第5話



 大商会の魔女トゥルーデ・トット・トートから『おぬし、国から死んでほしいと思われてるぞ』と衝撃宣告を受けた後のこと。

 俺は決意した。



「よし決めた。戦争以外でも物凄い有能だと示して、王族様たちから好かれるぞ……!」



 俺は平和主義者である。


 世間からは『英雄アルヴァトロス』『地獄を征く者』『鋼の刃』とかいかつい名前で呼ばれてるけど、中身は愛にあふれてるんだよ。


 その手は人を殴るためでなく人と手を繋ぐため その口は人を差別するためでなく人と愛を語るためについているのだ。


 国から背中刺されそうになってるからって『そっかそれは国が悪いわ。じゃ、刺し返すね……(ズプ』とはしない聖人なのだ。


 というわけでこれからの方針発表です!

 街の広場に領民3000人を集めました~。



「――諸君。気付いているとは思うが、どうやら俺は王侯貴族の御方々からよく思われていないらしい」



 と語り出したら、領民たちは一切驚かず、揃ってウンウンと頷いた。


 あ、みんな気付いてたのね。

 じゃあなんも知らんかったの俺だけってこと?


 それじゃあアルヴァトロスくん馬鹿みたいじゃないですかぁ……(絶望)



「(誰か教えてくれよ……)俺だけが目の敵にされるのならばそれでいい。悲しくはあれど怒りはない」



 王侯貴族さんたちの気持ちもわかるからね!

 そりゃすごい勢いで成果出す奴がいたら、いつか自分の利権も食われちゃうんじゃないかな~って怖くなるよね。

 まぁ俺はそんなことしない小心者だから、完全な勘違いなんですけどね。



「が、問題は諸君が巻き込まれてしまったことだ」



 俺はまず、軍部から俺についてきてくれた1000人の部下たちを見る。



「戦友たちよ。我が誇るべき部下たちよ。国は諸君が俺についてきてくれることも承知で、諸君ごと俺を陰謀に巻き込んだ」



 これはマジでごめんなさいって感じだわぁ……。

 結果的にみんな国から切り捨てられちゃったって状況だし。



「そのことばかりは慙愧ざんきに堪えない。諸君には、本当に申し訳ない限りだ」


『っ――!』



 悲痛な表情で一斉に『偉大なる空に輝く黒翼山の星にしてアルヴァトロス隊長閣下……!』と口にする1000人の部下たち。

 お前らその呼び方やめてくれない???



「そして、2000人の元貧民たちよ」



 次は隣領の辺境伯家からもらったみんなを見る。



「諸君も同じだ。元々不遇な扱いをされていたとはいえ、俺に負担をかけるための材料として、この危険な地に追いやられてしまった。重ねて、申し訳ない」


『っ――!』



 悲痛な表情で一斉に『偉大なる空に輝く黒翼山の星にしてアルヴァトロス隊長閣下……!』と口にする2000人の元貧民たち。

 その呼び方しなくていいからね???



「理不尽なる被害者たちよ。共に見捨てられし者たちよ。俺に義理立てする必要などない。恐ろしいなら、好きに逃げ出せ。支度金も持たせよう」



 うん、ぶっちゃけ無理についてくることもないからね~。


 元々俺って人の上に立つの苦手だし、めっちゃ緊張して口調硬くなっちゃうもん。

 一人になっても全然みんなのこと恨まないよ。



「――だがしかし。もしも俺に付き従うなら、己が全霊を懸けて諸君を導くと誓おう。諸君は決して見捨てられていい存在ではなかったのだと、『成果』を以って帝国に示してやろう」



 硬く握った拳を掲げる。



「これより我が『アルヴァトロス領』は、全ての生産力・領民数・幸福率・戦闘力において、帝国一の土地を目指すッ! 我らが価値を天上に示してみせるのだ――!」


『ウオォォォオオオオオオーーーーーーーーーッ!!!』



 俺の画期的な提案に、大興奮で叫んでくれる領民たち。 



 ふっはっはっ、これぞ『すごい領地になって、王様たちに“アルヴァトロスくんたちは帝国の宝だよ! ごめんね大好きだよいじわるしてごめんねっ><”と改心させる作戦』だ!



 俺は平和主義者だから暴力的な手段など一切使わない。

 正々堂々、誠実な方法で、王侯貴族たちからの好感度を爆上げしてみせるのだっっっ!


 えらーい!



 ◆ ◇ ◆




 ――我らが英雄アルヴァトロスが、『経済戦争』を決断した!



 その衝撃と興奮は一瞬にして領民たちを湧き立たせた。


 元々、かの英雄と自分たちが帝国に邪魔に思われている立場だというのは誰もが気付いていた。


 互いに説明し合うまでもない。

 気付いていない者など、危機感知能力がひよこの未熟児並みの考えが浅い劣等くらいだろう。そんな者が英雄の領地にいるわけがないと信じている。



 ならばこの状況、当然気付いているであろうアルヴァトロスはどうするか。

 そう固唾を飲んでいたところ、



「これより我が『アルヴァトロス領』は、全ての生産力・領民数・幸福率・戦闘力において、帝国一の土地を目指すッ! 我らが価値を天上に示してみせるのだ――!」



 ついに来た!


 かの英雄は正面切って堂々と、『帝国の脅威になる選択』を選んでみせたのだ!



 ああ、流石は黒翼山の英雄。


 間違いなく今以上に王侯貴族たちから睨まれる結果になるだろうに、なんという胆力だろうか!



「一生ついていきます、アルヴァトロス隊長閣下……ッ!」

「あぁ、やってみせましょう! どんな手段を使ってでもこの地を発展させましょう!」

「かの英雄の【創造術式】に高い知性、そして我らの忠誠が重なれば、できないことなど何もない!」



 心を熱く滾らせながら、希望の明日を夢見る領民たち。


 特に戦争犯罪者たる銀髪の少女・ニーナは大粒の涙をこぼしていた。


 そのLカップの胸にぼたぼたと水滴を滲ませながら、膝をついてアルヴァトロスへと祈りを捧げる。



「なッ、なんと勇敢なお人か……! 私を引き取ってくださっただけでなく、己が正義を示すために真っ向から国に抗おうとするとは……!」



 ニーナは、自決しようと思っていた。


 というのも数時間前、大商人トゥルーデという少女に教えられたのだ。



『鈍感なガキが、まるで気付いていないようだな愚か者のカスめ。――貴様は、向かいの王国がこの地に攻めてくるように用意されたえさじゃ。いわば英雄アルヴァトロスを殺すための毒……。彼が望むなら、とく消えよ』



 それによりようやく気付いた。

 なぜ王族が自身の裁判に介入し、アルヴァトロスの下に送り込んだのかを。



「(私は、生きているだけでもアルヴァトロス様に迷惑をかける存在だったのだ……)」



 それゆえ、かの英雄が王族に媚びるなど保身の策を選ぼうものなら、邪魔になるだろう自分は命を絶っても構わないと思っていたのに……。



「あぁっ、あぁッ! 輪廻の果てまでついていきますッ、アルヴァトロス隊長閣下! アナタ様のために私は生まれてきたのだと心得ましたッ!」



 天元突破する忠誠心……!


 元々正義で思ってやらかした戦争犯罪を庇ってくれた時点で(※アルヴァトロスに庇った気は絶無)その想いは炎のように滾っていたというのに、もう忠誠心が止まらない。

 溢れた忠誠心がLカップの胸先からビュルビュルと飛び出してきた。



「アルヴァトロス様……!」

「閣下ぁ……!」

「偉大なる空に輝く黒翼山の星にしてアルヴァトロス隊長閣下ぁ……!」

 


 かくして熱意に燃える領民たち。

 この領地を徹底的に発展させ、我らを見捨てた王侯貴族らを圧倒するほどの権威と力をアルヴァトロス様に与えようと、熱き野望を滾らせる。



 ……こうして当のアルヴァトロスが『有能さを示して国に好かれるぞ~!』と考えていることも知らず、大躍進を開始するのだった……!


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