第5話 倒錯 ※性的描写有

 俺の名前は悠一。真っ直ぐ歩きたいだけの人間だ。

 秋元光一とは、あれからしばらく会っていない。どうやら仕事を辞めたらしい。

 秋元が職場を去ってから、俺も仕事を辞め、毎日歩く練習をしている。

 それでも、できるだけ鮮明に、秋元の顔を覚えておきたかったので、髪を切り、秋元と同じ髪型にした。

 毎日風呂に入ると、鏡に写っているのは秋元の顔。

 あいつは今も、俺のことを見ている。朝目が覚めると、すぐ秋元のことを思い出す。鏡を見ると、秋元の顔がこちらを見て、ニヤニヤと笑っている。

 そして、ふつりふつりと、俺の中の濁った感情が湧き上がってくる。その感情は、性欲に少し似ていたが、性欲ではなかった。秋元が俺を襲った瞬間に味わったものにも近い。

 いつでも自分を殺せる力を持った、秋元という人間への恐怖。その恐怖からやってくる、純粋な興味。秋元という人間への征服欲。そして倒錯的だが、壊されたいという気持ちもあった。

 俺は、秋元の顔面に射精するところを想像した。


「っ……」


 秋元の顔に自分のペニスを押し当てて、乱暴に擦り付ける。そんな想像をするのは、とても倒錯的で、気持ちがよい。

 俺が腰を前後に動かすと、秋元の顔は俺のペニスでグズグズに崩れる。皮が、肌にジリジリと擦り付けられるのを何度も何度も確認した。擦れていく様子を観察しながら、秋元の顔を少しずつ歪ませていく。

 俺があいつを壊しているのか、あいつが俺を壊しているのかは、既によくわからなかった。こんなことをしてしまう自分の情けなさや、この感情を行き場がないからと言って秋元にぶつけていると言う事実が、何より破滅的で、背徳的で、でも、最高に気持ちがいい。

 もし、秋元が死体になったら、その血はどんな味がするのだろう。1度舐めて確かめてみたい。生きたまま、痛がる姿を眺めながら流血させて、皮膚から直接舐めるのもいいかもしれない。

 脳髄に直接釘でも打って固定したい。

 腕を縛って血液の流れを止めて、膨れ上がっていく様を眺めたい。

 あの笑顔が、無表情が、苦痛と絶望で満ちる所が見たい。

 秋元を、殺したい。


「秋元っ……! 殺すっ……、秋元っ!」


 何度か絶頂に達するまで、秋元の顔で抜こうとした。しかしどうしても、達する寸前に萎えてしまう。

 あいつが俺にトドメを刺さなかった時のことを、思い出してしまうからだ。

 俺に対して、秋元は、哀れみの感情を抱いていたような、そんな気がした。それは俺にとって屈辱的で、見下されたも同然だった。俺が秋元のことを、そして秋元が俺のことを、全く理解出来ていない証拠だった。

 どんなにこいつの顔面をペニスでぐちゃぐちゃにしても、俺は秋元に理解されない存在なのか。

 そう思うと、もう何もかもが、どうでもよく感じるのだった。


 秋元がよく見ていた音楽が流れる。


 瞬間、前後不覚。


 腹部の生ぬるいところがぐるぐると回って、顎の少ししたのところから、線で繋いだようなワイヤーがピン、と立った、ように見えた。


 幻覚だ。

 俺は、その場に尻もちをついてしまった。

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