第26話
【アルヴァトロス領にて】
「ふ……(いや~~~~~~上手く罠にハマってくれてよかったねぇ~~~!)」
地面に沈んだままボーガン十万丁掃射を食らってる大軍勢。そいつらを見ながら俺は内心ホッとしていた。
これで敵がもっと慎重にバラけて突撃してたら困ったけどね。
でもみんなで突撃してくるから穴落として行動不能ですわ~。
というわけで、
「我が誇るべき臣民たちよ。いいぞ、そうだ、撃ち続けろ。お前たちは強い。お前たちこそ死神だ。お前たちこそ選ばれし戦士だ! 正義と命を穢さんとする邪悪極まる獣軍に、お前たちこそ鉄槌を下せ――!」
『ウォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッッッッッ!!!』
はい、みんなノリと勢いで殺人処女切ってねぇ~~~! このために相手を動かせなくしたんだからねっ!
殺人は大事だよ殺人は。
まずは人間を一人くらい殺さないと戦場じゃ使い物にならないからね~。これが出来ないとクレメントさんみたいに死んじゃうからさ~……!(クレメントさん:出兵先で出会った気のいいおじさん。妻子持ちな子供好きの人で、まだ少年だった俺を気遣ってくれていた。ただ優しさゆえに暴力を振るうことが出来ず、敵兵の前で固まって頭部粉砕死。一生家族に会えなくなった)
殺人への抵抗と難易度を下げるためにも『
「さて、このまま終わればラクでいいが」
「――まだだッ!」
とそこで、死体の山より暴風が起きた。
数多の死肉と矢を吹き飛ばし、潰れかけの獣人少年が飛び出してきた。
「ふざけんじゃねェぞクソ英雄がッ! この一等魔術師『死に風イルク』様がッ、こんな罠で死ぬかボケぇ!」
と叫びながらボーガンの矢を吹き飛ばすイルクくん。
「その弓矢
などと嘲っているが、その活躍は三秒で終わりだ。
「やれ」
「――は?」
乾いた射撃音と共に、イルクくんの額から鏃が生えてきたからだ。
「は……はひゃっ、お゛ッ、ぉひ゛ぃっ……!?」
脳を破壊されながら、イルクくんはふらふらと振り向いた。
そこでようやく彼は気付いたようだ。後ろにも、ボーガン部隊が居並んでいたことをな。
「すまんが、
ゆえに部隊を分けておいた。
風術師が正面に暴風を放った瞬間、後方より忍ばせた軍勢に死角から撃たせるようにな。
「ぞ゛、そん゛、なぁ……!?」
「人の警戒が最も緩まる瞬間とは、防御に成功した時だ。それではイルクよ、無力にさらばだ」
「あぁあああああああーーーーーーッッッ!?」
こうして彼は矢衾になって死亡した。まだ若いけど襲ってきたならしゃーないね。
また後方部隊の射撃も始まり、敵軍は両面から襲われる形だ。加速度的に死傷者は増え、降伏を訴える声が響き渡った。
「うぐううッ!? ゆっ、許してくれぇッ! 降参だぁっ!」
「やめろっ、もう我らに戦意はない! 条約違反で訴えるぞッ!」
「これ以上は国際法条約違反だァーーーッ! 戦犯になりたくなかったら、もうやめろぉおーーーーっ!」
と叫ばれるが、困ったなぁ。
条約って一体何のことだ?
「……『ソフィア条約』は、創造神の名の下、六大国家の正規軍に適用される法だ。戦争の苛烈さに歯止めを効かせ、女神ソフィアに創られし各種族の絶滅を防ぐためにな」
その点お前らってさぁ、
「お前たちは、
『ッ――!?』
彼らの兵装には、どこにも正規軍の証たる国章がなかった。
ならば条約の適用外だ。つか突撃するとき声高々に『今の我らはゲリラ軍だ! ゆえに条約を守る必要はなく』とかほざいてたしな。
「ゆえに殺す。一匹残らず殺してやる。貴様らのような人道外れた者どもに、生きる価値などないと知れ」
なぁそうだろう?
「『火炙りの魔女』ニーナよ」
「――はいッ!」
瞬間、蒼き獄炎が敵軍勢に降り注いだ。
戦闘力だけは頼れる銀髪メイド、ニーナが蒼炎輪を背に空を飛び、極大の殲滅魔術を解き放ったのだ。
『グギャァアアアアアアァアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッッッ!?』
響く幾万の断末魔。加速度的な虐殺劇は魔女の炎で激しさを増し、いよいよクライマックスに向かっていく。
さぁーて。これでようやく終わりかと、そう思ったが――。
「――終わらんわァッ! 殺してやるぞアルヴァトロスッ!」
地獄の炎を弾き飛ばし、狐女が死体の山から飛び出してきた。
すごい怒ってるけどどしたん?
「亡き息子の仇ィィイイーーーーーッ!」
あーそれは俺が悪いわ。
じゃ、殺すね……。
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・お前みたいな英雄がいるかアルヴァトロスくん――!
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