第16話


「ほ、本物のアルヴァトロス様だぁーーーーーーッッッ!?」

「なんと麗しいッ! 肖像画以上だ!」

「同じ人間なのだろうか!?!?」



 どうもアルヴァトロスくんです。


 特産品を取材するため辺境領にやってきたのですが、いつの間にやら民衆たちに取り囲まれちゃいました……!



「(ひええええこわいよーーー!?)……少々、騒々しいぞ諸君」


『これは失礼しましたッ! 偉大なる空に輝く黒翼山の星にしてアルヴァトロス隊長閣下ッッッ!』



 ってなんで初見のアンタらまでその呼び方してくるんだよ!? 流行ってるの!?



「……まぁ、俺を好いてくれるのは光栄だ。……されど所詮、俺は人殺しで成り上がった男だからな……」



 いっぱい殺しちゃったからねぇ~。もっと最低限の殺戮で勝ててたらって、後悔することよくあるよ。

 今ならジョセフくんの気持ち少しわかるなぁ……!(※ジョセフくん:優秀な魔術兵。いい子。土魔法で何万もの敵を生き埋めにしてきた頼れる戦友だったけど、殺人へのストレスから精神を病み、晩年は盗みだした致死量のモルヒネを自身に投与。痙攣しながら肝障害で死んじゃった)



「ゆえに人々よ、どうか罪なき瞳であまり俺を見ないでくれ。俺は、愛すべからざる存在なのだから……」



 そっけなくしてごめんだけど、俺は人々から目を伏せた。


 すると、そっけなくされて俺を嫌うかなぁと思った民衆たちは、なぜか『はぅッッッ!?』と変な声を上げた。ってなに!?



「アッ……アルヴァトロス隊長閣下ーーーーッ! 私たちは閣下の理解者です!」

「護国のための殺人をッ、誰が非難しましょうや! 我らが全力で護ります!」

「どうかその冷えた御心をお側で温めさせてくださぁいいいいいいいいい!」



 ひえええええッ!? 泣きながらもっと俺に集まってきた!? なんなのこの人たちぃ~~~~~~!?



◆ ◇ ◆



 どうにか人々を撒いた後。



「ラフムと買い集めてきました。シュレヒト辺境領の主な特産品である、『木綿コットン』『ワイン』『鉄器』となります」「なのだー!」


「ご苦労」



 現在、戦犯美少女二人に動いてもらって、職人街から商品を集めてもらったところだ。


 俺自身がうろつくと人寄ってきて迷惑になるからねぇ~……!



「近隣には森が広がっているからな。木綿とワインは、そこで採れたワタと葡萄を使っているのか」


「鉄器については、近隣の河から良質な砂鉄がよく採れるからみたいですね~」


「我が領地の土にも多量に含まれていたな。ここの土地性というやつか」



 なるほどねぇ~。辺境領の特産品については大体わかったわ。やっぱその土地の産出物を使うのがベターなのね。



「ふむ、よくわかった」



 黄ばみ気味なコットン、匂いの薄いワイン、鏡面の濁った鉄器を見てふと思う。



「はぁ、非常に惜しいなぁ。俺の魔術で素材を洗練すれば、もっと良いものが出来るものの」


『ッッッ――!?』



 とその時だ。俺が何気なく呟いた瞬間、周囲の曲がり角や路地裏やゴミ箱から、人々が飛び出してきた!


 ってなになになになに!?



「お前たちは……」


「あぁこれはすいやせんッ! 自分ら、アルヴァトロス様が特産品を見に来たと聞いて駆け付けた、この街の職人の者たちです!」


「職人だと?」



 それがなんで俺の周りに潜んでるんだよ……!?



「閣下の忌憚なきご意見を頂戴したく思い……! と、ところで、閣下謹製の素材を使えば、もっといいものが作れるというのは誠でしょうか!?」


「まぁな」



 漂白技術も精錬技術も乏しいこの時代だが、俺は【創造術式】で素材から不純物を完全に取り除けるからな。

 あとは土地の栄養分配を弄れば、よく肥えた果樹園を作ることも出来そうだ。



「我が魔術にて最高の素材を用意するつもりだ。目指すは、帝国一の商品だからな」


『最高の素材!? 帝国一の商品――ッ!?』



 俺の宣言に、職人たちが何やら瞠目した。


 あーーあれか。たぶん、『出来たばっかの領が何言ってやがる! 隣領として負けないぜ!』と対抗心でも燃やしてるんだろう。



「うおおおおおおすげえ! やはり伝説のお人は違う!」

「最高の素材を使えるとは職人冥利に尽きる!」

「自分ら話をまとめてきます!!!」



 んっ、んーー? 今度はなんかみんなどっか行っちゃったぞ?


 職人さんたちどうしたんだー?



「さ、さすがは隊長閣下なのだ! 周囲に職人たちがいると気付いてあの発言とは、賢いのだ!」



 ってなんだよラフムちゃん!? 別に職人たちがいること気付いてなかったんですけど!?



「素晴らしいです隊長閣下ッ! 一石二鳥の策ですね!」



 ニーナちゃんも何言ってんだ!? 一石二鳥って何がだよ!?


 んんんん??? なんか戦犯ガールズから褒められてるんだが、どういうことだ~?




◆ ◇ ◆




「さて。領主邸の前にここにも寄っていくか」



 民衆行き交う大通り、技術者集まる職人街をたむろした後。


 俺は、辺境領に位置する帝国軍駐屯地を訪れた。



「挨拶だけでも出来るといいのだがな。なにせ貴族となる際、王族より『領地経営に専念するよう、軍属を辞めよ』と言われてたからな」



 ゆえに今の俺に軍施設に入る資格はない。


 だから追い返されても仕方ないと思ってきたのだが――、



『お待ちしておりましたッッッ! 偉大なる空に輝く黒翼山の星にしてアルヴァトロス隊長閣下ぁああああーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!』



 入口に立った瞬間0.2秒で開門。


 5000人を超える軍人たちが、ざっと一斉に敬礼してきた。


 ってなんなの!?



「閣下覚えておいででしょうか!? 自分は『西部反攻作戦』で貴方様に庇われたキッドです!」

「閣下が殿を務めてくださったおかげで『セラエノ神殿攻防戦』より生き延びられたフーリンです!」

「支援途絶えた『セフィロト砂漠突破戦』にて、栄養失調で死にかけたとき靴革のスープを食べさせていただいたナタクです!」

「苛烈極まる『インスマウス族絶滅戦』にて、敵基地に単騎突撃なされた閣下に弟ボーマンの首を回収していただいたガウェインです!」

「自分は『アトランティス死海撤退戦』にて!」「私は『魔術要塞カディンギル攻略戦』にてぇ!」



 ってうおーーーーーなんだみんな戦友かぁ!


 そういえばどっかで見た顔ばっかりだわ。

 俺ってば国の命令で二十七の激戦地渡り歩いてきたから、気付けばこんなに知り合い出来てたんだねぇ。なんか嬉しいよー! 死に顔ばっか数えてたわ!



「そうか、そうか。みんな、元気なようで何よりだ……!」


「ハッ! 全てはアルヴァトロス隊長閣下のお導きあってこそですッ!」



 わぁーみんな息してるようでよかったわぁ。


 あと、ニーナちゃんのほうも尊敬のまなざしで見られているな。



「これはニーナ様ッ! 『西部戦線防衛戦』にてアナタ様が罪を被ってでも薄汚い糞蛆虫のゲリラ共を滅ぼしていただいたおかげで、こうして生き延びることが出来ましたー!」


「まぁっ、アナタってばモルガン伍長さん!? あ、そちらはアンリマユ二等兵さん! ジャックザリッパー炊事兵さんもこちらに!?」



 ……なんかニーナちゃんを慕ってる連中はみんな危なそうな顔してるな。うんまぁ気のせいってことにしておこう!



「みな、不足はしてないか? 共に地獄を生き延びた仲だ。困ったことがあれば聞くぞ?」


「ご安心を閣下! ここにいる者たちは日々元気にやっておりますよ! ……まぁ、ここにいる者たちは、ですが……」



 おやおや? 俺の質問に答えてくれた『黒翼山包囲戦』の友・スプンタマンユ軍曹が、ちょっと暗い顔をしたぞ?



「いやぁ……生き延びたものの、欠損によって軍属に帰れなかった者も多く……。そうした者らは、付近の退役軍人用救貧院で暮らしてるのですが……」



 やはりみな、どこか寂しそうで――と頭を搔くスプンタマンユくん。

 そんな彼の手も、中指の先が欠けたりしていた。



「閣下と共に『血のワイン』を飲み合ったゲッツ少佐も、今や両腕を欠損し腑抜けた様子で……」



 ふむふむ、それは惜しいなぁ。



「我が所有物たみになれば、欠損など治せるのだが」


『ッッッ!?』



 呟いた瞬間、みんなの目の色が変わった!



「そ、それは誠ですか!?」

「元々閣下の【創造術式】は強力かと思ってましたが、あの激戦からそのような真似が!?」

「失くした手足すら生やせるのですかァーーーッ!?」



 あ、あぁうんまぁいけるよ。

 死体100万くらい見てたら人体構造なんて瞼の裏に焼き付いちゃったし。内臓破裂も普通に治せるよ。



「か、閣下……最後にどうか質問を。我らは閣下が、ろくな支援も国から受けることが出来ず、それゆえに民の増加は負担になると思っていたのですが……」



 えっ?



「ふむ、たしかに支援はあまりなかったが、別に資源には苦労してないぞ。トゥルーデからの物資提供があった上、これより俺の【創造術式】で大農園も作っていく予定だ。むしろ民衆は増えてほしいくらいで……」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーッッッ!?』



 っていきなり叫んだけど何なの!?



『自分たちッ、準備しつつそのお話を広めてまいりますっっっ!!!』



 ってだからなんなのぉーーーーーーー!?

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