第28話




 呪法を互いにぶつけ合わないか? と言う深谷ふかやくん。

 

 それってつまり、



「あめふとぶ、たいま(男らしく、ろうってことか)」



 いいじゃないか。

 恨まれっぱなしで奇襲怯えるのも嫌だからな。


 正々堂々決着付けるのは悪くない。



「ほう。その表情、勝負を受ける気だと見える。どうやら腰抜けではないようだな」



 ぬかせ。

 たしかに0歳三か月児で背骨はまだグニャグニャだが、抜けてはないっつの。



 あ、でも。



「こッ……こらぁ~~~~~! 何を勝手なこと言ってるんですか深谷くんは~!?」



 へっぴり腰にメガネさんが怒った。


 まぁそりゃそうだな。

 ようやく試験が普通に進み出してのこれだし。



「今は試験中なんですよ!? ちゃんと真面目にやりなさい!」


「ふん、『呪法』の威力が見れればいいのだろう? ならば対人戦をやれば二人いっぺんに見せれるだろうが」


「それで怪我したらどーするんですかっ!? 命懸けるのは妖魔と戦うときだけにしてくださいっ!」



 おぉう。

 気持ちは結構やる気な俺だが、まぁメガネさんの正論には納得しかない。

 

 よし。深谷くんのほうは不服そうだが、俺は一旦落ち着こう。



 と思ったところで、



『いいぞいいぞぉやれー! わしが許す! 派手にやれ!』



 まーた爺さんがなんか言い始めた!



「ちょっ、土御門総統!?」


『聞けばそっちの深谷ユウという小僧、ウタに恨みがあるんじゃろ? ならばどのみち戦うことになるじゃろて。それなら、儂ら監督の場でやらせたほうがむしろ安全じゃろ?』


「それは……」



 ってこの爺さん、相変わらず屁理屈が上手いな。


 流石は呪術界のトップってところか。



「で、でもこれ以上敷地が壊れたり怪我人が出たら、また私の仕事が増えるというか……!」


『お、なんじゃおぬし? 若者たちの心配より、仕事が終わることを優先か!?」


「いやそれはっ」


『それで二人が審判もなしにどっかでやり合って両方死んでも構わないってか!? かぁ~冷血ゥーッ!』


「ってその言い方はずるいだろアンタッ!? ちっ、チクショウッ、もういいですよ許しますよ!」



 見事に丸め込まれちまったなメガネさん。


 彼はさっそく俺と深谷くんの間に立った。

 大変だね。



「はぁ……呪法のぶつけ合い……もとい、二人の決闘を許可しましょう。ただし私が審判を務めさせていただきます。私が決着と言ったらそれまで。いいですね?」


「ああ」「ああ(ああ)」



 深谷くんと一緒に頷く。

 彼は俺から一旦距離を取り、メガネさんの合図を待った。



「いいでしょう。ではこの土御門セイメイの下……決戦、始めッ!」



 さぁ開始だ。

 俺はさっそく呪力を滾らせると、呪法の一つを発動させる。



「『しょうひょうけん』しんがい。“ゆっくりゆずは”(『獣身呪法』疑似発動。モデル“大王烏賊ダイオウイカ”)」



 まずは得意の牽制技だ。

 右手を巨大なイカの複腕に変化。そのまま勢いよく相手に伸ばした。


 さて、掴んで一気に締め上げれば決着にもなっちまうが?



「クッ、イラガ師匠の呪法を我が物顔で使いやがって。だがッ」



 幾つもの目玉がついた『肉の刀』が構えられる。

 そして、



「“幽玄、聖隷、われが統べるは魍魎のはこ”。『百鬼呪法』解放、行けぇ式神たち!」



 彼が剣を振るうと、数体のバケモノが飛び出してきた。



「ふぁんでっと(ってこりゃ妖魔の群れじゃないか)」



 呪力生物だけあって肌でわかる。

 俺が戦ったヤツとはずいぶん見た目が違うが、ありゃ全部妖魔で間違いない。


 そいつらが俺の巨大イカ足に組み付くや、深谷くんに向かうのを押しとどめてきた。



「えんげーじりんぐ(すごい忠誠度だな)」



 どの妖魔も肉の盾にならんと必死で頑張ってやがる。


 和服メイドのクレハさんも言ってたな。

 “術師の中には、妖魔を暴力で調教して『式神』にする者もいる”と。


 つまりあの妖魔どももそうやって服従されたんだと思うが、いやそれにしたって全力すぎというか、



『ぬしさまや。あの妖魔どもはおそらく、身体の自由を奪われてるぞ』



 とそこで。

 脳裏に相棒の声が響いた。



『同族なれば鮮明に判る。あれらの嘆きも、あの小僧の剣に作り替えられた者らの怒りもな』



 剣だと?


 俺が深谷くんの肉刀を見ると、彼は「気付いたか?」とにやついた。



「我が『百鬼呪法』は百体までの低級妖魔を従えさせることが出来る。それらを概念的に圧縮して生み出したのが、この呪具『黒刀ムラマサ』だ!」



 彼が刃を豪速で振る。

 すると鎌鼬かまいたちのような斬閃が飛んでくるのと同時、さらに数体の式神が飛んできた。

 ってこりゃやべえな。



「『いほうどうじん』だうんろーど。“しりゃびしみのる”(『獣身呪法』疑似発動。モデル“白鯨”)」



 咄嗟に右腕のイカ化を解除。

 それと同時に左腕を数十メートルの鯨に変更だ。


 腕から鯨が生えてきて、俺の盾になってくれる。


 その厚い肉で斬撃は防ぐが、



「オレの攻撃は二段構えだァ! やれっ式神たち! 師匠のためにもあのエセ呪法を突き破れッ!」



 支配された妖魔どもが押し寄せる。

 連中はすごい勢いで鯨の盾に突撃させられ、衝撃で次々とひしゃげていった。

 さらに、



「勃起も出来ない赤子がッ、よくも憧れの男であるイラガ師匠をォーーーッ!」



 深谷は刃を振りまわすと、突撃する式神の後ろから無数の斬閃を飛ばしてきた。


 式神たちの絶え間ない特攻。

 直後に式神ごと裂くような追撃に、腕の鯨が瞬く間に消滅していく。


 なるほど。



「わたみ(可哀そうにな)」



 奴の式神……無理やりに支配された妖魔どもを見てそう思った。


 妖魔とは人を畏怖させる有害存在だ。

 情け容赦なんていらないかもしれない。

 だが、強引に使い潰されていく様を見ると、



「わたみぃ……!(思い出しちまうよ、クソ企業の奴隷だったころをな)」



 ああ、ゆえに解放してやるさ。

 なにせ、俺と同じく怒りを燃やす者もいるからな。



「式神どもッ、死んでもガキをぶっ殺せーーッ!」



 叫ぶ深谷の反省を願い、俺は相棒のお披露目を決める。


 向こうが式神を使うならこっちもだ。

 支配ではなく『魂の説得』で繋がった力、深谷の奴に見せてやろう。


 さぁ行けッ、



「 し ら か み ふ ぶ き (最上級妖魔、ハクよ――!)」



 瞬間、迫る妖魔たちが地獄の炎に包まれた。



『格の違いを、見せてやろうぞ?』




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


白(わらわもわりと無理やり支配されたような……!)




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