『晴れのち雨は曇らない』

やましん(テンパー)

『晴れのち雨は曇らない』


 天気が良いので、部室を出て、外で練習。


 美人の先輩と2人だ。


 四分音符と四分休符の連続。


 『つまんないすね。』


 『つまらないから、役に立つのよ。』


 『そうすかあ?』


 先生は、滅多に来ない。


 先輩以外に、教えてくれるような人もいない。


 田舎の高校のブラバンなんて、そんなものだ。


 学校も、上手くしようなんて、そもそも、ちっとも考えてもいない。


 ぼくのメロフォンは、あちこち、ちょっとつぶれている。


 先輩が、やけでぶん殴ったか、ぶっつけたか。


 しかし、その前の先輩は、学校が、楽器を買ってくれないから、土木工事のバイトをして、これを買ったという伝説があった。


 泣けてくるような話しだが、よけいに、真実味がある。


 今年の音楽の先生は、一流音大を出た、なかなかの大物だが、一年目は、やや島流し的になるらしい。


 『あのひとは、君達みたいなできの悪い生徒には、もったいないヒトなんだ。』


 と、校長先生は、あけすけに言う。


 『あんたが、落ちこぼれ校長なんだろ。生徒にそんなこと言ってどするの?』


 ほんとは、名門校の校長になりたいらしいが、そこはそれ、なかなか、簡単には行かないらしい。


 人事とは難しいものなのだ。


 できの悪い生徒だって、社会はちゃんと見ているのだ。


 『ほら、そこ、リズム違う!』


 『す、すいません。』


 あちゃー、見落としたよ。


 休符が一個多かった。


 ああ。ホルストとか、ムソルグスキーとか、やりたいな。


 でも、そもそも、楽器が足りないときた。


 総練習になると、なかなか、合わない。


 やり方に無理があるよな。


 先生は怒る!


 『やめた!』


 と言って、ぷい、と、いなくなる。


 部長が、飛んで行く。



 コンクール。


 小規模部門で出場。


 完敗。


 『勉強できないわ、コンクールだめだわ、ど、きみたち、どする?』



 と、運転手さんまでが、バカにした。


 反論、なし。



 戦争がおわってから、まだ、30年も経っていない。

 

 日本が、先進国といわれるようになったばかりの頃だが、実情は、けっこうお寒い状態で、東京ばかりが、やたら、ぶっとんでいた。


 道は穴ぼこだらけだった。


 でも、食べ物はまずまず、あった。


 パソコンやスマホなんてものは、欠片はあったんだろうけど、田舎には落ちていない。


 『せんぱい、これ、難しいすよ。ばりばり、現代音楽だ。』


 『やりがいがあるというものよ。』


 『はあ…………』


 仲良しの友人は、さっさと、見きりを付けて辞めてしまった。


 ぼくは、腎臓の異常で、しばらく休団した。


 どっちも、やや、情けなかった。


 体育祭で、ブラバンが、校歌を吹いたが、逆に、みんなに、吹かれてしまったが、ぼくは休団していた。


 たしかに、やたら、下手くそになっていたが、申し訳なかった。



 ぼくが卒業したあと、新校舎になり、抜群に上手くなった。


 教育実習にいった時は、もう、だれからも、相手にしてもらえなかった。


 別世界だった。


 つまりだ、いつだって、ぼくは、別世界にいる。


 はやいはなし、だめなやつであります。みんなに、そう、言われてきたから、間違いはない。🙇


 また、別世界にいることに、慣れている。


 そいつは、逃亡だろうけれど、それだって、一定の視線なんだからね。


 ちらちらと、熱い視線を送っているんだ。


 オリンピックだって、いっしょだ。


 雲が拡がらなければ、雨は降らないか?


 いつか、晴れた空から、ばりばりと、雨が降るとき、ぼくは、みごとに、復活するだろう。


 

       🌥️








 


 


 


 

 

 

 


 


 

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『晴れのち雨は曇らない』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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