君の罪悪に花を添えて

明日葉ふたば

第1話

 コンコン、カンカン。


 休日のお昼過ぎ。小気味好こぎみよい調子が部屋に響く。


 乾いた音の正体は木板と木板を繋ぎ合わせるために発せられたモノ。組子細工くみこざいくのように隙間なくめ込む工程が、もうかれこれ15分も前から行われていて、俺はその様子を静かに見守っていたのだった。


「そろそろ聞いていいか。何してんの」


「これ?多分プレゼント」


 窓を通して目映まばゆい光をその身に浴びながら、穏やかに女性が答える。


 彼女は埋宮うめみや桜花おうか。付き合って5年、同棲どうせいを始めてから3年にもなる俺の彼女だ。


 顔立ちは整っていて、振る舞いは淑やかで、ところどころ抜けているところがあって可愛らしい。


 仲は至って良好で、特筆すべき不満もない。


 彼女と俺の関係を知っている友人や親族が、ことある毎に結婚についての話題を振ってきて、それが少しわずらわしいくらいだ。


「多分ってなんだよ。…………本棚、か?」


「教えない。まだあげるって決まったわけじゃ無いし」


「なんだそりゃ」


 直方体の大きな木の箱。しかも人間大にも及ぶとなれば本棚かと思ったんだけどな。


 まあなんでもいいか。

 

 誰かへの贈り物としては大きすぎて邪魔な気がしてならないが口にはしない。


「そうそう、今日晩飯要らねえから」


「あれ、出かけるの?」


「まあちょっとな」


 言いながら俺は持ってきた靴下を取り出し外出の準備を始める。主な用件は晩飯を食べることだが、待ち合わせの時間はそれなりに早かった。


「友達?」


「そそ」


「ふーん、分かった。気を付けてね」


 俺の言葉に疑いも持たず小さく手を振ったかと思うと、数秒後には作業を再開していた。


 俺の行動に興味が無いのではなく、俺を信じているが故の淡泊な態度だろう。


 その信頼の厚さが嬉しくあり、逆に僅かな罪悪感を抱かせる。


 俺が今から会いに行くのは友達だ。そこに嘘はない。


 だが女子であり、ここ最近何度か会う中でそれなりに親しい間柄となっている相手だった。


 だから、


「ねえ、私のこと好き?」


「…………どうした急に」


「…………ううん、なんでもない。行ってらっしゃい」


部屋を出る間際、偶然にも聞かれた言葉がチクリと刺さった。


俺は後ろめたさを希釈きしゃくするため、自分に言い聞かせる。


彼女を裏切ってはいないと、そんな風に。

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