第26話
「さて、残ったのは四名ですか。本当になんてことだ……」
屋敷の庭に移動した俺たち。
メガネさんは俺+三人の受験生を見渡し、「で、では気を取り直して」と語り出す。
「術師登録試験ではまず、基礎技術の一つである『反発強化』の強度を見ます。なぜコレを第一に見るのかと言うと」
『強力な呪法を持ってようが、防御力が紙ッペラでは話にならんからじゃよ』
メガネさんの言葉をボスの爺さんが引き継いだ。
『一発芸人など求めとらんわ。強い上にしぶとい者こそ、多くの経験を積んで真の強さに至れるというものじゃよ。そんで
「……最後の一言は置いといて、まぁそういうことです。ゆえに肉体の弾性や抵抗力を上げる『反発強化』を見るのですが……」
メガネさんは冷や汗をかきながら俺を見た。
「こんるし~!(こんにちは)」
「……そこの無駄に可愛く手を振ってるトンチキ赤ちゃん。彼が突然出した呪力圧に耐えられた時点で、『反発強化』の展開速度・耐久強度は共に十分でしょう。ここに残ったみなさま、第一試験突破です」
ってマジか。
俺ってばなんか第一の試験官みたいになっちゃったな。
「ちきん!(やらかしたと思ったが、結果オーライだったってことか)」
「まぁ普段の第一試験突破率は八割程度なんですがね。間違っても八割が気絶して落ちることはありません」
「さめちゃったよ……(前言撤回。普通にやらかしてたわ)」
落ちちゃった人たち改めてごめんね~……。
『過ぎたことは気にするな。どうせ雑魚じゃぁ』
「ハイそういうこと言わない。では二次試験に移りましょう。次はみなさまの得意な『呪力操作五大技術』を一つ見せてもらいます」
メガネさんが教師のように指をピンと立てた。
なんかその動作見たことあるな?
「呪力操作五大技術。それは呪法に
『その中で一番得意なのを見せるがよい。一番得意なのが分かれば術師としてのスタイルも把握できるし、その技の練度を見れば他四つはそれ以下かとわかるからの』
なるほどな。
防御力の把握の次は、個人個人の長所を見せてみろってことか。
「では受験番号の若い順からいきましょう。12番、舞鶴マジリさん」
「はぁ~~っい!」
元気そうに答えたのは金髪の女の子だ。
外人の血が入ってるのかな? 自然な金髪だし肌も白っぽいや。
『ほほほ。女の子の受験者とは珍しいのぉ。で、どの技術を見せてくれるんじゃ?』
「ども~! アタシが見せちゃうのは、一番単純な『衝撃強化』でーす!」
『うむうむえぇのぉ! 元気なマジリちゃんらしいわ!』
おい鼻の下伸びてるぞ爺さん?
「で、どんな風に技術を見せればいいですか~?」
「お待ちを。すぐに的を用意しますので」
呪符を取り出すメガネさん。
そのままゴニョゴニョ唱えると、呪符が浮き上がって巨大な岩石となった。
「ここに一発叩きこんでください。それで威力を見ますので」
「な~るほど! ではさっそく」
拳をブンブン回すマジリさん。
そして燃え上がるような呪力を込めると、
「ていやぁーーーっ!」
巨大な岩を全力殴打。
するとバギィイイイイーーーッという音を立て、岩石が半ばまで抉れ飛んだ。
『ほほぉー。これはなかなかの技術よのぉ。流石は名門の一つ、舞鶴家の者か』
「あははっ、正妻筋じゃないですけどねーアタシ! あ、以上になりまーす」
元気に一礼して彼女は下がった。
なんかギャルっぽい子だったなぁ~。
「お疲れ様でした舞鶴さん。では次、36番、
「はひはっ、ひゃいっ!」
次に前に出たのは、なんかすっごいガチガチになってる女の子だ。
「だ、大丈夫ですか?」
「だだっ、大丈夫でしゅー……!」
明らかに大丈夫じゃなさそうだった。
あっちこっちに視線が
顔も真っ赤だぞ?
『ふむ、久世家もそれなりの家だったな。だがしばらく前に上級妖魔との戦いでひどい被害を被ったと聞いたが』
「あっ、はいぃ……。呪詛系の能力を使う妖魔で、当主のお父様も跡継ぎのお兄様も、寝たきりになっちゃいまして……。それで、へへ、なんか私に呪術師になって、金を稼いで来いって……へひぃ……」
どうしてこうなった、という具合に泣き笑うモモコさん。
めっちゃ大変な立場だなオイ。
「そ、そうですか。では久世モモコさん、アナタはどの技法がお得意で?」
「は、『反発強化』ですね。ていうかほぼこればっか鍛えさせられてきました。オンナは腹だけ守れるようにしてろって……」
「なっ、なるほど」
メガネさんの顔が気まずげになる。
彼は話題を変えるように「では開始しましょう」と言うと、再び呪符を取り出した。
そして、
「出でよ、岩石兵」
『ゴゴォーーーッ』
巨大岩の次に現れたのは、岩で出来た巨人だった。
「あめふとぶ……!(立派だなぁ)」
「西洋風に言うならゴーレムというヤツです。第一試験と違い、第二試験で『反発強化』を得意と言うなら、この巨人の一撃を受けてもらいます」
ってマジかよ。かなり危ないな。
「拳の勢いはそちらに選ばせてあげますよ。『触れる程度に殴る』か、『軽く小突く程度に殴る』か、『普通に殴る』か、『全力で殴る』か。どれかを選んでください。ちなみに四つ目を選んだ場合、死傷してもそちらの自己責任ということに……」
「あっ、あ、じゃあ『全力で殴る』でお願いします」
「って、えぇ?」
おいおい難易度ルナティック選択かよ。
メガネさんも戸惑ってるぞ?
「ど、どーせ私には『反発強化』しかありませんし、これで入院とか出来たら呪術師にならなくても済みますしぃ……!」
「そんぽじゃぱぁ(やばいなぁ)」
このモモコさんって子、かなりダメな方向に覚悟決めてんな。
「ふむ、入院では済まなそうな気がしますが……わかりました。では、岩石兵よ」
『ゴゴッーーー!』
拳を振り上げる岩の巨人。
そしてモモコさんの選択通り、ものっすごい勢いで彼女を殴るも、
「ぎゃーちょっといたぁい!」
『ゴゴォッ!?』
逆に、岩石兵の拳が砕け散った。
対するモモコさんは「タンコブできたー!」と頭抑えて転がってる程度だ。
いやそんなギャグみたいな結果で終わる威力じゃなかっただろ……!?
「うぅぅ……痛いけど怪我して嬉しい。では私、入院しますね。第二試験も失格ってことで」
「いえ、その程度では入院は無理ですね。あと普通に合格です」
「そんなーっ!?」
ガビーンッとショック受けてるモモコさん。
いやマジでなんなんだこの子?
『ほほほっ。流石は我がウタの呪力圧を耐えた面々。
「嫌ですぅーーーーーーっ!」
ギャンギャン喚くモモコさんと、その様子を楽しげに笑う爺さん。
なお陽キャっぽく見えた舞鶴マジリさんは、笑顔を浮かべながらも特に喋らず大人しくしていた。
「呪術師なんて無理ぃー……最近話題のゲロヤバ赤ちゃんもいるしぃ……!」
「どぶかす(誰がゲロヤバ赤ちゃんだコラ)」
酷い物言いである。
中身は普通に紳士赤ちゃんなんだが?
「こうなったら妖魔との戦いで即日怪我して……って、あれえぇとミズホさんでしたか? 地面にハンカチ敷いて、赤ちゃんを置いて……えっ、なんなんです!? どうして無言で手を掴んで来るんです!? なに!? え、“ウチのウタを馬鹿にしたから”? あっちょっ、さっきのはちがっ、ちょ、どこ引っ張っていくんですか!? ヘルプッヘルプッ! 呪術界の総統さんッ、事件が起きてますよーーーーーッ!?」
『儂の期待の
「そんなーーーーーーーっ!?」
ミズホに連れられどっかに消えるモモコさん。
まぁ女の子同士だし危ないことにはならんだろたぶん。
『さて試験を続けようかの。次は、ウタ以外で最後の』
「オレだ」
冷たそうな青年が前に出た。
まるで侍のような恰好をしているな。
ちなみに、俺を一瞬睨んできたヤツだったりする。
『ほほう。貴様は確か64番、
むむ、四条家とな。
それって俺がぶっ飛ばした四条イラガのおうちじゃないか。
てことはこの深谷くん、イラガの親戚?
「あぁそうだ……ゆえにオレは、そこのウタというガキが気に食わない! よくもイラガ師匠を倒してくれたな!?」
深谷くんの目がギンッと鋭くなる。
ひえーめっちゃ怒っとるー!?
「イラガ師匠は俺に呪術のいろはを教えてくれた、兄君のような人なんだ。そんな男らしいあの人がッ、お前なんかに負けるわけがない! きっと何かしたに決まってるっ! そんな卑怯赤ちゃんをみんなチヤホヤしやがって!?」
いやなんもしてないんだが。
普通に真正面から倒した紳士赤ちゃんなんだが?
「わたみ(てかイラガの野郎を尊敬してるヤツなんていたのかよ。世も末だな)」
「例の拡散動画は師匠がやられたタイミングで切られていた。あぁそれ以降、何度電話しても繋がらないんだ……一体あの人はどうなってしまったのか……っ」
頭をがじがじと掻く深谷くん。
マジで心配してるのね?
「くそっ、どんな手を使ったか知らんが、我が師に泥を塗った罪は重いぞッ!」
……ビシィと指さしてくる俺に因縁ありの深谷くんに、ミズホに連れ去られたまま未だに戻ってこないモモコさん。
そんな中、監督代行のメガネさんは「頼むから試験を進めさせてくれぇ~~~~!?」と懇願するように叫ぶのだった。
なんかごめんね~~~?
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