宙の垣根を越えて来たのだと。

 そのせいで、俺たち人間は謎のサイボーグに大量に襲撃されている。人型ですらなく、六足歩行の彼らは、何かしら不可思議なエネルギーを用いて活動しているらしく、対策手段とすれば手当たり次第にぶっ壊すこと程度しかない。しかも最悪なことには、近接戦闘でどうにかしようとしていると、クソサイボーグの奴らは自爆して辺りにいる人間すべてを巻き込もうとして来る。


 しかしそれを黙って見ている人間ではない。やはりいつの時代にも一人は天才がいるもので、サイボーグが席巻して直ぐに、彼らの構造を解析して武器開発に応用した者がいた。

 その武器は、レールガン。銃弾も銃身も、サイボーグの廃材を用いれば簡単に作成する事が出来た。エネルギーは勿論、サイボーグが用いているのと同じ、摩訶不思議なエネルギーだ。よって武器の使用によって消費されるのは弾丸だけ。しかしその弾丸も、比較的簡単に作成する事が出来る。

 その結果として、その武器は全世界に大量に出回ることになった。それを後追いするように、サイボーグの天板の一部を材にした防具も出回るようになった。


 そうして、人間は反撃の力を手に入れた。防具を持ち、レールガンを使用して遠距離からサイボーグを殲滅するようになった。

 しかしその引き換えに、治安は最悪になった。法はなくなり、人口は減り、義務教育なんてものは随分前に消え失せた。


 だから俺はどうしても童貞が卒業したかった。こんなアポカリプスで、いつ死ぬかも分からない状態で、女の経験すらなく死ぬのは嫌だった。別に大量の女を侍らせるとかじゃなくていいから、一人の良い女と抱き合いたかった。出来れば好みの女が良かった。髪が短くて、健康的で、闊達に笑う女性ひとが良かった。


 そのためには、まずは力を手に入れなければならない。いつの世の中も、その情勢の中で力を持てる奴がモテる。経済社会では、金がある奴がモテる。今の社会では、大量のサイボーグを破壊して回れる人間がモテる。

 俺はそう信じている。


 だから、戦場に飛び込んだ。大学生で一人暮らしをしていたせいで、この行動を引き留めるような家族はおらず、免許も持ってないのにレンタカーを借りて、そのまま戦場へと車を走らせた。本当はじいちゃんが謎に持ってた飛行機でも遣いたかったけど、実家に帰ると止められる気がしたから普通に車を使った。

 レンタカー屋のおっちゃんは、俺が戦場に行くのだと言ったら、爆笑しながら低価格で車を貸してくれて、更には運転の仕方も軽く教えてくれた。本当に良いおっちゃんだったと思う。出来ればああいう人には長生きしてほしい。


 そうして実際にサイボーグが雪崩れ込んできて都市が壊滅的になっている場所に向かったのだが、俺はサイボーグを破壊する快感にハマった。最初の一ヶ月はおっかなビックリ戦っていたのだが、一度大量のサイボーグに四方八方を囲まれて、それをレールガン一つで壊滅させて逃げ切った経験の後からは、もう破壊することに気持ち良さしか覚えていなかった。

 それから、もう一年以上経っているのだろう。

 

 こうして、現在に至る。


「で、君は何が言いたいって?」

「童貞を卒業させてくださいお願いします」


 目の前で、先程まで楽しそうに笑っていた顔を若干引き攣らせて、木葉このはさんが言った。少し背が低くて、健康的な小麦肌に、肩にもかからないようなボブ。良く笑い、良く話す。ドストライクである。俺の天使が見つかったのである。

 最早この状況を逃せるわけがない。土下座である。


 この場所は、戦闘中心地から少し離れた廃墟の中。先程、彼女がパンクした車を前に困っているのを見かけて、まずはサイボーグに見つからないように屋内に入った。

 そして、彼女と若干の日常会話を熟した後、色々な過程を経て、このように頭を地面に擦り付けて頼み込んでいるのであった。


「マジで好みです。めちゃくちゃ可愛いし、こんな時代に良く笑ってて明るいし、マジで俺に金輪際こんな好みの女性が現れるわけないんです。お願いします」


 女性経験の無さゆえに、どうしたら女性に言い寄れるのかも分からない。仲の深め方など言うまでもなく、話しかけることすら怪しい。

 だから正面突破である。頼み込むしかなかった。俺の熱意を直接ぶつけるしか、方法が思いつかなかった。


「…………私のことを守ってくれるとかだったら、考える」

「死ぬ気で守りますマジで。本気で守りますから」


 幸い、一般サイボーグ程度だったら一方的に殺されるようなことはない。この半年間、大量のクソ機械共を破壊してきたおかげで、どう戦えば良いかも大体頭の中に入っている。


「おいで」


 彼女は、少し緊張した面持ちで言った。

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