燃えよダンジョン、バズれ俺~炎上系配信者の迷宮無双録~

イ憂

再生リスト:1

第1話 【禁断】オークロードのアソコ撮ってみたら工口過ぎた……

《わこつ》

《またダンジョンから配信か》

《きたきた》

《しね》

《うわなんで生きてんだよ》


 そこそこの速さで流れていく荒唐無稽なコメント。配信待機画面にしては異常な光景だが、俺はいつものように恍惚と見つめ────開始する。


「うーーーーっす。フェニックスチャンネルのフェニックスですよろしく!」


 石材で形成される壁、通路。ダンジョンという存在はもう説明なんて必要ないくらいにこの世界に浸透してしまった。


 そんなモンスターと財宝の蔓延る夢のような悪夢の中、スマホを片手に覆面を被り高らかに叫ぶのが俺、フェニックスだ。


《鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!》

《世界はダンジョンの闇を隠しています。いずれダンジョン外へと魔素が漏れ出て、日本は滅亡するでしょう》

《歌配信ってマジ?》

《運営は何やってんの?はよコイツBANしろよ》

《まだやってんの?》


「はい、鎖鎌厨は帰ってね。まだやってんのって言いますけどもね、配信開始して数秒なんですわ」


 ダンジョン攻略を配信するありふれた一人のうち……ここまで存在を否定されていて、こんなに憎まれている奴も俺以外には中々いないだろう。


 俺と同じ─────『炎上系配信者』でもなければ。


「さて今日の企画ですがタイトル通り……」


 同時接続者数は……2万人。あぁ、いいね。気持ち良くなってきた……!


「上層30階のボス、オークロードのケツの穴撮影会をしていきまァす!!」


《うおおおおおおおおお》

《ヴォエ!》

《きっしょ》

《もう扉の目の前やん、どんだけ見たいんだよ》

《シツキてゃんの穴の方が見たい!!!》


 スマホで確認したコメントの通り、すでに俺はオークロードが待ち構える部屋の前に立っている。


 片手で勢いよく扉を押し─────さぁ、ハゲのおっさんを赤く塗ってそのままデカくしたバケモンみたいな奴のお出ましだ。


「……えっ!?誰!?何あの赤いマスク……」


「ちょっと、余所見してたら危ないよ!」


「え、いや、でも……」


 ……そして、俺が入る前からオークロードに相対していた男女2人ともご対面。


《なんやこいつら》

《配信者っぽい?》

《リコケンじゃね?》

《リコケンで草》

《知らんわ、底辺か?》


「ん〜……まさか他の配信者さんがいるとは……ちょっと知らなかった、っすねこれは。まぁしょうがない……かなと」


《嘘つけ絶対知ってたゾ》

《これ邪魔するための配信かwwwwwwww》

《いつもと比べてインパクト足りんなとは思ってたけども》

《普通に可哀想じゃね》

《この展開には弱男さんもニッコリ》


 リコケンチャンネル。登録者……50万くらいだったっけ。リコとケン、仲良しこよしのカップルが息を合わせて手取り足取りダンジョン攻略していくという素晴らしく気色の悪いダンジョン配信系チャンネルだ。


「えーと、何々……『【ダンジョン】ついに中層到達!?オークロード撃破なるか!【カップル】』だって!?うわマジか知らなかった〜……ちょうど同じ時間に被るなんて想定外すぎ〜」


《激アツ展開キタコレ》

《白々しすぎるwwww》

《もういいよそれ》

《鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!鎖鎌最強!》

《リコケンのケツの穴見れるってマジ!?》


「という事で……」


 リコケンの様子を見るに、武器を持ってオークロードと応戦しているようだ。撮影は魔導ドローンに任せ、自身達が傷つきながらもカメラへの意識を忘れていない。うわ、お高いの使いますねぇ。


 そりゃそうだ、ダンジョン配信者なんだもの。だが俺は────スマホを持ち武器なんて一つも持たない状態で突っ込んで行く。


「ほらやっぱりヤバい人だよ!こっちに来てるよ!?」


「今はそんな事言ってる場合じゃ……ってうわっ!?」


 オークロード特有のクソデカ棍棒の振り下ろしをケンが紙一重で避ける。その隙に俺は全速力でオークロードへと走る……っとと、その前に。


「ちょっと失礼するフェニよ」


「え!?」


 リコの背後を付き従っている球体。そう、カメラ付きの魔導ドローンを俺は強引に握る。


「ちょっ、何して……」


「さぁお前らァ!目に焼き付けろよ!」


 片手に俺のスマホ、もう片手にリコケンのドローンをそれぞれ持ち、オークロードの方を振り向く─────。


『グォオオオオオオ!』


「ごぶッ!?」


 身体全体にとんでもない衝撃。それが奴の棍棒だと気付いた次の瞬間には、俺はボス部屋の壁に叩きつけられていた。


「びびった……あ、カメラ無事っぽい!良かった〜」


《え、いま直撃したよね?》

《これで壊れてたら炎上です》

《いや絶対死んでて草》

《は?生きてんのこれ。ガチで?》

《やばくね》

《フェニくん死なないで……》

《初見は黙っとけ》

《フェニがこれくらいで死ぬ訳ないんだよなぁ》

《死って何ですか?》

《死は救済定期》


「ま、運が良かったっすね。って事で─────」


 すっかり俺を仕留めたと勘違いしたオークロードは次の標的に視線を戻す。そう、リコケンの方を向いて俺に背中を向けてしまったのだ。


「行くぜッ!あなたのお尻は何色ですかと!」


 巨躯の股間を守るのは頼りない布切れ。懐に滑り込んだ俺はをしっかりと突き出し──────。


「……わ〜お」


 なんとも言えない色をしたお尻の穴の映像を、俺のチャンネルとリコケンチャンネルに刻み込んだ。













 ー ー ー ー ー ー ー












 オークロード、覆面の男、そしてカップル。荒唐無稽と化した上層30階のボス部屋にて、『ケン』の名前で活動している男が叫んだ。


「まさかあの人……『日本炎上系ダンジョン配信者三巨頭』の一人、フェニックス!?」


「なにその……日本なんとか三巨頭って」


「し、知らない?ダンジョン配信っていうのは普通、ダンジョンを攻略していく様子を配信してくじゃん?でもその三人は違うんだ……ダンジョンを使った悪ふざけ、他の探索者の妨害、そしてそういうのを批判する声でどんどん知名度を上げていく……!」


「え…………クズすぎない?」


「クズだよ!!」


 現在。リコケンチャンネルの配信には、高画質のオークロードの肛門がくっきりと映し出されていた。


 その犯行を行った男────フェニックスの狙いはただ一つ。


「……思い出した!確か、前にもこんな風に他の配信にモンスターのお尻を映して────ま、まさかっ!」


 ……そう。彼らが使用している動画投稿・配信サービス『Labytube』運営に、オークロードの肛門を映したリコケンチャンネルが不適切であると判断させ彼らのチャンネルを『BAN』してもらう、という悪逆非道極まりない思惑だ。


 当然、リコケンチャンネルはそんな事をされてしまえば困る。とても困る。


「あぁっ!ちょっ、返して────」


「ほいっ、返すけど……大丈夫?」


 覆面の男の狙いに気付いたケン。それを見たフェニックスは魔導ドローンを慌てふためくケンに投げつけた。


「どれぐらい映ってたんだろう、もしBANされちゃったらどうしよ────────」


 直後。


『グオオォウッ!!』


 棍棒による横薙ぎ。オークロードの一撃がケンに命中したのだ。


「ごふっ……」


「け、健っ!」


 間一髪で防御に成功したが、負ったダメージは大きくケンは倒れてしまう。そんな彼を抱えた彼女……リコの判断は早かった。元々倒せるかどうか分からなかったオークロード。撤退する覚悟はいつでも出来ていたため、動きの遅いオークロードに背を向けて一目散に彼女は走る。


 開いたままの扉。去っていくリコケンチャンネル。オークロードが目線で追ったのは────────


「……ま、俺だよね」


 スマホを片手に持つ覆面の男だった。


「というわけで、俺もここらで逃げますわ。チャンネル登録、高評価しろフェニよ。おつフェニ~」


『グオオオオオオオッ!!』


 ズン、ズンと音を踏み鳴らしながら近付き、今まさに棍棒を振り上げたオークロードの姿を背景に彼は配信終了ボタンを押し────────


「よし……誰も見てない、な」











 数秒後。


 冷たく、硬い床に伏せていたのはオークロード……否、オークロードの死体だった。


 わずかに残った黄金の炎に未だ焼かれているその死体は、少し時間が経過すればダンジョンに吸収されるように消え、確率次第で何かを残していくのだが────


「さ~て、次の配信は何しよっかな~!」


 オークロードを一瞬にして抹殺した男は、フェニックスは……目もくれずその場を後にした。

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