第18話
【アルヴァトロス領、大通り】
「うぉおおおおおおおおおーーーー! アルヴァトロス閣下が、数万を超える臣民を引き連れてお戻りなされたぞォオーーーッッッ!?」
「敵地たる辺境伯領に向かったのは、そういう意図があってのことかーーーッ!?」
「なんという手腕! そしてなんという求心力だ! まさに閣下の魅力・偉業・知略全てが凄まじい証拠だろうッ!」
「あれだけの民衆大移動を決定したのだ、きっと怪しげだったシュレヒトも閣下の部下になったに違いない!」
「アルヴァトロス隊長閣下
……辺境伯領から大群を連れて戻るや、領民たちがワーワーッと俺を褒め称えた。
『流石です閣下ァ! こんな作戦があったんですねーーーッ!?』
「フッ……(って、俺も知らねえよボケェーーーーーーーッ!!!)」
俺はただ特産物見に行っただけだよッ!
そしたらなんかこうなっちゃったんだよッッッ!
あーもうこうなったらはっきり言ってやろ!
「……人々よ、どうか勘違いしないでくれ。俺は作戦なぞ考えていない」
『えッ!?』
「俺はあくまで、素晴らしき特産物を得るために隣領を訪れただけのこと。それ以上でも以下でもないのだ」
そう。どんな特産物をウチの領で開発しようかな~~って悩んで、取材に行っただけなんだよ。
なのに気付いたら民衆たちがカモの子みたいについてきて、こうなっちゃっただけなんだよ!
みんなわかったーーー!?
「――そういうことだったんですね、閣下」
「ニーナ」
おっ、隣を歩くニーナさんはわかってくれたみたいだ。
アイドル顔を理解者
「閣下が手にしたい素晴らしき特産物とは、“そこに住まう人々”のことだったんですね――!?」
『うぉおおおおお流石はアルヴァトロス隊長閣下ぁああああーーーーーーッ!!!』
ってちがあああああーーーーーーーーう!!!
変な解釈すんなボケッ!
「おッ、おおおお……! 我らシュレヒト領の民を、そんな風に言ってくれるなんて……!」
「真に得難きものとは我ら職人の作る高級品でなく、職人自体ということか――!? 流石は閣下は真理をわかってらっしゃるッ!」
「オォッ、まさに軍団長の鑑! 貴方様に仕えることこそ我ら軍人の誉れですぞォーーーッ!」
……勝手な解釈に盛り上がる元シュレヒト領民たち。
さっそくアルヴァトロス民たちと迎合し、肩を組んで『国歌斉唱ッ! あぁ~素晴らしき~偉大なる空に輝く黒翼山の星にして隊長閣下ァッ~!』と熱唱を始めた。
ってなんだその歌知らねーぞ!? そもそも『国歌』ってなんだよ国作らねぇよ!?
「はぁぁ……(俺は平穏に暮らしたいだけなのにぃ……!)」
溜息が出る。
疲労感だけでなく、シュレヒトさんの領民をなぜか奪うことになってしまった罪悪感……。そして領民を
「人がいっぱいついてきて閣下はすごいのだ! 大好きなのだっ!」
あーとりあえずラフムちゃん見て
明日はもっと楽しくなるよねラフ太郎?
「やったのだ閣下! 閣下が民族繁殖するための、子宮がいっぱい増えたのだ!」
はい戦犯犬ーーーーッ! とっとと処刑されろラフ太郎! こんなペットいらねえよチクショウッ!
ああ、誰か俺を、このクソみたいな現実から救ってくれぇ~~~!
◆ ◇ ◆
――色々不満な俺をよそに、引っ越してきたシュレヒト領民たちは幸せそうだった。
「おぉーーートイレが汲み取らずとも流れていくぞ!?」
「捻れば水が出てくるぞぉ~~!」
「温かいお湯にいつでも浸かれるなんて、貴族みたいだ!」
地脈弄って利用しやすくした水回りや、地底ガスを引いて沸かし放題な銭湯は大好評みたいだ。
もうこの時点で女性領民たちから神を見る目で見られてるが、俺は崇拝とかしてこない普通の女性と結ばれたいからやめてくれぇ~……!
「……人々よ、住居の様子はどうかな?」
「これは閣下っ! 綺麗で広い上、各家庭に無料で一軒与えられるなんて夢のようですっっっ!」
ちなみに家は全家族に与えてやった。
数万件の物件を用意するとなれば土地問題がやばそうだが、そのへんは大丈夫だ。
「ふぅ……(未開な時代に救われたな)」
元々、俺の領地は明確な範囲が決まっているわけではない。
アバウトな地図しかなく、航空映像から精密な線引きも出来ない世界だしな。
王族も“シュレヒト領の前面から、森を挟んでウルク王国と対峙する地を領地とせよ”としか言ってないため、森をちょぃーと切り拓けばすぐに領地の拡充可能なのだ。
……おかげでウルク王国とさらに近づいちゃったけど、まぁ遠目には気付かないだろたぶん……!
「では新たな民たちよ、俺は職人街と軍基地の様子を見に行くからな」
「はい! アルヴァトロス閣下についてきて本当に良かったッ! 『創国記』の真っただ中にいると実感できます!」
だから国は作らねーよッッッ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます