第27話 アーカイブ:【雑談】カッコいいモンスターランキングでも決めるか
「……この独特な柱だらけの景色。そして……石化してはいるけど、これはピラーデビルね。間違いないわ、フェニックスの現在地点は72階」
「つまり私達は……」
「────読み外した、かぁ!」
日神カゲトラ、美堂リリ、九条キリカの三人はダンジョンの階段付近……つまりモンスターの来ない安全圏で、フェニックスチャンネルの配信画面を見てため息を吐いた。
「いやぁ、『暁月の宝珠が81階の攻略をしようとしている』って発表をすれば食いついてくるかなぁって思ってたんだけど────」
「……自惚れたわね」
「俺のミスだね、ごめんごめん」
「本当にこれっきりにしてください!数日前から昨日まで、私達は世間に嘘を吐いて過ごしていたんですよ……?」
日神カゲトラはフェニックスを捕まえるために、餌として『81階の攻略中』という『嘘』を流した。フェニックスが告知をするまで81階に通い続ける訳にもいかないため、一定期間その嘘を流し、フェニックスが配信をする日に初めて81階に赴くという大胆な行動を取った。
だが……彼らの嘘がバレる事など滅多に無い。81階まで到達できる者はかなり限られている上に、暁月の宝珠と双璧を成す千水団は下層攻略よりもユニークモンスターの討伐に重きを置いている。探索者協会も『人型モンスターを世間に公表せずに討伐しようとしていた』という弱みをカゲトラに握られている為、別の『理由』でも無ければ糾弾する事は無い。
故にカゲトラは平然と嘘を吐き、獲物が来るのを待っていた。
「うーん、しくじったね。よく考えてみれば……人を騙し、陥れるという方面では俺がフェニックスチャンネルに勝てる訳も無かったか」
「……そもそも、ここ……81階で待っていたのはどうして?より確実な手段を取るなら、転移魔方陣のある61階で待ち伏せすれば良いじゃない。結構下層での配信が多いみたいだし────────」
「あぁ、それはね……困ったな、フェニックス君を待ち伏せた後にカッコつけて解説しようとしてたんだけど」
「……そういうの良いから」
「はいはい。理由は単純だよ────────転移魔方陣なんか使ってるなら、とっくに身バレしてるでしょ」
「え……あっ、確かに……」
フェニックスが活動してきた数年────言うまでも無く、彼は多方面からの恨みを買っている。配信を邪魔された挙句醜態を晒された配信者や、配信者でもないのに唐突に戦闘の妨害をされた探索者や、ダンジョンを金のなる木と考えている為害虫を処分したい協会など……本当に多方面から狙われていた。
だが彼の素顔を知る者は二人しかいない。彼と、そのアシスタントのみだ。
「となると、協会を従えていて偽装の手助けをしてもらってるパターンとか、誰も知らない抜け道を使ってるパターンが思いつく。後者だとどうしようもない……でも、前者なら────」
「なら……?」
「もし協会がフェニックス君の言いなりなのなら、ダンジョンを管理している協会は多分、『暁月の宝珠が調査をサボっている』のを知っているだろう。次に、その情報を彼に流すだろう。そして……」
「……なるほど。私達を炎上させようとするわけね」
「なら、それが起きなかったという事は……」
「協会との繋がりは無い────と、断言する事は出来ないけどね。俺の中では『抜け道』を使ってるんじゃないかって線が濃厚になったってだけ」
「……それだけじゃないでしょ?」
淡々と考えを明かすカゲトラの正義と言う大義名分に隠れた陰湿さに狼狽えつつも、リリは冷静に言った。
「……リーダーのその『装備』」
「ん?」
「『それ』の試験運用をしたいからって言ってたわね。でも────違うでしょ?」
「ははは。睨まないでよ、そんなにさ」
階段に座っていたカゲトラが立ち上がると同時に……鳴る、駆動音。
今日、フェニックスを待ち伏せするために61階から81階までの階層を楽々と突破してきた彼は────『装甲』に包まれていた。
「有人型幽層探査装甲『毘沙門』……流石、高い金使って政府と協会と共同研究しただけはあるよ!俺、全く使いこなせてないのに凄まじいパフォーマンスだ」
純白の鎧はただの鎧ではなく、魔導技術がふんだんに盛り込まれている。自動展開の魔力障壁、装備者への強化魔法、高速移動用の各種魔導機関……まさしく、技術力と殺意の塊である。
「……フェニックス確保に私とキリカ以外の幹部がついてこなかったから。試験運用したかったから。そんなの言い訳でしょ?リーダーはただ────」
「……」
「────フェニックスを狙ってくるであろう、人型モンスターを殺したい。それだけでしょ?」
「えっ……え?」
「ま、そうだけども」
「……やっぱりね。リーダー、
カゲトラは困惑するキリカに微笑みを投げかけようとしたが、顔は兜に覆われてしまっている事を思い出し、誰も見ていない所で消えていった自分の微笑みにまた小さく笑いながら、掠れた声で言った。
「そりゃあ……当たり前でしょ。どこまで言ってもモンスターは『人類の敵』なんだ。例え人の姿をして人の言葉を話そうと、敵だという事に変わりは無い。だからモンスターを狩る存在、『探索者』である俺は常に『正義』でいられるんだ」
「し、しかし……まだ人型モンスターについては分からない事だらけで……」
「分かってるよ。もしかしたら手を取り合えるかもしれないし、無力化するだけに留めて────おきたいけど」
スマートフォンは、美堂リリが持っていた。
カゲトラはその画面に映る顔を隠した二人から目を離す事は無かった。
「生憎、今の俺はこの装備に慣れていなくてね……あぁ、手が滑ったら大変だ!」
ー - - - - - -
「理事長」
「ん」
「今は仕事をしてください」
「おっと……申し訳ない、配信に夢中になっていました」
パソコンの画面に向けられていた真剣な眼差しを解き、『理事長』と呼ばれた男は隣に立つ秘書の女に笑いかけた。
「と言う事で、しばらく配信に夢中になっていても良いですか」
「駄目です。ただでさえ理事長はダンジョンに籠りがちなのに、地上に滞在されている今に仕事をしなくてどうするのですか」
「広報部としての仕事は結構ちゃんとしてるじゃないですか!」
「アレは……理事長がただ単にモンスター達に害をなす探索者達を痛めつけて晒し上げたいだけじゃないですか」
「そんな事ありますよ」
「あるじゃないですか」
「頼みますって……というか、ほら。フェニックスチャンネルの配信を見るっていうのも、考え方によっては仕事では?」
「……」
「それに……『人型モンスター』も不死鳥を求めて現れるでしょう」
「……では、ご決断なさるという事ですね?────────我々モンスター愛護協会は、人型モンスターに協力するか、敵対するか……」
圧をかけるような口調で告げた秘書の、その唇は……小刻みに震え、不安という意思を音もなく伝えていた。
「……えぇ」
男は表情を『笑顔』から段々とほぐしていき、慈愛に満ちた柔らかな微笑みを浮かべた。
「そうですね。ワタシは決断しなければならない……彼らが、ワタシ達が愛すべき、護るべきモンスターなのかどうかを」
「……もし、違うのなら、我々は……」
「何も、どうする事もないです。探索者共のようにモンスターを傷つけるのなら人型モンスターだろうと……壊し、崩し……その様子を世界に見せつけてやりましょう」
穏やかに、緩やかな斜面を流れる水のように告げる男の声に……秘書の女は根拠のない安心感を抱き、それを自覚しつつも……彼に次の言葉を願った。
「では、人型モンスターが……愛護対象だった場合は────」
「フフフ────だとしても、変わりはしませんよ」
曇りなき瞳が見つめるのは、画面に映る覆面の男。
人やモンスターどころか全てを嘲笑している、生命の冒涜とも言えるような力を持つ、正真正銘の怪物。
「ワタシ達は愛し、護る……そしてモンスターを傷付ける者全ての敵となる。それだけですから」
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